【僕の話】
朝、目が覚めるたび、同じ事を考える。僕が生まれてきたことに、意味なんてあるんだろうかと。
もし僕が、望まれて生を受けた子どもじゃなかったとしたら、この先、なにを目標に生きていけばよいのか。
僕の成長を、母親はどんな気持ちで見守っているんだろうか、とさえ。
くだらない妄想。
もしくは被害妄想。
そんなことは分かりきっているのに、不器用な僕は、上手く自分の気持ちを消化できない。
一日の輪郭線ははっきりとしないまま、こうして今日も、代わり映えのない毎日が過ぎ去っていく。非生産的な日々は『過去』と名称を変え、記憶の片隅に積み重なっていく。
いつからこんな風に考えるようになったのか。
きっかけは、僕が小学校四年生のとき、母親から見せられたスクラップ帳の中身にある。
それは、十一年前に起きた事件の詳細と、犯人らの写真と名前が載せられた、手のひらに収まるほどの記事だった。
*
*
「ほら、
ベッドから這い出してぼんやりとしていると、部屋の外から母さんの声が響いてきた。怒ったような口調だけど、声のトーンは穏やかだ。「はあい」と返事をしながら、今日も母さんが元気そうで良かったと思う。
この事件の被害者が、僕の母親。そして、事件が原因で妊娠し、生まれたのが僕なんだ。
事件のことを知った日から、僕はとある病を発症した。なにかがおかしい、と感じ始めると、症状は強くなる一方となりいまに至る。
犯人たちの罪は確定した。
法の裁きも受けた。
だが、僕の病の遠因を作り、母さんの心に一生消えない傷を残した奴らは、今もまだのうのうと生きながらえているんだ。
だから僕は忘れない。
痛ましい事件の詳細も、犯人の名前も。
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