第8話 第二章 力の書

「零! あの魔術師にみんなの顔を覚えられたわ! だから! これから先は安全なんてないも同然! 命の危険が……!」

「わかってる!」


 ぼくたちは階段を必死に降りていった。

 古い階段だが、頑丈だ。


 すかさず靖が向きを変えた。


「みんな! あんなわけのわからねえ奴から逃げることなんかねえ! 俺があいつらをぶん殴ってやる!」

「私もよ!」


 敦と弥生が階段で身構えた。

 

 ぼくもここであいつらを倒した方が、この先。身を隠したりもしなくて済むし、寝ているところを襲われたりもしない。安全が保証されるんだと思った。

 黴臭い古代図書館には、勇気の書で扱える化学物質は酸素と二酸化炭素しかないはず。空気の破裂系の魔術か、空気摩擦で相手を切り裂く小規模の稲妻を発するしかない。


 あるいは、どこかにいらない本がたくさんあれば、粉々にした後、僅かだが空気中にある静電気などを体内電流で寄せ集めれば、それを発火し、大規模な粉塵爆発もできるはずだ。


「ダメよ! みんな殺されるわ! 相手は……?!」


 白花が叫ぶが、数人の男たちが階段をゆっくりと降りて来た。それぞれ禍々しいといえる歪んだ顔だった。歪んだ顔……? いや、少し違う。顔が単に歪んでいるのではなくて、彼らの顔には様々な歪んだ模様が浮き出ていた。


「本物の魔術師なのよ!!」


 辺りは外窓からの稲光が覆った。

 土砂降りの雨の音が白花の叫びをかき消す。


 突然、敦が見えない車に激突したかのように階下へと吹っ飛んだ。

 弥生が悲鳴を上げた。

 周囲に突如、炎が舞う。

 ぼくは相殺するためと、反撃するため。

 全力で前方に空気の破裂系の魔術を放った。


 バシンッ!! という音と共に。

 炎は向きを変え、男たちに向かった。

 だが瞬間、炎が今度は瞬く間に凍った。


 古代図書館全体が凄まじい冷気で包まれる。

 魔術師たちの魔力は底知れない!


「逃げるぞ!!」

「逃げましょう!!」

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