第7話
何じゃこりゃあああああって、俺は、イエティと人間のキスをプチパニックで見てた。
セツはやれやれって感じで漆黒の髪をくしゃくしゃしてた。
イエティとキス。イエティとキス。イエティとキス………。
………金積まれても俺にはできねぇ。
「………え?」
ナニ。
何なの。
ユキオって男の優しい声。
もう一度キス。
で。
イエティが。
イエティが。
イエティがっ………。
雪女に、なった。
何かが剥がれ落ちていくみたいに、はらはらとあらわれたのは、セツと同じように真っ白な素肌と、漆黒の髪。
イエティが弟ってのは信じられないけれど、イエティが剥がれてあらわれたコイツが弟って言うなら超納得。
キレイ、だ。
キレイ。セツと似てるっちゃ似てる。
けど。
だけども。
雪『女』じゃ、ねぇ。
立派なブツがついてる、ぶらぶらしてる。え、俺より立派じゃね?
って、俺よりかどうかは置いといて、そうじゃんそもそも『弟』っつってんじゃん。じゃあ何だ。何て言えばいいんだ。
「おい、そこのお前。おれのユキオをやらしい目でジロジロ見んな」
「え⁉︎は⁉︎俺⁉︎つか見てねぇし‼︎」
いくらキレイだからって同性の身体見てやらしい目でって何だよ。
しかも初対面の大人に、だぜ。コイツ、このガキなかなか失礼なヤツだな。まだ10代だろ、多分。
どうせ見るならな、どうせ見るなら。
どうせ見るなら、セツの裸のがいいに決まってる‼︎
って。待て。
セツも、男か。俺をひょいって軽々持ち上げたぐらいだ。それで女ってありえない。
………いや、男?ほんとに?こんなキレイなのに?
ちらって、セツを盗み見る。
本当に、男?これが?これで?この顔で?
女にしちゃスレンダーだと常々思ってはいたけれどって、べべべ別にセツの胸ばっか見てたわけじゃねぇぞ。
………落ち着け。俺は一体誰に言い訳をしてるんだ。
つまりだ。
セツはどうもイマイチ、キレイ過ぎて性別が分からないってことだ。
「ユキオ。遅くなって悪い。ごめん。ほら向こう行こう。ここ何か暑い。こんなところに居たらお前倒れるぞ」
「ん、暑い。けど………。ねぇ、兄さんソイツ人間でしょ?大丈夫なの?」
俺の視界から遮るように、季節感クレイジー男がユキオってヤツを抱き込んでる。抱き込んで、その白い首筋に顔を埋めてキスしてる。
もしかしてだけど、ユキオって雪男って書くのか?だとしたらまんまだな、兄弟揃ってまんまな名前だな。『
それにしても………すっげぇ目の毒なんだけど………何なのコイツ。コイツら。
「あ、ちょっと兄さん‼︎手‼︎火傷してんじゃん‼︎」
弟は弟でそんな季節感クレイジー男はお構いなしにセツにぎゃあぎゃあ。
ソイツ人間でしょって、やっぱり俺のことだよな?
じゃあセツは一体何だって言うんだ。イエティか?イエティなのか?
って、………手。
そうだ。セツの手。赤く焼け爛れて。もう、ひどくて。なのにセツは何の躊躇いもなく俺に触るんだ。俺が絶対、原因なのに。
何でだよって。
何で、そこまで。
セツの淡くてキレイな笑みに、胸がぎゅって、なる。
「織波、兄さんの手、治して」
「セツの?いいけど………。治したら速攻やるかんな」
「………治さなくてもやるだろ。ていうかやれ。3日もやってねぇんだ。はちきれるわ」
「ごめんな。来るの遅くなったから、いつもの3倍は良くしてやるから。だから機嫌直せ」
「………3倍な。絶対だ。じゃないと許さねぇ」
「お前が好きなのフルコースでやってやる。早くアッチ行くぞ。ほらセツ、手出せ」
………だから、な?
キスすんなよ。キスしながら喋んなよ。んでもって生々しい話すんなよ。ユキオってやつがキレイ過ぎていくら男って分かってても頭ん中で妄想が炸裂するっての。
セツの手は心配だわ心苦しいわ、でもエロ炸裂だわで、俺はどうしていいかもう正直分からない。
男は差し出したセツの両手に向かってパチンって指を鳴らした。
それだけ、だった。
「行くぞ、ユキオ」
「ん………。兄さん、もうソイツに触っちゃダメだよ」
「ありがとう、ユキオ、織波」
パタン。
ドアが閉まる。
信じられないことに、セツの焼け爛れた手は、キレイに治っていた。
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