第22話

 ぼくは急いで自室へと戻り、ベッドの下にある数ある触媒の入ったダンボール箱から一つを取り出した。それはメタンの入った箱だった。

 この家では、タバコを吸う人はいないし、火の危険による心配がなかった。ぼくはマレフィキウム古代図書館から本が消えたあの日から、戦いのために密かに色々と触媒集めを心がけていたんだ。


 廊下の手摺りから下を覗くと、大蛇は階段の踊り場まで来てしまっていた。

 ぼくは、ありったけのメタンを掌に収束して、威嚇していた蛇の口の中へと空気砲で放った。

 大きな口にメタンが入り、苦しいのか大蛇がのた打ち回りだした。

 階下へと地べたをズルズルと這って逃げていく。


 もう一度、口を開ければ、今度は火炎を放り込む算段だ。


 なんとか大蛇を撃退できると思った矢先に。

 バタンと音がした。

 玄関のドアの開閉の音だ!

 誰かが出入りしたんだ!


 恐らく家の外へ出たのだろうと、ぼくは考えた。

 あ、仲間を呼びに行ったのかも知れない?!

 もう、ぐずぐずしていられない!

 ここは危険だ!!

 

 父に召喚が事実なのかを教えてもらうのは後回しにして、ぼくは大蛇を退治することを優先的に考えた。

「おや? まだ私は寝ているのかな? 大きな蛇がキッチンにいる……一、二、三、四匹も?」

「え?!」

 ぼくは大蛇の姿がいつの間にか増えているのに、気が付いた。

「マレフィキウム古代図書館の魔術師の仕業よ 。それと、あなた……あれは本物よ。これは幻じゃないわ」

 気がつくと父と母がぼくの傍へ寄って来ていた。

 

 珪素。腐食バクテリアなどの触媒も二階のぼくの部屋にはある。

 取りに行ける時間があれば、相手が数匹でもなんとか勇気の書で戦えそうだった。

 

 キッチン、いや、この家全体には魔女である母の魔法障壁が包みこんであった。家自体はなかなかに頑丈だから、家具や壁などはちょっとやそっとでは壊れないんだ。


 こちらにまた大蛇が大口を開け、威嚇した。

 すかさずぼくは足元に置いたダンボール箱からメタンを収束して、火炎を放った。

 複数の大蛇は炎に包まれていった。

 二階から一階のキッチンまでそんなに遠くはない。

 

 少しして、大蛇を全て退治したが、どこからか新たに大蛇が何十匹とキッチンへと這い出てきた。


 ぼくは焦った。


「早く曲がった空間を何とかしないと!! 無限に召喚されてしまうんだ!!」

 ぼくは叫んでいた。

 このままではジリ貧だ!


 切迫した状況の中で、隣の父が次々と大蛇が召喚されること自体に冷静に注目していた。

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