1章 ボーイ・ミーツ・ウルフガール(9)
9
「杠葉三日月、お前のやったことは到底許されることではない」
「はい、申し訳ございません」
厳格な顔をし、凍るような目線で睨む髭の濃い中年のおじさん。その方の正体は、国立霊術東学院学院・学院長
「しかし、お前の話を聞く限り、その妖は二度とこの町に姿を表せないと約束したそうだ。その契約に取り付けたことは少々喜ばしいことだ。そのことに免じて、その狼男が、次に街へ侵攻して来ない限りは、お前への罰を課さないでおこう」
学院長なりの温情なのだろうか。三日月はこの件に対して、現時点ではお咎めなしとなった。だが、その狼女(りんちゃんと呼ばれてるらしいが)の正体が明らかになった時、三日月がどうなるのかは分からない。しかし、学院長は今までの話が前置きだったかのように、そして、ここからが本題だったかのように、三日月の耳が痛い、肩身が狭い話をした。
「ところで、なぜお前はまだ精霊を使役してないんだ。もうあの罰はとっくに報いただろう」
「そ、それは…… すいません」
「精霊は道具だ、とまではいかないがお前は精霊と仲良くなりすぎだ。過去の精霊なんぞ忘れてよいだろう」
「は、はい」
不躾な学院長の言い方に少しイラッとした三日月だが、間違ったことは何も言っていない。寧ろ、間違った考えなのは三日月の方だった。
「それと、こちらとしても困るのだ。君が暫く精霊と契約して、
長期間の精霊無使役、妖の逃亡援助と、
「わ、分かりました。失礼しました」
と、了承し逃げるように学院長室を離れた。
「退学か……」
不意に、そのような言葉を漏らしてしまった。
(退学することは、絶対に出来ない)
三日月はそう強く願うものの、実情は変わらない。あんなに自らの過去の亡霊の一つである狼男の件を解決したのにも関わらず、こんなにもまだ精霊を使役しようとする気は起きない自分の怠惰さに嫌気が刺した。けど、自らが精霊を使役しないことを「怠惰」という言葉で形容するには少し違う気がした。
(どうすれば良いんだ。僕は)
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