「いただきます」と「ごちそうさまでした」

暗黒騎士ハイダークネス

第1話



 3歳の時に初めて、お父さんの職場に連れていかれた。


「ピヨピヨ」


 僕は覚えていないけど、1匹のひよこと目が合って、幼い指を差し、お父さんにこう言ったそうだ。


「こーこ、ほしい」


 この日から、家族が1匹増えた。


「ぴーちゃ」


 小さなかわいらしいひよこのぴーちゃんだ。


 その日からぴーちゃんが大きくなるまでは一緒に暮らしてた。


 さすがに鶏になると、外で飼うことになったが、毎日毎日お世話しに行った。


 小学校の友達にそのことを話しても、みんな犬とか、猫の話を分かってくれない。


 ピーちゃんはすっごくかわくて、かっこいいのに。


 そのことで、友達と大喧嘩して、学校までお父さんが迎えに来てくれた。


 わかってくれないのが悔しくて、ぴーちゃんを馬鹿にされるのが悲しくて、もう友達はぴーちゃんだけでいいと、お父さんに涙ながらにそう話した。


「・・・そうか、、」


 それ以上は何も言わずにお父さんは僕の話を聞いてくれた。





 ある時、ぴーちゃんと僕とお父さんとドライブに行くことになった。


 またお父さんとの職場とは違う、もっとゴツゴツした場所だった。


 お父さんは知らないおじさんと何かを話しながら、ぴーちゃんと僕を分けて、施設の中に案内された。


 手を引かれ、なんの施設かわからないけど、おいしいお肉を食べて、僕はこの時まではご機嫌だった。


 包丁を持った父と、地面に押さえつけられているぴーちゃんがいた。


「やめて」とお父さんい必死に訴えたけど 


「・・・その鶏を解体する」


 お父さんはただ一言そう口にした。


 その意味がよくわからなかった。


 でも、次の瞬間に父の持つ包丁が振り下ろされた。


 真新しい黄色のリボンが真っ赤に変わっていく。


 それの意味が分からなかった。


 でも、幼いながらも、もうぴーちゃんは動かない。と理解できてしまった。


 父にとっては、それは息子がただ育てている食肉でしかなかった。


 初めて心の底からの殺意を覚えて、でも、どうしたらいいのかわからず、怒りはただただ行き場を失い、数分後には、言いようのない怒りが悲しみが、目から大粒の涙として、溢れだした。


 泣いて泣いて泣いて、泣き疲れて、寝てしまった。





 この時にいつも食べていた肉が、生きていたんだということを初めて実感した。


 いつも食卓に並べられるのは、調理済みのお肉。


 そうとしか知らなかった。それとしか考えていなかった。


 「おいしい」と無邪気に言いながら、食べていたお肉はぴーちゃんみたいに生きていたんだ。


 そう考えると、目から涙があふれてくる。


 ぼくはお肉は好きだった。でも、嫌いになった。







 朝、庭に出ると、もういないんだとは知っていても、小屋に足を運んでしまう。


 ピーちゃんが死んだっていう、現実が気持ちに追い付いていない。


 もしかしたら、まだ生きているかもしれない。


 あれは悪い夢だったのかもしれない。


 そんなことはないのに、あの生臭い血の匂いは鮮明に今も覚えている。


 名前の書いた黄色のリボンが真っ赤なリボンに代わるところも。


 ぜんぶぜんぶぜんぶ・・・覚えている。


 


 暗い気持ちで、もうぴーちゃんのいない小屋にたどり着いた。


「コケコッコー!」


 最近は元気に鳴くことがなかったピーちゃんがいた。


 いつもしていたように足元まで来て、ツンツンと2回靴をたたいて、ご飯の催促をしてくる。


 涙があふれて、気づいたら、ぴーちゃんをぎゅっと抱きしめていた。



「この前から元気がなかっただろ。あの時から少し病気でな、俺の知り合いの医者が屠殺場にいて、診てもらってだな。

 ついでに小学校の友達と仲直りさせようと思って、少しの間あの子と鶏を離れさせれば、そうなると思ってだな・・・、、あのな、その、、、すまん」


「・・・」


「俺も・・・さすがに子供が可愛がってる鶏は殺さん!!いや、母さんそんな怖い顔で、いや、、、あぁ、すいませんでした」


「・・・」


 僕はお父さんとお母さんの話には参加せずに、ずっとぴーちゃんを撫でていた。


「・・・あったかい」



 この日から、お父さんのことを嫌いに、ぴーちゃんのことをもっと大切に、そして、友達とも仲直りした。



 この日から、毎日欠かさずに食事の時に言う言葉がある。


     「命をいただきます」


    「命をごちそうさまでした」

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