合コン相手の中に元カレがいた……。

宇枝一夫

かぶりつくとほっぺにタレがついて、キスができないじゃないか(キラン!)

 合コン。

 それは男女の出会いの場。

 あるものは一夜のアバンチュールを求め、

 またあるものは、永遠の伴侶を……渇望していた。


 私、古鳥陽奈ことりひなは当然前者……ごめんなさい後者です。


 実は半年前、カレと別れた。

 別れた原因は……何だっけ?


『彼氏なんてすぐ出来るっしょ』


と余裕ぶっこいていたが……甘かった。


 いいなと思った男のアソコには、カノジョという名のクリーチャーのツバがべっとりとついており、

 さらにこのクリーチャーは


『ああ、(右手の)指輪? 誕生日に彼がくれたの』


と、独り者の臓腑をえぐり取る会心の一撃を、さらっと口に出してくるのである。


 桜前線と三十前後アラサー前線がヒタヒタと近づいてくる毎日……。


 だけど性なる、いやいや聖なる神は私を見捨てていなかったのだ!


「陽奈ぁ、今度合コンあるけどどうする?」


 いくら男日照りでも、即答しては女子グループの中でのランクが急降下してしまうのである。


「ふぅ〜ん。相手は?」


 あくまで興味ない振り、それでいて”相手次第なら”を匂わせて己を高く見せる。


「丸山商事の……」


 いやな予感。

 なぜなら、別れたカレは丸山商事だったのだ。


「華の営業一課!」


 キタア---!


 営業一課といえば、その仕事のできぶりはもちろん、イケメン揃いと噂される業界のプリンス集団!

 営業三課だったあいつとは月とすっぽん!

 ここで新しいカレをゲットすれば、女性向けWEBコミックみたいに”ざまあ!”展開も夢ではない!


「しかも全額向こうのおごり!」

「へえ~、いいじゃん。それじゃあその日空けておく」


 あくまでさらっと返事をした。

 け、決しておごりにときめいたんじゃないからね!


 ― 当日 ―


 仕事帰りだから外見はスーツだけど中身はバッチリ!

 テイクアウトお持ち帰りどころか


『もう我慢できない。みんなが見ているけど、今すぐ君を食べたいんだ……』


と甘い声とマスクととどめは”アゴくぃ!”でお願いされてもいいように、下着は総取っ替えなのだ!


 場所は高級居酒屋の座敷。

 人数は男四人、女三人。


 一人あぶれるけどこの人は主任さんでなおかつ既婚だから、注文とかの幹事に徹するみたいだ。

 現地へ行くとその幹事、鷲尾わしおさんが待っていた。


「お仕事お疲れ様です。本日はお忙しい中ようこそお越しくださりました。男どもは先に席に着いておりますのでご案内します」


 う~ん。さすが業界トップレベルの営業マン。

 アダルティックな声が否応なしに女をたぎらせてくれる。


 いざ座敷へ!


 ふすまが開くと男性陣から拍手が!

 なぜか私が一番最初に入室する。いいのかな?

 掘り炬燵ごたつ形式のテーブルの下に脚を入れながら


「失礼しま……」


 顔を上げると……謀られた!


 そう! 女の戦いはすでに始まっているのだ!

 後の二人は襖が開いたコンマ数秒で男性陣のイケメン度を判別し、ごく自然に本命の前に座るのである。


 まぁそれぐらいならどうでもいい。

 問題は目の前の男だ。


 めっちゃイケメンではないが、好みのタイプだった・・・

 デートしたら、少なくとも退屈はしなかった・・・・・

 エッチしたら……まぁまぁ気持ちよかった・・・・・・・


 なぜ語尾がすべて過去形なのかは……おわかりいただけただろうか?

 

 ズバリ! 元カレなのであるどうもありがとうございましたコンチキショウ!!


 てか何で三課のアンタが華の一課にいるんだよ!?

 いや待て? 実は意外とできる系だった?


 てか、元カノを前にして、固まるどころか初めて会ったような顔をしているな……。

 まぁいいや。お手並み拝見させてもらおう。


 幹事さんの座る襖側から男性陣の自己紹介が始まる。

 いいな~。あのイケメンの目の前に座って上の口と下の口をよだれでいっぱいにしながら惜しげもなくガン見できるんだから……。


 アレ? ちょっとだけ小悪魔入ってる?

 そして名刺を全員に手渡した。


 そしてこいつの番。


「どうもぉ~。鴨がねぎまをしょってやってきた、鴨野勇人かものゆうとでえぇぇ~す!」


 ……摩擦係数ゼロの挨拶だ。

 てかこいつこんなキャラだっけ?


「趣味は……」


 うん、知ってる。


「好きな女性のタイプは……」


 ヲイ! 合コンでそれ言うか? 言ってもいい……のか?

 まさか……わたし?


「ここにいる皆さんでぇ~す!」


 ……まあ無難だな。


「ヲイヲイ鴨野君、ってことは俺も射程圏内に入っていることか?」


 流石主任の鷲尾さん。ナイス突っ込み!


「はい! 鷲尾さんは僕の大好物です!」


 ついにリアルBLに目覚めたのか?

 だから私と別れたと……?


 名刺を見ると、マジモンの営業一課だ。

 ……ほんのちょっとだけ見る目が変わる。


 こうしてお酒が運ばれ乾杯!

 さすが華の営業一課。鷲尾さんはホストに徹し、料理が来るまで私たちを退屈させないよう話題をふってくれる。

 イケメン二人も特定の子に偏らず、私たち三人平等に相手をしてくれる。


 そしてコイツは……。


「今から”一人ポ○キーゲーム”をします! 落とさず全部食べられたら温かい拍手を!」


 なんか宴会芸を始めたぞ。

 ポ○キーを咥えると、唇と舌を駆使して全部食べた。

 ”おお~!”と思わず拍手する。


「次はさらに難しい、下を向いての一人ポ○キーゲームです!」


 下を向くとポ○キーを咥え、少しずつ食べ始めた。

 そして完食すると割れんばかりの拍手!

 それに両手を挙げて答えるコイツ……。


 なんだろう。コイツこんなキャラだっけ?

 もしかして……無理矢理やらされているんじゃ?

 営業部って、体育会系とかパワハラの巣窟って噂あるし……。


 なんか心が”もやっ”としてきた……。


 そして焼き鳥の大皿が運ばれてきた。

 鷲尾さんが話題を振る。


「よく言われますが。皆さんは焼き鳥を食べる時、そのまま丸かじりするか、箸で抜いて食べるかどちらですか?」


 あれ? なんか既視感デジャブが……。


 襖側から一人一人答えていく。


 そしてコイツの番。

 

「僕は箸で抜いて食べる派です。なぜなら……」


 アゴに指を当てたぞ。


「丸かじりすると、ほっぺにタレがついて、キスができないじゃないですか!」


”キラン!”と瞳と白い歯を光らせてやがる。


 サブッ


 私はこんなやつのつくね棒・・・・を、上下の口で咥えていたのか……。


 そうだ思い出した! 別れた原因!


 こいつは元々丸かじり派だ。

 そしてほっぺにタレがついたままキスしようとしてきたので、嫌がったらそこから喧嘩。自然消滅……。


 はあ~何やってたんだろう……。

 でも何で私の台詞を?

 もしかして、私への謝罪?

 モヤモヤがだんだん大きくなってきた。


 焼け木杭ぼっくいじゃない!

 こんなピエロをやらされているコイツにいきどおりを感じているからだ!

  

 最後は私か……。

 あ~もう合コンなんてどうでもよくなってきた!


 勇人ゆうとよ! ドン引きする時は一緒だぞ!


「私は丸かじり派ですね。しかも横からです」

「ほほう、その理由は?」


「それはぁ~横フ○ラの練習になるからですぅ~。でもぉ一番好きなのは焼き鳥よりもぉ太くて長いつくね棒ですぅ」


 もちろんこんなのでたらめだ。


「なるほど、古鳥さんはワイルドな肉食系ですか。ではここからはちょっとセクシーな質問を……」


 さすが一流営業マン。

 アホな下ネタを振っても小揺るぎとしない。

 むしろそれを利用して場を盛り上げようとする。

 

 こうして下ネタに場が移されると……コイツ、勇人の独壇場だった。

 幸いにも私とのエッチについては一言も話さず、むしろ私の知らない過去や性癖までも暴露した。


 負けじと私もあることないことぶちまけた。

 もちろん、勇人については何一つ話さなかった。


 みんな大笑いだ。


 そしてあとの二人のイケメンも、自分の恥をさらし始めた。

 さらに相手のネクタイをつかんだり、後ろから抱きしめて顎クィッしたりして、”リアルBLごっこ”までやり始めたぞ。


 むしろこちらの方が女性陣にとって”ゴチ”になった。じゅるり……。


 なるほど、尊いとはこういう気持ちのことをいうのか……。


 こうして、合コンの夜は更けていくのであった……。


 宴もたけなわで、お時間となりましたので最後一本締めで合コン終了。


 営業一課は明日もテレワークで打ち合わせがあるからと二次会はなしだ。


 帰りの電車の中、合コンを誘った同僚からメッセージが。


 合コンを下ネタ暴露会へと変えた私への文句かと思ったら、意外にも謝罪と感謝の言葉だった。


 ま、あれじゃあ合コンというより、就活生のディスカッションそのものだからね。


 後日、勇人から私の職場メアドにメールが来た。

 名刺交換したからね。


 定型文のような先日の打ち合わせ・・・・・への感謝の言葉。

 そして、再度打ち合わせをしたいから都合のいい日を教えて欲しいと……。


 私は金曜の十時にと返信した……。

 

 午後・・十時に待ち合わせしたのはこじゃれたカフェバー。

「営業一課だからこれぐらいの店を知ってるぜ」

「どうせ鷲尾さんに教えてもらったんでしょ?」

「ばれたか」


 ことの顛末はこう。

 元々勇人はヘルプで一課に配属された。

 とはいえ一旗揚げようと野生の勘で飛び込んだら、小口ながらも見積もり案件をゲットした。


 しかもそこは一課の中堅の人すら躊躇する、他社でガチガチに固められたところ。

 会社のかなり上の人までも巻き込んで、本契約を勝ち取った。


 そして後のイケメン二人はそつなく仕事をこなすが、なかなか契約を取れない。


 そこで鷲尾さんは勇人をピエロにしてこの二人に一皮むいてもらおうと、ディスカッションみたいな合コンをセッティングしたわけだ。


「古鳥様、実はお願いがございまして……」


 お、営業ボイスか。こういうのもなんか新鮮。


「私のつくね棒を横からお召し上がりいただけますか?」


 めちゃくちゃな契約書だけど……私ははんこを押した。


 ホテルのベッドの上では、勇人のつくね棒はガチガチに固くなっていた

 それを私は唾液のタレで絡め、唇のみでかじながら、二つのウズラ卵フライ・・・・・・・を指で弄ぶ。


 初めて聞いた力強いオスの絶叫!

 私の口の中に飛び散る肉汁も、むせるような強いオスの味がした……。


 一課の肩書きと契約ゲットは、勇人を男以上のオスへと成長させたみたいだ。


 シシトウ・・・・にまで縮んだけど、すぐにつくね棒へ。


「今度は私を……満足させて」


 ワイルドな肉食系と化した私は、つくね棒を下のお口へと導いたのであった。


  完

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合コン相手の中に元カレがいた……。 宇枝一夫 @kazuoueda

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