小話:もしもの設定があったなら~もし、本編に逆ハーレム設定があったなら~逆ハーとその外側にて(キソラ編)


○もし、本編に逆ハーレム設定があったなら~逆ハーとその外側にて(キソラ編)


「キソラ」

「エターナル」

「キソラちゃん」

「キソラさん」


 生徒会所属の後輩を除く、生徒会役員たちが声を掛けてくる。


「……」


 何か言おうと思って、キソラが口を開こうとすれば、新たな人物が姿を見せる。


「お前ら、こんなところで何をしてるんだ。他の生徒たちの邪魔だろうが」

「そう言う風紀委員長は何しに来たの? まさか、彼女に会いに来た訳じゃないでしょ?」

「当たり前だ」


 生徒会長――フェルゼナートにそう言いながらも、目を逸らす風紀委員長――ラスティーゼ。

 説得力が無い。


「――とりあえず、全員邪魔なので、どこかへ行ってください」


 これで散るなら苦労はしないが、散らないのだから、頭が痛い。


「そんな冷たいこと、言わないでよ」

「フィール。実はお前が一番避けられてるって、分かっているのか?」

「えー?」


 確かに、このメンバーの中では、書記である彼を一番避けてはいるが、仮にもライバルであろうによく見ていらっしゃる――いや、ライバルだからこそ、見ているのだろう。

 けれど、このままでは授業に遅刻してしまう。


(よし、逃げよう)


 透明化と気配を魔法で消して、その場を離脱する。

 その事に、彼らは予鈴が鳴ってから気付くことだろう。


「大変ね、モテる子は」

「こんなモテ期はいらない。第一、本命のいないハーレムや逆ハーレムなんて、嬉しくないと思うけど?」

「あー、そう言われると確かにねぇ」

「誰かと二人っきりで話そうものなら、休日だろうと彼らに邪魔されそうだし」


 友人たちの言葉に、キソラは溜め息を吐く。

 特に彼らに好かれるような言動をした覚えはないのだが、何がどう彼らにあんな行動をさせているのだろうか。


「というか、あの人たち、キソラの好みのタイプを知ってるの?」

「あの様子じゃ、知らないんじゃない? キソラがあのメンバー以外じゃない、他に好きな人が居ることも」


 それを思うと、何だか彼らが可哀想になってくるが、それが誰なのかを誰一人教えるつもりはない。教えたら教えたで、相手の人物に迷惑が掛かりかねないからだ。


「ま、時間が解決してはくれると思うけど、クラスメイトのみんなが協力してくれているだけマシだよね」


 普通なら、クラスメイトたちからも嫉妬されそうだが、キソラに実は好きな人がいると知っているためか、生徒会役員たちを教室に入れないなどといった、割と協力的な人たちの方が多い(というか、こいつら引っ付けようぜ的な行動をする派の方が多いため、反逆ハー派が積極的に動いていたりする)。


「けど、本人に誤解されてないのは今のところ良いとして、少なからずこの件に自分は無関係だと思ってはいるみたいだから、そろそろ本気で告白しに行ったら?」


 じゃないと気づいてもらえないわよ、と指摘されてしまえば、キソラは唸る。


「う~……」

「でも、実行するにしても、やっぱり邪魔してきそう」

「そうよね。特にキソラからの告白だと分かったら、尚更」


 友人たちが揃って溜め息を吐く。


「――める?」

「そうね。まあ、それは最終手段だけど」


 何やら物騒な空気を放つ友人たちを見て、キソラは溜め息を吐くのだった。

 とはいえ――


「何でっ……! 何で、あんたみたいな平民がっ……!」


 彼らが絡んできている以上、彼らのファンとかから恨まれているのは知っていたが、まさか、物理的な実力行使で来るとは思わなかった。

 ただ、キソラのことを空間魔導師だと知っているのかどうかはともかく、彼女たち・・の学年が同学年であることは明らかであり、内部生なら大半がキソラのことは知っているから、恐らくは外部生。


(しかも、今の言い方から察するに、貴族のお嬢様)


 面倒くさいこと、この上ない。

 まあ、空間魔導師だと言っても、信じてもらえないだろうから言うつもりはないが、さて、この状況をどう打破するべきか。

 生徒会か風紀委員の誰かに来てもらった方が、彼女たちに一番効果がありそうだが、そうすると心配と言う名目の、こちらへの被害も強くなる。


「……」


 だが、せっかく友人たちやクラスメイトたちの協力もあって、こちらから呼び出したというのに、本当、彼には申し訳ないと思う。

 一番穏便に、状況をどうにかしてくれるであろう彼を思いつつ、キソラは目の前の彼女たちに口を開く。


「言いたいことは、それだけ?」

「なっ……!?」

「こんなことして、万が一にでも見つかって不利なのは、私をこの場に連れてきた貴女たちだと言うのに」


 いくら彼女たちがキソラが悪いと訴えても、状況的には彼女たちの方が不利である。


「だから、さっさと解散しない?」

「っ、うるさい! あんたが、今後もこうなりたくなければ、あの人たちから離れていれば良いのよ!」

「離れたくても、向こうから寄ってくるのにどうしろと? 私はもう、本人たちに何度も言ったんだけど」

「はっ、どうだか。本当は『一緒にいてぇ?』とか言ったんじゃないの?」


 風紀委員の彼女のような言い方をするタイプならともかく、キソラみたいなのが、本当にそんなこと言うようなタイプに見えるのか。いな、見えるはずがない。彼女の性格は、こびを売るタイプとは真逆なのだから。


「もし、それが違うなら、どうやってあの方たちに取り入ったの?」

「見た目に似合わず、身体を売ったって? 嫌だわぁ」


 クスクス、と彼女たちはわらうが、キソラは逆に表情がどんどん無くなっていく。


 ――ああもう、本当に何で……


「ハッ! 貴女たちさ。いくら何でも、好きでもない奴相手に身体を売るとか、そういう職業でもないのに有り得なくない?」

「ようやく、本性をあらわしたわね!」

「じゃあ、聞くけどさ。好きな人本命がいるのに、何で他人から自分に好意を向けさせようとしないといけないわけ?」


 友人たちの言う通り、今の所は誤解されていないとはいえ――何故、自分から好きな人に誤解されるであろう真似をしなくてはならないのだ。


「そんなこと、信じると思う?」

「信じる信じないは自由だけど、ここまで貴女たちに無理やり連れてこられたせいで、その人を待たせっぱなしなんだよね」


 せっかく言うと決めたのに、彼女たちのせいでテンションも覚悟も無くなってしまった。協力してくれた人たちには申し訳無いのもあるが、原因は彼女たちなので、せっかく協力してくれた友人たちやクラスメイトたちに恨まれろ、と呪詛のような念をキソラは送るのと同時に、もう教室に戻ったよなぁとも思う。


「……キソラ?」

「――っつ!?」


 声を掛けられ、ぎょっとしながらも、そちらに目を向ければ――


「な、んで……」

「そっちから呼んでおきながら、中々なかなか来ないからだろうが」


 おかげであちこち捜す羽目になったぞ、と言う彼に、キソラは苦笑いする。


「まあ、来れなかった原因も分かったから良かったが」

「……嘘でしょ?」


 それは何に対してだろうか?

 見つかるはずの無い場所が突き止められたから?

 キソラの言った通り、本当に約束していた人が居たから?

 それとも――……


「とりあえず、そいつをもう連れてって良いか? 残り時間もそんなに無いしな」


 教室までの移動も、呼び出されたのが昼休みだったことから昼食もまだであることも、時計を見てみれば、もうそんなに時間は無いが、簡単な昼食を食べるぐらいなら、まだ余裕はあるはずだ。

 食堂でサンドイッチを受け取り、手渡されたそれを受け取る。


「ほら」

「ん、ありがとう」


 小さくお礼を言って、手早くサンドイッチを食べる。


「そういや、話したいことって、何だったんだ?」

「ああ、それは――……」


 そう尋ねられたことで、キソラは口を開きかけ、閉じる。


「それは?」

「いや、何でも無いよ」

「本当にか?」


 再度の確認に、キソラは小さく頷く。


「……きっと今言うべきなんだろうけど、時間が無いからね」

「お前がそれで良いのなら、俺も構わないが」


 何か言いたそうにしながらも、キソラが自分から言うまでは待ってくれるつもりらしい。


「ん、ありがとう」


 キソラがそう告げると、チャイムが鳴り響く。


「チャイム、鳴ったな」

「そうだね。教室に戻らないと」


 それにしても、随分大きなチャイムの音である。


(というか、何か聞き覚えのある音だなぁ)


 そう思いつつ、廊下を歩いていく。


「……ら」

「ん?」


 誰かに呼ばれた気がして足を止めるが、そこには誰も居らず、キソラは首を傾げる――が、次に足を踏み出した瞬間、ぐらりと身体が傾き、意識が暗転する。


「……ら、キソラ!」

「……ん?」

「大丈夫か? 何かうなされていたが」


 心配そうにそう言うアークの顔を見て、キソラは先程の光景が夢だと理解する。

 こうして目覚めるまで、随分と強引な意識の繋げ方でもあるとは思うが。


「ああ、うん……酷くて、良い夢を見た」


 だが何故、朝から疲れなければならないのだ。

 まあ、夢オチだったのが一番の救いか。


(それにしても、私は何をしようとしていたんだ……)


 思い出すだけで恥ずかしくなってくるだが、夢だというのに、ここまではっきりと覚えていると言うのも、何とも言えないし反応できない。


(そういや、アークは出てこなかったな)


 場所が学院の校舎内だけだったから仕方ないといえば仕方ないのだが、ぼんやりとした目をアークに向けていれば、不思議そうな顔を返される。


「……そうか。なら良いんだが、あんまり無理するなよ?」

「分かってます」


 そうは言っても無茶をするのがキソラである。

 だが、アークとて朝からガミガミと言う気は無いので、話はそこまでにして、「時間、無くなるぞー」とキソラに声を掛ける。


「んー」


 アークが朝食作りで背を向けているうちに手早く制服に着替えて、更に手早く朝食を終える。


「それじゃ、行ってきます」

「ああ、行ってこい」


 そう声を交わし、片や部屋を出て、片や見送っていく。

 何気ない日常が――また一日、始まっていく。


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