おじちゃんと私。

はちこ

第1話

 私はこの養鶏場で育って、大きくなったら人間に食べられる運命。そう、私は鶏なの。養鶏場を管理するおじちゃんは、私たちを、それはそれは大事に大事に育ててくれてる。

 生まれてすぐのひな鳥の頃、私はおじちゃんが管理してる、この養鶏場にやってきたわ。とは言っても、記憶はないけどね。おじちゃんは私たちに点眼薬をさしてくれたり、水を飲ませてくれて、感染症対策にと、スプレータイプのワクチン接種も忘れない。

 木くずやわらで出来たふっかふかの床の上で、私たちはのびのび生活してる。ご飯はおじちゃんが運んできてくれるし、お部屋の温度、湿度管理はいつもばっちり。とても感謝しているの。明るさだって、私たちのストレスにならないよう、おじちゃんがきめ細やかな配慮をしてくれているのよ。

 ちょっと恥ずかしいけど、私たちの糞は、おじちゃんたちが掃除してくれる。おかげで、いつも清潔なお部屋でくつろいでる。

 いつもおじちゃんは私たちに話しかけるのよ。そうすると、私たちが美味しくなるんだって。ほんとかな?


「みんな、今日の調子はどうだい?」

「コケックククゥ」

「そうか、元気か?お前たちはどんなふうに人を幸せにするんだろうなぁ。」

「コケ?コケック、クックク」

「ん?お前はクリスマスのローストチキンになりたのか?そうか、いいよなぁ、クリスマスのご馳走だ。ローストチキンを見れば、誰だって、幸せな気分になるよなぁ。」

「クックク、コケックククゥ」

「何?お前さんは唐揚げになりたいか?そうだなぁ。最近は唐揚げブームだ。家族で唐揚げを囲めば、笑顔になるさ。お弁当の定番おかずだし、活躍できるな。」

「コケック、コケッ」

「そうか、そうか。みんな人を幸せにする準備は出来ているなぁ。」


「もし、一つ、おじさんのわがままを聞いてもらえるなら、お前さんたちのうち、だれか一羽でも、焼き鳥になってくれんかなぁ。焼き鳥は、派手さはないけど、人の生活にそっと寄り添う存在だと思うんだ。楽しい飲み会の席では、しっかりと場を盛り上げる。ちょっと愚痴を言いたい、そんな時、居酒屋のお酒のお供にいい仕事するだろ。仕事帰りの奥さんが、旦那さんのためにとおつまみとして焼き鳥を買う姿もいいもんだ。なんか愛があるじゃないか、そこにさ。」


 おじさんはちょっと目に涙を浮かべながら、私たちに語り掛ける。私たちも切ない。お別れの時が近づいている。先輩の鶏から、おじさんがこの話をすると、いよいよ出荷が近いって言ってたの。私たち、そろそろ出荷の日が近づいてるんだ。私は、出来ることなら、焼き鳥になっておじさんの晩酌のお供をしたいな。大事に育ててくれてありがとう。私どこに行っても、美味しく食べてもらって、みんなを幸せにするね。おじさん、大好きだよ。本当にありがとう。コケック…



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