1章 ボーイ・ミーツ・ウルフガール(29)

 突然、どこからともなく妖の狼男が出てきた。そんな追い風に一瞬絶望したのも束の間、何故かその妖は

 意味が分からなかった。彼は予想外の助けで、ふわふわと夢の中、おとぎ話の中のような感触に襲われた。一体何が起こってるのかが分からなかった。なんで妖であるはずの狼男が同類を殺すような真似をしているのか、なぜ人間である三日月を助けたのか、そして、なぜ人間である三日月を殺さないのか。


「おい、三日月、探したんだぞ!」


 崖の上から聞こえてきた、そんな声に振り返ってみると、声主は謙一で、他の二人も一緒だった。


「な、何が起こって……」


 激しく困惑しながら三日月はそう尋ねる。


「僕にも分かってないんだけれど、僕たちが逃げていたら、突然、あの妖があいつらを一緒に倒してくれて、それからお前のことを伝えたら、一緒に探してくれたんだ」


「安心しろ、三日月、どうやら今はあいつは俺たちの味方らしい」


「癪だがな」


 そう三人が説明したうちに、あれだけの数がいた妖はほとんど倒されてしまった。


「おい、立て三日月、さっさと逃げるぞ」


「待って、そういえばユグ爺は?」


 三日月の心情は爽やかとは言い難かった。寧ろ悪化していた。あれだけ大口叩いて、「守る」なんてクサい科白セリフを吐いておいて、守るどころか見殺しにした挙げ句、その仇もとれずじまいとなった。彼の惨めさ、臆病さ、そしてそれらをひっくるめた己の弱さで、彼がまだこの世に生きているだけで火が出そうなほどであった。検討違い甚だしい嫉妬や虚栄心が蠢く。さながら、先程の妖が比じゃないほどに。辛い、悲しい、泣きたい、泣きたくない、死んだ、ユグ爺、守りたかったのに、守ってあげたかったのに、守られてしまった、守ってもらってしまった、無念を晴らしたかった、雪辱を果たしたかった、だけど、無理だった、動けなかった、動こうともしなかった、動きたくなかった、仇も取られてしまった、取りたかったのに、僕が取りたかったのに、取りたいとは思ってたのに、自分なりに頑張ったのに、なんで、どうして、妖であるあいつなんかに、妖なんかに、悔しい、悔しい、羨ましい、羨ましい、ずるい、ずるい、酷い、酷い、あいつなんかに奪われた、妖なんかに奪われた、恨めしい、恨めしい、にくい、にくい、にくたらしい。

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