第11話 香りつけにはミントが最適!
大きな馬車だったが、中はたしかにぎっしりだった。
奴隷の子ら5人、パージマル卿、その新妻、ランパ、ユウジ、スバル、元からいた護衛2人。
あとは馬の上に乗ってるひとりで、計13人での旅路となった。
アッちゃんが持たせてくれた軽食をつまみながら、一同は東へ進む。
タージマル卿は、王都では有名な慈善事業家なのだという。掘れば掘るほど聖人のエピソードが出てきて、どんどんスバルの暴力事件のことの重大さが判明していく。
「ここだけの話、たぶん勘当された理由の1〜2割はタージマル卿への暴力だからなぁ」
休憩中、スバルは白状した。
ユウジはほんとは理由の3〜4割だろうと推察した。
川に寄った時、子供たちとしばらく遊んだ。
水遊びはいつの世代にも通じる子供にバカ受けの行楽なのである。
意外なことに、いちばんはしゃいでいたのが、ふだん物静かなランパだった。
白いワンピースを濡らしながら、川に流れる魚をばっさばっさと鷲掴んでいく。
時には、ぬるぬるした魚の腹を的確に掴むと、ぐっと力を加えて魚の目から血を絞り出すなど、野生が抑えきれなくなっていた。
びしょ濡れで馬車に帰ったランパは語る。
「……獣人は獣の本能が刻まれた一族なのです。狩猟本能が根強くて……みっともないところをすみません」
「いやいや!めっちゃ魚とれてよかったぜ!食べ盛りがたくさんいるんだ、街で用意してた食料じゃ足りねえよ!」
スバルはランパを褒め称える。
「……ありがとうございます」
ランパは認められて、少し顔を赤くした。
パージマル卿の新妻は、ミントを添えた焼き魚を頬張り、にこやかになった。
「これは芳しくとても美味しいですね。川魚大好きなんですよ」
「はっはっは、そうかそうか。王都にも美しい小川が流れる。たまにお忍びで釣りにでも出かけよう」
新婚二人は幸せそうだった。
子供たちは美味しそうに魚を食べ、遊び疲れたこともあって満足そうに眠りについた。
夜の護衛は後退でやることになった。
最初はユウジが担当する。
「夜風寒いなぁ…うーんミントティーは清涼感は味わえるけど冬とかあったまるにはもっと……生姜とかあったらいいな」
肌をさすりながら、独り言をつぶやく。
静けさのある夜に、ユウジは回想する。
転生してからずっと引きこもってばかりいた自分が、まさかこんなにアクティブになるとは思いもよらなかった。
やはりスバルとの出会いは大きかった。
このあと王都で罪をまぬがれたら、いっしょに魔王を倒すまでついてきてくれるだろうか。
ユウジはスバルと離れたくなくなっていた。
ユウジが見張りをしている間、寝床に魔物は計23体現れたが、そのすべてはミントを心臓に生やすことで倒した。
やがて交代にきたランパは、周囲が魔物の死骸だらけで、短く悲鳴を上げた。
「でもあんまり死体の匂いはしないでしょ?」
「たしかに…?」
「ミントの香りのおかげだよ」
ユウジはそう言って寝床に戻った。
なお、ランパが見張りのときはまったく魔物が現れず、拍子抜けしたという。
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