第20話✳︎本編最終話
織波の指の合図で俺の目の前に現れたと思われるセツは、消えた時と同じ白いシャツにGパン姿だった。
ぼんやりと立っていて、そして。
焦点が合わなかった目が、俺を、とらえた。
「倫?」
「………セツ。………セツ‼︎」
「倫‼︎」
思わず抱き締めた。
力一杯抱き締めた。
セツだ。本当にセツが居る。確かに。俺の腕の中に。
好きだと認識した時には叶わぬ恋だった。
だから嬉しくて。嬉しくて。
また、涙が溢れた。
織波ありがとうって、思った。
「………ねぇ、倫。僕に何かした?」
「何かって?」
あんまり抱き締めていたらダメだ。セツが火傷するって身体を離したら、セツがまだちょっとぼんやりと不思議そうに俺を見て、でも穏やかに笑って、その白い指で涙を拭ってくれた。
何かした?って、織波が消えたセツを蘇らせたんだよ。
「織波が」
「………うん、そうなんだけど、そうじゃなくて」
「え?」
ふわりとセツが、俺の首に腕を絡めた。
ダメだろって、離れようとするけど、離してくれない。
「ほら、倫に触れても、熱くない」
「………え?」
「熱くないし、痛くないよ。ほら赤くならない」
セツを見ると確かにそうだった。
俺に触れた手は赤くなかった。俺に触れた頬も。
全然、で。
「………うそ」
「ほんとだよ。倫は?僕冷たい?」
聞かれて、改めて触れてみた。
セツの頬に、そっと。
透き通ってしまいそうなほどの、白い肌。
手で、てのひらで、触れた。
「………冷たく、ない」
信じられない。
けど。本当で。
「………倫」
「セツ」
「倫‼︎」
「セツ‼︎」
嬉しくなって、どうにも気持ちが抑えきれなくて、俺はセツと抱き合った。
セツ。
セツに触れられる。
もう二度と会えないと思ったセツに会えて、触れらないはずのセツに触れられるようになった。
織波は本当に神さまなのかもしれないって、この時俺は初めて思った。
「………セツ」
抱き締めて。
溢れてくる想いをそのまま。
「セツが好きだ。好きだよ」
「………倫」
伝えた。
額を合わせて、頬を両手で包んだ。
セツの黒いキレイな双眸からは、涙が溢れた。
「泣くな。またあんな風に消えられたら、俺………」
「………うん。でも、嬉しくて止まらない」
ふふって笑ってセツは目を伏せた。
ぱたぱたって落ちた涙が、キレイだった。
白い肌。黒い髪。黒い双眸の。キレイなキレイなセツは………雪女。男だけど。
「キスして、いい?」
「………うん」
俺の唇で触れたセツの唇は、冷たくなかった。
嬉しくて。好きって気持ちがもう抑えきれなくて。
俺はセツを思う存分、思う存っ分。俺のものにした。
セツは織波によって多少体質改善?されたらしく、わりと普通に生活ができるようになっていた。
弟のユキオも実は織波によってそうなっていたらしい。
………とは言え、ユキオは織波のキスがなければもふもふのイエティ姿のままらしい、けど。
昔話の雪女の恋は叶わずに終わった悲しい話だった。
………でも、俺は。
隣に座ってテレビを見ているセツを、横から抱き締めた。
「倫?」
「もう絶対消えんなよ」
「………うん」
人間と雪女、だから。
まだそれなりにきっと問題はあるけれど。
セツが居てくれるならそれでいい。
セツとキスをしながら、手に入れた幸せを噛みしめた。
おしまい
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