チア(Cheer)!

山広 悠

第1話

のぞみ先輩が泣いていた。


私なんかが心配するなんておこがましいけれど、やっぱり放っておけない。


どうしたんですか? って聞くべきところ。


でも、気付いたら、

美味しいものでも食べに行きませんか? って言っていた。


のぞみ先輩はこっくり頷いた。


うそ、やった!


先輩は素敵だ。私のあこがれの人。

背が高くて、綺麗で、頭が良くて。


仲良くなれたらいいな、っていつも思っていたけれど、恐れ多くてなかなか話しかけられなかったんだ。


そんなのぞみ先輩と一緒に食事ができるなんて。

私は嬉しくて舞い上がってしまった。


そして、ふと、大事なことを思い出した。


しまった。先輩はグルメで潔癖症だった。


ファミレスなんかじゃ嫌われてしまうかも。

友達の早苗とよく行く食べ放題のお店は小汚いし。

アイスやパフェじゃ、ご飯にならないし。


困ったな。

綺麗で美味しいお店なんか知らないよ。

お金もそんなにないしね。

傷心の先輩を元気づけるはずが、自分が泣きそうになる。



実際半泣きになりながら歩いていると、焼き鳥の屋台が目に入った。

珍しく炭火で焼いている。

掃除も行き届いている。

お肉も鮮度がよさそうで、どれもきれいな色をしている。

一本300円は少し高いけど、変な店に入るよりは安上がりだし、失敗もしなさそう。


「何本か買って、その先の公園で食べません?」

ダメもとで聞いてみたら、先輩はにっこり笑って頷いてくれた。

やった!

先輩には先に公園に行って席の確保をしてもらうことにして、私は屋台のお兄さんに注文を伝えた。


先輩はネギマとササミとししとう。

私は砂肝とぼんじりと皮。


注文を口にしてから、自分のオーダーがあまりにもおやじくさいのに気が付き、顔から火が出るくらい恥ずかしくなった。

でも、好きなんだから仕方ない。


焼き上がった焼き鳥を受け取った私は

「先輩! すっごく美味しそうですよ!」

と大声で呼びかけると、公園に向かって駆け出した。

 

                                  

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