異世界と桃太郎と十の鬼

鉄生 裕

『宣戦布告』編

「大変です!これを見てください」


スマホの画面をこちらに向けながら、青鬼は慌てた様子でそう言った。


『おい、赤鬼。これを見てるか?三日後、俺は鬼ヶ島に上陸する。ここにいる五百の兵と共にな。逃げることは許さんぞ。せいぜい覚悟して待つんだな』


スマホの画面に映っていたのは、“奴”だった。


「なんだこれ?」


赤鬼は青鬼に聞いた。


「奴からの宣戦布告ですよ。先程、SNSにアップされたばかりです」


「こんなの無視しておけばいいだろ」


「無視なんてできるわけがないじゃないですか。見てください、もうこんなにイイネが押されている。國中の人々がこの動画を見ているってことです。無視なんかしたら、僕たちは臆病者のレッテルを貼られ、國中から馬鹿にされる」


「クソッ。この鬼ヶ島でアイツを迎え討つ以外に方法はないってことか」


「迎え討つって・・・。そんな簡単に言いますけど、これをよく見てください。

アイツの後ろに映っている三人ですよ。

●北ノ國を治める、“イヌ目イヌ科隊”大将の『白狼(ホワイトウルフ)』

●西ノ國を治める、“霊長目ヒト科隊”大将の『山大猩猩(マウンテンゴリラ)』

●東ノ國を治める、“タカ目タカ科隊”大将の『扇鷲(オウギワシ)』

三人とも各々が広大な土地を治めている、最強の武将と呼ばれる人物達ですよ」


「・・・マジか。そんなに強いの?」


「それはもう、物凄く強いです。しかも、これだけじゃないんです」


「え?まだ何かあるの?」


「アイツが腰に差している刀を見てください。これ、妖刀“村正”じゃないですか?」


「ヤバ。マジで村正じゃん。さすがにこれはマズいでしょ」


「対して僕らは赤鬼さんと僕の二人だけ。どう頑張ったって、僕らの負け戦じゃないですか。生き残っている鬼は僕と赤鬼さんの二人だけだし、鬼の僕らに協力してくれる人なんてこの國にはいないですよ。どうしましょう赤鬼さん」


すると赤鬼は、『宝箱』と書かれた大きな箱から分厚い本を取り出した。


「赤鬼さん、それは何ですか?」


「アイツに勝つにはもうこれしかないな。これは『日本國神話(ヒノモトノクニノシンワ)』といって、この中には様々な摩訶不思議な國が詰まっているんだ。そして、どの國にも俺たちのようなヴィランが存在する。今から俺は十の國へ行き、それぞれの國から最強のヴィランをここへ連れてくる。俺は、十の國のヴィランの総大将となり、桃太郎の奴をぶっ殺す」


「そんな事、本当にできるんですか?」


「わからないが、奴に勝てる方法はもうこれしかないだろう。そうと決まれば、さっそく最初の國へ行くぞ。・・・よし、ここにしよう。一番初めの國は、『浦島の國』だ」


本の中に吸い込まれた赤鬼と青鬼が辿り着いたのは、“竜宮”と呼ばれる大きな城だった。


「赤鬼さん、ここにはどんなヴィランがいるんですか?」


「俺は昔に一度だけ会ったことがあってな。彼女は、“白い魔女”とそう呼ばれている」

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