りんりんと愉快な仲間たち 2
「ただいまー」
おりさん早く帰らねぇかなって思ってたら、セツの声が玄関から聞こえて、いつもならお出迎えとかもなしにこっちに来るのを待ってるんだけど、おりさんがめんどくさすぎて、おりさんのアロハが眩しすぎて、俺はセツを出迎えに行った。
「おかえり。やっぱ混んでたな」
「ただいま、倫。うん、やっぱり混んでたー」
疲れたよーって言いながら靴を脱いであがるセツは、白いシャツに細身のGパン。
何度も言うが今は3月。
そして今日はイエティユキオのせいで昨日より寒い。
真冬の雪山でセツと初めて会った時も同じような恰好してたけど、おりさんと違ってTPOをわきまえてるセツは、一応上着を持って歩いていたりする。
家を出る時は一応羽織って行ったりもする。
歩いてるとすぐに暑いって言って、すぐに脱ぐけど。
今もきっと………俺的には寒いんだけど、雪女であるセツ的には暑いんだろう。
苦しかったーって取ったマスクの下の顔がちょっと上気してる。
肌が白いから、余計に赤く見える。
「どうだった?」
「やっぱり花粉症みたい。血液検査しますか?って聞かれたけど、とりあえず今日は時間ないからいいですって断ってきた。僕って血液検査しても大丈夫なのかなあ」
「………それは………。あ、おりさん来てるから聞いてみよう」
「え?織波来てるの?」
「うん。織波来てるよ」
おりさんがセツをよみがえらせてくれて、ついでにヒトである俺とは決して触れ合うことができないひんやり冷たい雪女体質を変えてくれて、ヒトとしての存在を与えてくれて、俺たちは今、一緒に暮らしてる。
最初はシャバでの暮らしを戸惑ってたセツだけど、今ではカフェでアルバイトも始めた。
ただ、体質改善の副作用なのか、セツはあったかくなってきたここ数日で、くしゃみ鼻水目のかゆみっていう、いかにもな『花粉症』の症状を訴え始めた。
目がかゆいよーって言いながら、豪快に鼻水を拭いていた。だからバイトが休みの今日は、朝から病院に行っていた。
そう、おりさんのおかげでセツは病院にも行ける。
1か月ぐらい前に効きすぎる暖房と外との温度差にセツがダウンして、おりさんに相談した。
じゃあ病院に行っても大丈夫にしとくかっておりさんは指をパチンってした。
何をどうしたらそうなるのか、保険証までくれた。
だから今回も行こうって。
とはいえ、セツは雪女。
行き先は病院。
セツが心配で心配で、俺も一緒に行くよって言ったのに、前回はオッケーもらったのに、今回は断られた。
前の時は熱だったから一緒に行ってもそんなにおかしくなかったかもしれないけど、今回は熱じゃないからね?いい大人が付き添ってもらって耳鼻科っておかしいでしょ?って。
やっぱりTPOをわきまえてるセツに言われて、だから俺は留守番をしてたんだよ。
してたのに。おりさんが来てな。
「目薬もらったか?」
「うん、もらった」
「じゃあ、しとこ。手洗いうがいしたら、やろ」
「………僕目薬ってやったことない」
セツは雪女で、今までそんなのとは無縁だったらしい。確かに雪女が病院なんて聞いたことないわ。
こないだ薬飲むのも初めてって言ってたもんな。
俺のために。
俺のために、俺のせいで。
「倫、やってくれる?」
ごめんって思って、ちょっと俯いた俺を覗き込むセツが、キレイにキレイに笑う。笑ってる。
セツは、何も言わない。
雪山で遭難した俺を世話してくれた時も。
俺の体温で火傷してるのに、こんな風に笑って。俺のせいで消える時も。
今だって、俺のために体質改善なんてしなければ。
「倫?どうしたの?お腹すいちゃった?」
くふふふって、笑う。
笑って。
はっくしょん‼︎
キレイな顔に似合わず豪快にくしゃみをした。
「あ"」
はなみずー。
きゃはははは。
ティッシュティッシュって部屋に入ってくセツの背中に、ごめんって思わず呟いた。
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