とべ!やきとりくん
くにすらのに
第1話
熱い。まるで自分の体が炎に包まれているみたいだ。
その熱気のせいで気を失っていたのか、あるいは熱気のおかげで意識を取り戻したのか定かではない。
とにかく一切の記憶がなく、今はただ頭の中が熱いという感情でいっぱいだった。
(って、俺マジで焼かれてない!?)
灼熱色に染まった炭が無造作に並べられている様子が視界に入った。
身動きは撮れない。
今まで体験したことのない熱さなのに意識を保ったまま、体の外側からしっかりと内側に熱が伝わっていく。
(意味がわからん。夢なら覚めてくれ!)
しかし、ほっぺをつねる以上の刺激を与えられているのに状況は一向に変わらない。つまりこれは夢ではなく現実だ。
(……あぁ。ようやくこの地獄から解放される)
どれくらいの時間が経っただろう。中までしっかり火が通った感覚があるので5分以上は間違いなく焼かれていた。
隣に見えるネギはすでに死んでいるようだ。焦げ目がついてピクリとも動かない。
(俺、焼き鳥になったのか?)
炭で焼かれて隣にはネギがいる。
自分自身の体を確認することはできないが、状況から察すると焼き鳥だと思う。
ほらやっぱり、綺麗な陶器の上に置かれたよ。
(せめて可愛い女の子に食べられたいな)
そんな思いも虚しく俺はおっさんの口へと運ばれた。
咀嚼されている間もしっかりと意識が残っており全身に激痛が走る。
ネギのようにすでに死んでいればこんな苦しみを味わうこともなかったのにどうして……。
しかし、救いはすぐに訪れた。
消化だ。焼かれても噛み砕かれても死ななかった俺も消化されれば存在そのものが消えていく。
(俺の人生ってなんだったんだろう)
薄れゆく意識の中で一羽のインコの姿が思い浮かんだ。
(そうだ! 俺はピー助を蘇らせたくて……!)
俺はまた焼かれていた。
フェニックスになれば死んだピー助を復活させられる。
だから不死鳥伝説がある山へと向かい、その途中で足を滑らせてピー助と同じ場所に旅立った……はずだった。
死を経験したことで俺はフェニックスになった。
しかし、どこのどいつかわからないがフェニックスを焼き鳥にして提供している輩がいるらしい。
一羽仕入れれば何度でも復活するんだから店主からすれば儲けものだろう。
だが、俺はいつまでも焼き鳥としての人生を繰り返すわけにはいかない。
さばかれる前に意識を取り戻すんだ。
相手がどんな怪物だろうがこっちは不死。
ケガをするのも厭わず果敢に攻めれば脱出できるはず。
(この状態になったらもうダメだ。そういえば昔、たいやきが海に逃げる歌があったな)
たいやきはギリギリ泳げたみたいだが、串刺しになった焼き鳥に自由はない。
それならば焼き鳥としての人生を全うして来世に賭けるのが得策というものだ。
(おっ! 綺麗なお姉さんだ。って、隣のやつは彼氏か。ん? にんにく……ヤル気満々ってか。なあニンニク。まだ意識はあるか? ないよな。今夜はお楽しみのカップルをお前の臭いで台無しにしてやれ!)
生前モテなかった俺はピー助だけが心の拠り所だった。フェニックスになった今でもそれは変わらず、幸せそうなカップルの小さな不幸を期待する器の小さい男だ。
(今度生まれ変わった時は必ず……!)
咀嚼される痛み、消化される苦痛に男女差はない。
一つ違うのは俺が目的意識をしっかり持っているということだ。
ただ存在が消えていくだけじゃない。
絶対にここから逃げてやる!
そんな強い意志が消化される際に生じる苦痛を長引かせた。
(やった! できた!)
意識を取り戻すと同時に頭頂部に衝撃が走った。
何かにぶつかったようだが、障害物を突破して俺は高く飛翔していた。
視界には綺麗な青空が広がっていて、今までに見たどの空よりも自由だった。
(え……?)
ふと下界に目を向けると俺がいた。
ピー助が暮らしていた鳥かごを抱きしめて号泣している。
その気持ちは痛いほどわかる。
じゃあ、今こうして空を飛び回っている俺は何者なんだ?
自分の元へと文字通り飛んでいきたいのに体の自由は利かない。
ただひたすらに上へ上へと勝手に飛んでしまう。
(ピー助を蘇らせたい)
思い出した。
もっと一緒にいてあげたくて、俺は俺自身を蘇らせたかったんだ。
ごめんね。
俺はもうピー助じゃない。
だけど何度だって記憶の中で蘇る。
俺はフェニックスになったんだから。
とべ!やきとりくん くにすらのに @knsrnn
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