ドラゴンの焼き鳥

綾月百花

ドラゴンの討伐クエスト

 今日も冒険者ギルドは、大盛況だ。

 掲示板の前には、大勢の人だかりができている。


「ドラゴン退治って、何考えているんだ?」


「誰だよ、こんな無茶なクエストを出す奴。罰当たりもいいいところだろ?」


「おい!大きな声で言うな。この国の国王陛下らしいぞ」


「え!」


「マジで!」


「次の晩餐会に焼き鳥を出したいそうなんだよ。国王陛下見栄っ張りだから、珍しい物を招待客に出したいんだろう?」


「ドラゴンって鳥なのか?」


「この国では神だろう?」


「恐れ多い」



 冒険者達は首を傾げた後に、胸の前で十字を切っている。


 俺のパーティーは、俺、風魔法の達人、コータと火魔法の達人、ハルキと土魔法の達人ユーゴ、光魔法のエリーの四人パーティーだ。Sランクの冒険者はそうそういない。


 掲示板を見ていた冒険者達は、大物のクエストは見て、大騒ぎをするが、誰もが低級クエストを受けに、出掛けに行く。


 俺たち四人は黙って、いったん外に出た。



「どうする?賞金は、かなり旨いよな」


「一生、働かずに暮らせそうだよな」


「でも、最強って言われているドラゴンだぞ?しかも、ドラゴンは、この国の神だぞ」


「神殺し、しかも、神を焼き鳥にするとか、この国、大丈夫なのか?」



 国王陛下、とうとう頭に蛆でも湧いてしまったのか?


 神とも崇め立てられているドラゴンの討伐は、今までなかった。


 晩餐会の食事に、ドラゴンの焼き鳥を出したいと書かれているが、果たして食べられるのか?



「焼き鳥なら、バンバン鶏が一番、旨いと思うけれど」



 俺なら、バンバン鶏の胸肉の串焼きを甘辛タレで食べるのが、一番旨いと思う。



「だよな、エールと一緒に食べると至福だよな」



 そうそう、仕事帰りの一杯は至福だよな。ユーゴの意見に一票だ。



「国王陛下は、焼き鳥を食べたことがあるのか?」


「そこだよな?ワインと一緒に食べる物じゃないよな」



 ハルキとエリーは、首を傾げている。


 俺たちは、取り敢えず、バンバン鶏を狩りに出た。


 バンバン鶏はふっくらしているが、よく走る。


 それを魔法を使って、無傷で仕留める。


 鮮度を落とさずに持ち帰る為の無限アイテムボックスは、俺が持っているから、狩ったバンバン鶏を収納して、ドラゴンの住処のある北の山脈を見上げる。



「ドラゴンはさすがに無理だろう」


「食べるとか、罰当たりだよな」



 ドラゴンは神と崇め立てられている。


 そんな崇高なドラゴンは、バンバン鶏と同列に等できない。


 ドラゴンは、普段はおとなしいが一度怒らすと、手に負えないと言われている。


 火を噴き、村ごと沈めてしまう程、強い。


 きっと、この国を一瞬で焼き尽くしてしまうだろう。


 国王陛下が一人で、ドラゴンの怒りを受け止め焼き殺される分には、この国にそれほど被害は出ないだろうが、冒険ギルドが手出しをしてもいいレベルではない。


 それこそ、国王陛下が、自分の騎士団を使いドラゴン討伐に行く勇気がないのなら、触らぬ神に祟りなしだと思うのだが。


 誰かが、国王陛下を止めてくれるといいのだが。


 俺たちは、晩餐会で焼き鳥が振る舞われるのなら、バンバン鶏が必要になるだろうと思い、もう少し、バンバン鶏の討伐を行った。



 +



 その頃、王宮では……。


「陛下、ドラゴンは我が国の守り神ですぞ。冒険者ギルドに討伐要請などして、万が一、ドラゴンの怒りに触れたらどういたすのですか?」


「国の一大事ですぞ」



 朝から宰相、執事、騎士団長、神官……と次から次へと国王陛下の元に集まってくる。


 厨房からは、シェフが「ドラゴンを焼き鳥にするなら、私達は即辞表を出します。これは、厨房に勤める者から預かってきた退職願です」


 シェフは頭を下げて、大量な退職願を置いていった。


 王宮内は大混乱が起きていた。


 ドラゴンは大きいから食べたら、美味しいかと思ったが、どうやらとんだ間違いを起こしてしまったようだ。



「次の晩餐会では、焼き鳥を出すと大見栄を張ってしまったのだ」


「でしたら、すぐに、ドラゴンから、バンバン鶏の討伐に変更願います」


「分かった。すぐに、手紙を書こうぞ」



 国王陛下は、宮内であちこちからお叱りを受けて、急いでドラゴン討伐禁止命令とバンバン鶏の採取を命じた。



 +



「おお、思った通り、バンバン鶏の採取出ているじゃないか」


「バンバン鶏取ってきたから」


「お早いですね」



 ギルドのお姉様に、褒められて、俺たちはニタニタしていた。


 バンバン鶏を全て出したら、国王陛下の特別クエストは完了した。


 賞金をいただいて、俺たちはさっそく酒場に行き、焼き鳥とエールで乾杯した。


 この国は、もう暫く安泰のようだ。


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ドラゴンの焼き鳥 綾月百花 @ayatuki4482

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