うっかり女神の転生ミスにしてもさすがに焼き鳥はないだろ!

帝国妖異対策局

第1話 クラス全員転生

「て、天上界へようこそー! 皆さんは修学旅行のバス事故でお亡くなりになられました」


 宇宙空間のような場所で宙を漂うセクシーな格好の女神が宣う。


「「「な、なんだってー」」」

「「「でも、だいたい理解した」」」


 幼少から異世界転生モノに慣れ親しんでいる世代なので、クラス全員が瞬時に状況を理解した。


「それでは皆さん、異世界で魔王を倒してくださいね! スキルは転生するときにガチャ決まりしますので運任です! じゃ、転生開始! 行ってらー」


 この混乱に便乗してクラスマドンナに告白しようとしていた俺の視界が暗転する。


「あれ!? やっちゃった?」


 俺は薄れゆく意識の中で女神のそんな声を聞いた。

 

「らっしゃー!」

「岩塩鳥から一丁!」

「すいませーん! 注文お願いしまーす!」


 人々の声がハッキリ聞こえてきて、俺は再び意識を取り戻した。


 俺は愕然とした。何故なら転生した俺は――


 焼き鳥だったからだ!


 焼き鳥には目も口も花も耳も息子もついてない。しかし、俺の意識は確実に焼き鳥に宿っており、その超感覚の働きによって周囲の状況を認識しているようだった。


 しかもタレかよ。


 どちらかと言うとさっぱりとした塩がよかった。


 周囲に意識を向けると、俺はクラスの連中が近くに転生しているのを感じた。


 あの岩塩鳥から! 田中と佐藤と鈴木と山川と海山と坂上、そのちょっと大きい唐揚げは担任じゃねーか!


 クラス連中の上に岩塩が振りかけられていく。そして鳥からの上に中年男性の手が伸びる。その手にはレモンが握られていた。


「やめろぉぉぉ!」


 畜生! 田中と佐藤と鈴木と山川と海山と坂上、そのちょっと大きい唐揚げの担任がしょっぱい液体で穢されてしまった。


 だが俺にはどうしようもなかった。焼き鳥だから。


 そして最悪の事態が起こる。たこわさに転生していたクラスマドンナの湊川みなとがわさんが先程の中年に……食べられていたのだ。


 畜生! 俺は、俺は、彼女にまだ好きっていってないのにぃ!


 俺の魂が全霊で泣いていた。しょっぱい液体が身体を伝う。何この液体?


 さっきの中年が俺にレモンを絞っていた。


 き、貴様ー!


 あろうことかおっさんは俺を取り上げて……


 や、やめろ! やめてくれぇぇぇ!


 その無精ひげの残る口元へ運ぼうとする。


 俺の、俺の転生人生はこんなおっさんに食べられるだけのものだったのか。


 絶望が俺を喰らいつくそうとしたその刹那。


 奇跡が起きた。


「あっ、課長! その焼き鳥あたしがキープしてたやつですよー。とっちゃ駄目駄目ですぅ!」


 頭の悪そうな……この際そこはどうでもいい。

 

 若い女性がおっさんから俺をもぎ取って口の中へ運ぶ。


 あぁ、女神様、ありがとうございます。


 おっさんの口で命果てるより、ちょっとタイプとは違いますがまぁまぁ美人の女性の口の中で果てられることに感謝申し上げます。


「あっ!」


 女性は俺をコロッと床に落としてしまった。同じ櫛仲間で元クラスメイトの木原と笹山と折島は既に美女の口の中へ消えていた。なぜ俺だけが床に!


 俺はそのまま塵取り経由で居酒屋を追放され、巡り巡って夢の島と呼ばれる流刑地に行き着いた。


 焼き鳥としての使命を果たすこともできなくなった俺は、そのまま考えることを止めた。


 再び誰かの意識が俺に向けられていることに気づいたとき、世界の様相は一変していた。人類は滅び、地球には新しい支配者が生まれていた。


 意識を取り戻してから数十年が過ぎ、俺は彼らの言葉が理解できるようになっていた。


「みなさん、これが数億年前に地球を支配していた『ニンゲン』が主食にしていたという『焼き鳥』の化石です」


 灰色で大きな黒目の彼らは、珍しそうに俺のことを見つめる。


 彼らの視線を受けて俺はようやく自分の存在理由を見出した。俺が焼き鳥に転生したのは、このためだったのだ。


 年に一度か二度、課外授業で彼らの幼体が訪れる、田舎の寂れた歴史資料館の化石コーナー。


 ここで彼らの好奇心を刺激して学習意欲を促進する。


 これこそが俺が焼き鳥になった本当の意味だったのだ。


 と、今日も自分に言い聞かせながら、


 俺は今日も焼き鳥の化石を続けている。






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