第2話 喫茶店まりる
慣れない学校指定のサンダルから彼女が持参してきた。今の時代の柳永のものらしい28センチのシューズに履き替え公園を後にする。
そしてその足で着いたのは木目の看板に可愛らしくデフォルトされた喫茶店まりると書かれた喫茶店のようだった。
ここに来るまでは慣れない電車とバスにのり1時間程で着いた。
この時間に制服でで歩くのが珍しいのか周りの視線が気になったが、シャルに早帰りの時もあるからと言われて多少気負いをしたが未来の世界では右も左も分からず彼女に着いていくしかないため、諦めていた。
だが視線は自分ではなく、途中から彼女の美しさに他の人が目を惹かれてのことだと気づいた。
(僕が大人になったらこんな綺麗な女性を彼女にできるのかな?)という子どもながらの単純な嬉しさと、彼女から聞く自分の話しでは、彼女と付き合うのは簡単なことではなく過程を沢山踏んでいることを知った。
「うんっ最初のダーリンの愛の告白には戸惑ったよ?いきなり教室にきてだもん!私こう見えて根暗でさ今もコンタクトつけてるんだけどメガネの地味っ子だったんだよっ」
今の笑顔で出会った頃の馴れ初めを話す彼女を見ても嘘でしょ?と言いたくなるような明るい性格や容姿、表情から自分に自信さえ感じる彼女の話に耳を傾ける。
「しかも転勤族!友達できてもすぐお別れであの時ケータイなんてお互い持ってる年齢じゃないからさどんどん自分の中にこもってだと思うっだからあの時ダーリンが私に会いに来た時は嬉しかった」
何かを思い出すように看板を見つめる彼女を横目に見つつ、先ほどより表情が陰りを見せる。
「今にして思うと運命なんだろうね、この場所もそうだし、そういうことなんだよね……さ入ろうっ」
何か含んだ言い方をしている彼女に気づいたが、彼女は自分に言い聞かせて納得させているように感じ、疑問は口に出さず彼女の後に着いていき席に着いた。
「いらっしゃいませっご注文が決まりましたらお呼びください」
手慣れた手つきでメニュー表とお冷やを置いてお辞儀をして戻るスタッフ。
「さーここなら学校は遠いし、家は近いし立地は最高っ。さーてとっゆっくりこれからのことだったり分からないことだったり、不安なこと話そ?溜め込んでるのが一番悪いからねっあ!これはダーリンの受け売りねっ」
「あ、あの?」
今届いたお冷を手に持つが、場の雰囲気、目の前の綺麗な大人の人、未来に来たことをこれから聞かされるからなのか緊張で手が震える。
「うん?トイレならそこ曲がってすぐのところだよ?お金の心配なら大丈夫!私が奢るからさっ」
「う、うんそうなんだけど……こういう雰囲氣のところ初めてで……何頼んでいいかな?と思って」
彼女はそんな自分に気づかない様子で、淡々と話を続ける。少し天然なのか空気が読めない人なのではと、子どもながらにして感じた。
そんなことをつゆ知らず彼女は笑いながら、言葉を続ける。
「それならメロンパフェがオススメっドリンクはレモンティーでしょ?」
「これ、高いよ2800円もするよ?!」
メニュー表を見るがそれだけ特出して値段が張っていた。
「パフェだから普通じゃないの?パフェてパーフェクトて意味だよ?それがたった2800円しかもメロンの中に贅沢に果物、アイスその他もろもろがふんだんに使われてるの!食べなきゃそん!奢りなんだから気負いにしないのっ」
「気負いするよ……そんな高いの……」
「ここにきた時の私みたいっなんだか懐かしいなそれじゃ2人で食べようっ昔ダーリンに奢ってもらったお返しまだできてないからっ」
「うん……」
素直に高額な値段のものを奢られようとして困惑しないはずがなかった。
そんな彼を見かねてか、シャルがある提案をする。
「じゃあさ私のダイエットに付き合ってよ?ダーリンみたいに運動してるわけじゃないから手伝って!この通りお願いっ」
「うんっそれなら」
手伝ってと言われそれならと、なるべく元気に返事を返す。
だが心の中に秘めている不安や申し訳なさは未だに消しきれないでいた。
「ありがとうダーリンっ」
それから手際良く定員さんに注文を済ませて先にドリンクが届いた。柳永の前にレモンティー、彼女の前にタピオカドリンクが置かれる。
彼女が飲んでいるその不思議なものに目を奪われていると、その視線に気付いたのか柳永の目の前にドリンクを差し出し。
「ダーリンも飲む?流行ってるんだよタピオカ?」
「え?この黒いやつ苦くないの?」
「これがタピオカ、これはミルクティーだから甘くて美味しいよっはいどうぞっ」
彼女に差し出されるまま受け取る。
もちろん黒いタピオカなるものも気になったが何より、これは間接キス的なものではないかとドギマギする。
同じクラスの女子相手には意識したことがないが、目の前の魅力的な大人の女性との間接キスとなると別の話で視界に彼女の艶のある淡いピンク色の唇に集中してしまう。
「どうしたの?飲まないの?なんか顔赤いよダーリン?」
何かを察したように、こちらを見つめる彼女を、照れ臭くて直視出来ずそっぽを向く。
「あーさては間接キスとか思ってるの?大丈夫だよだって私たちカレカノで将来も誓い合った中だものっ」
「それでもごめんお姉ちゃんっー!僕レモンティー飲むから大丈夫!」
「うーんまだ早かったかな?ごめんねそうだよね、柳永くんにとっては初めてだから大切にしないとね。でも私も寂しがり屋だから待ってるけど、待たせすぎると奪っちゃうからね?」
「う、うんよく分からないけどその時は優しくしてね?」
「ぶーごほごほっ破壊力やばい、ホテル行く?行くしかないよね……財布にいくら残ってたっけ、いやでもダーリンから聞いてないから行ってないはず……でもここで未来を変える?でもそしたら女たらしのダーリンがどこぞの小説みたいにハーレム化して……さらに紐でクズ男に……ダメだ堪えて私」
彼女は口を拭きつつ何か呪文を唱えていたが柳永の耳には届いてなかった。
「さ、話を変えてこれからの方針話すね?
難しいと覚えられないかも知れないからまず第1にダーリンには!記憶喪失てことで方針を貫いてもらいますっ」
「記憶喪失?」
「そ!記憶喪失っダーリンの現状にはピッタリでしょ?5年分の記憶がないのと一緒だから私からもご家族に説明するね!ダーリンも下準備でほらRainみて?」
見せられた、小さいテレビのようなものを見るとチャット欄に「エル昨日のランニング中頭強く打ったみたいでなんか変なんだ」と書かれていた。
「これも見せて説明もして、後今朝も演技するって言ってたから大丈夫だと思うのそれで私が心配で駆けつけたてことにすればとりあえず家族は大丈夫かな?問題は学校なんだけど自分で言えそう?無理そうなら家族に頼んでね?」
「え?お姉ちゃんいないの?」
「うんっ私ダーリンより一つ年上だし、中央女子校だから学校も違うのっ、だからね、いつでも…は、いてあげれないんだごめんね勉強頑張って教えてくれたのにダーリンに言われた通りインフルエンザになって受けられなかったのずっと家にいてマスクしてたのに……はぁあ」
「うん、わかったみっちゃんもいたし事情伝えてみる。」
「月見 美玲ちゃんか……運がいいよねダーリンと同じクラスとか……アリスも受かるし……私だけ除けものだよ……なんでおんなじ年齢じゃないんだろう…」
「アリスて?誰?」
「あ!ごめんねアリスは私の妹なのっ妹だからってあまり近づかなくいで大丈夫だからね?危険人物だから。
後美玲ちゃんにも記憶喪失伝えて変なこといってきても間に受けないようにね?」
「うん?とりあえずわかったよ?」
全然わからないが、アリスのことを語るシャルの目は鋭く細くなり危険人物という単語から近寄らない方がいいことはわかった。
「うん!素直でえらいね!これは伸び代しかないよ色んなもの吸収できそう。」
「それで次がサッカー!部活に入ってるんたけど多分技術的には敵わないと思うの!でね家に練習することまとめたノートあるらしいからそれ見てだって後必ず朝のランニングはすること、部活で怒られたら走ってきます!て言ってひたすら走るようにって!詳しいことはわかんないけどメンタルなら負けない負けるようじゃ憧れになれないて伝えといてだって」
「で!次が勉強ね!英語はやってたみたいだから文法とか私教えるね。社会、世界史は暗記!数学は、あ、数学は算数ね?公式てのがあるんだけどそれを暗記して問題と答えを見て解いてみようね国語とかは……厳しいか、とりあえず30点取ればいいからね!」
「取らないとどうなるの?……」
「取らないとね留年するの……もう一回1年生てことだよ」
「え?もう一回……それは嫌だな……でもできるかな5年分勉強遅れてるのに……」
「暗い顔しないの!大丈夫!お姉ちゃんいるし記憶喪失貫き通せば!ダーリンも留年はなんとか回避したって暗い顔で言ってたけど……なんとかなるよ!」
「サッカーも勉強もできるのかな……」
「できるよ!絶対できる!自信を持ってダーリンなら大丈夫!辛い時は私流だけど鏡で自分を見つめて心を落ち着かせるの本当に投げ出したくて辛い時は鏡も見れないから」
「わかった……」
「お待たせしましたご注文のメロンパフェです」
ちょうど良いタイミングで定員が来てメロンパフェが目の前に置かれる。
「(おおっ)」
思わず声を出したのは、3分の2に切られたメロンの中に大きなアイスのタワーと装飾されたポッキーなどのお菓子、周りを彩るかのようにさまざまな果物が綺麗な宝石のように散りばめられている。
「後これは私の持論ねっ甘いものはJusticeだから暗い気持ちなんて飛んでくほど美味しいよ!コレ!」
目の前のパフェより、錯覚ではなく輝く笑顔で彼女はそう答える。
これから先不安しかないがその笑顔を見ていると何か体から力が湧いてくるような気がした。
自分をどこまでも信じてくれる目の前のシャルの名乗る彼女はそんな不安を消すような眩しい太陽の如く終始素敵な笑顔だった。
「いやー!美味しかったね!さぁダーリンの家に行こうかっ」
「やっぱり怖いや……」
「そっか……だよね……」
喫茶店まりるを、後にし自分が知った道を歩くが、視点が違うためか違う道に見える。あんなに高かった道路の外壁も自分より低く、その先まで見える。今一体身長は幾つになっているのだろう。夢の海外選手のように大きな身長になるのが夢だったが今は怖さも感じる。
色んな不安が込み上げ頬を涙が伝うと同時に誰かの指がその涙を伝う。
「静かに泣くのは小さい時から変わらないんだね、大丈夫だよ私がついてるからあなたがしてくれたように今度は私がどんな時でも近くにいるから」
気づくと家の目の前で、涙が溢れ大粒の涙が溢れ彼女に抱きしめられていた。
「大丈夫だよ、大丈夫。怖いよね。わからなくて苦しいよね」
「あ、おにい!心配したんだよ!学校飛び出したってお母さんに連絡きてって……なんで泣いてるの?あ、シャルさんこんばんは」
家の玄関に灯りがつくとともに女の人の声が聞こえる。霞んだ目で滲んで見ずらいがツインテールの髪型に、ハッキリとした目元、幼さを残す容姿だが成長した妹の明香里だと気づく。当時一つしただったため今は中学3年生になっているはずだった。
「こんばんは明香里ちゃんごめんね事情話すから私も上がっていいかな?」
「はい、いいですけど……大丈夫おにい?」
「あ、ありがとう?明香里なのか?」
「そうだけど、なんか変だよおにい……もしかしてフラれたの?」
「そこも含めて話すね?楓さんいるかな?」
そのままリビングに通されて、見慣れた部屋の中の見たこともないソファーに座る。ここ最近で買った物だと思った。
「はい、シャルさんお茶どうぞ」
「ありがとうございます楓さん」
ソファーに着いた頃には泣き止んでおり、顔を上げる。そこには母親がいた。5年で変わったところは少しシワが増えたくらいで他は変化がなく安心した。
「ママ……ママ……」
姿が変わっていない安心感か思わず抱きついてしまった。高校生に抱きつかれてママ呼ばわりされて困惑しているがなだめるかのようにシャルとは違う優しい感触で頭を撫で落ち着かせようとしてくれる。
「どうしたのかしら?柳永はずっと頑張ってたから疲れたの?ママなんて何年ぶりかしらね大きくなって」
「おにい引くわ……お母さんのことママとかまるで昔みたいじゃん……て寝てるし」
「ちょっと運べないわね、毛布持ってくるから戻ってきたらお話し聞かせてもらえるかしら?」
「はい、楓さんそのために来ましたので」
「ごめんねこんな子で手がかからなくなったと思ったらこれなんだからもう……」
そのまま寝室に行き、スゥースゥーと寝息を立てている柳永に毛布をかける。席に着いたのを見てシャルは事情を説明した。
「柳永が記憶喪失……ねぇ一部だけでここ5年間のことは覚えてなさそうなの……」
「はい、先日もRainでこのような連絡が来てました」
それからRainを見せたら、事前に柳永と打ち合わせしていた内容を含めてシャルは2人に懸命に説明した。
「おにいがそんな……今朝も変だったけど」
「何か違和感はあるけど、とりあえず今から病院に連れて行きます、今度またお話しをお聞きしますねシャルさん?でも今日は遅いからシャルさんは気をつけて帰ってもらってもいいですか?」
「はい私は大丈夫です」
「よかったよおにいフラれたわけじゃなくて」
「明香里?不謹慎よ?何かあったら大変なのすぐ準備して、それともお留守番する?」
頭を打ったとのことで念の為検査を受けに行くのだろう……誠さんは出張中でいない様子で付き添いはできないとのことだったが、楓さんが連絡していた。
病院で診断をもらえば学校でも多少の融通は効くはず。実際にここ5年間私と過ごした日々を覚えていないのだから。その他もだが、自分を優先に考えてしまう自分が気持ち悪く、女々しくも感じた。たがすぐに思考を変える。今は自分より彼のこと、これは決まっていたこと確かに彼の言う通り5月31日に彼は過去から未来にきた。そして彼から彼を託された。
私は彼に助けられた、沢山のものをもらった。それを今度は返す番がきた。やっと恩返しをする時が。
「「やりたくてやってんだよっ気にすんなって返したいなら高校1年の5月31日、それからの1年間だけ俺への思いを伝えてやってくれ、なんでて?その内話すよ」」
もらいすぎて何か返したいと彼に言った時の返答、最初なんでそこまで明確に指定してくるのかわからなかった、彼に捨てられるのではないか、彼はどこか達観していたから何か良くないことが起きるのではないかと不安がその時は込み上げた。
彼は人をよく見ているためそれきり言わなくなったが、つい先月から私に過去から自分の魂がくるから頼むと言われたのだ。
私だっていきなりすぎて心が追いつかないが、実際に5年前からきた彼はそれ以上に苦しんでいた。
今日一日を通しても、それは明白であった。それ以外にも彼と行った喫茶店は、過去に彼が連れて行ってくれた場所であり、私の過去と繋がると同時に思い出が込み上げて心が震えた、あの時の彼はこのような気持ちだったのかと‥‥そして私が私をここに連れてきたのだと。ならばやることは決まっていた。彼との思い出の場所そこへ連れて行くのが、過去の私を救うことにも繋がっていることに気づいた。
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