焼き鳥神社を知ってるかい?

永嶋良一

1.焼き鳥神社

 始めて来た駅の改札口を出ると、鄙びた商店街が眼に入った。昔は賑やかだったんだろうが、いまはもう開いている店よりも閉まっている店の方が多い。やたらシャッターが眼についた。どのシャッターにも錆が浮いていた。


 僕はゆっくりと歩きながら開いている店を眼で追った。商店街の入り口から両側に・・喫茶店、すし屋、焼き鳥屋、酒屋、肉屋、散髪屋、八百屋、雑貨屋、洋品店、果物屋があって、もうおしまいだ。商店街を歩いている人もほとんどいない。


 果物屋の向こうに赤い鳥居が見えてきた。目指す蔵府ぞうふ神社だ。鳥居の下に舞が立っていた。赤い鳥居の下に、赤いワンピースを着た舞。僕は一瞬、舞を見逃すところだった。舞は僕に気づくと、にっこり笑って手を振った。僕も舞に手を振った。


 「やあ、舞。待ったかい?」


 「もう、翔太。遅いよぉ」


 そう言って、舞はふくれっつらをした。


 「それに、ここ、場所違ってるんじゃない? この神社、焼き鳥神社じゃないよ。鳥居のところには蔵府ぞうふ神社って書いてあるよ」


 僕は鳥居を見上げた。赤い鳥居に、あれは神社の表札とでもいうのだろうか、額縁のようなものが掛けてあって、額縁の中には確かに『正一位 蔵府神社』という文字が見えた。


 僕はにっこり笑った。


 「いや、ここでいいんだよ。ここは、蔵府ぞうふ神社、別名が焼き鳥神社というんだ」


 「へえ、そうなの。私、場所が違っているんじゃないかと思って、ひやひやしながら翔太を待ってたのよ。だけど、変な名前ね。焼き鳥神社なんて」







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