焼き鳥の定義
桝克人
焼き鳥の定義
晩御飯は焼き鳥の日。仕事の帰りに大型スーパーに寄ってお惣菜コーナーで見繕ってくる。時間が遅いと二十パーセント引きのシールが貼られているので、見つけ次第籠に放り込む。後は野菜コーナーでサニーレタスや(グリーンよりサニー派)ベビーリーフ、トマト、きゅうり、つまりはサラダの食材を手際よく取る。あとアボカドも。アボカドが入るだけでサラダってなんであんなに美味しいんだろうか。
そして焼き鳥と言えば忘れてはいけないのが長ネギ、もしくは玉ねぎ。春だと新玉ねぎがあればベスト。今日は丁度新玉ねぎが安売りしているのでそちらを選んだ。
あとはレジを通して帰るだけ。
家に着くと朝にセットした炊き立てのご飯の香りが玄関にまで届いていた。はぁ…堪らない。
急いで準備に取り掛かる。まず買ってきた新玉ねぎを薄く、極力薄ぅくスライスをする。昔は包丁が苦手で、よく母から注意されたっけ。そんなに分厚いんじゃ辛いやないのって。今では透ける程薄く切れる。経験って大事。
スライスした玉ねぎを網に入れて置き、買ってきた焼き鳥をお皿に移して電子レンジにかける。暫くするとたれがぷつぷつと小さな泡を生み湯気がたった。
レタスを一口サイズに千切ってボールにいれる。そして玉ねぎを切ったまな板の上できゅうりを斜め切りして、大きいトマトを八つ切りにしてレタスの上に置いた。
アボカドに包丁を入れると運が良いことに丁度食べごろだった。断面のクリーミーな黄緑色ににんまりする。コロコロ一口サイズに切り分け、ボールに足していく。
冷蔵庫から市販のドレッシングを取り出して適量をボールにかけた。少し酸味の強いレモンのドレッシングは最近のお気に入りだ。連れ合いには酸っぱすぎて不評だけど。でも今日は私の食事当番、私の好きなものにしても文句は言わせない。
アボカドを切っている頃に温め終わった焼き鳥を電子レンジから取りだそうとするが、お皿があつあつで掴むのは難しそうだ。濡れ布巾で慎重に取り出した。
あとは仕上げ丼にご飯をよそって、スライス玉ねぎを乗せる。多すぎると辛くなるので程々に。そして串を外して焼き鳥を玉ねぎが隠れるくらい乗せた。
「ただいま」
「おかえりぃ。丁度ご飯できたよ」
連れ合いは差し出した丼を見て愕然とした。
「また串から外したのかよ!」
「だって食べにくいじゃん」
「焼き鳥は串から食べるのが旨いのに」
「だったら食べない?」
「…食べるけど」
結婚して三年経つが、未だにお互いに譲れないものがある。そのうちのひとつが焼き鳥だ。連れ合いは串を手づかみで食べたい派、私は串から外してお箸で食べたい派なのだ。
私はお腹を擦り、小さな命に語り掛けた。
「焼き鳥は丼にするのが一番美味しいのよ」
焼き鳥の定義 桝克人 @katsuto_masu
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