異世界ハードラッカー 自称幸運男が異世界に転生したら世界を揺るがす不運ばかりに遭うんですが
クマ将軍
第1章 クライマックスから始まるハードラッカー
第1話 死んだら女神に気に入られて転生したという不運
拝啓この度、
宝くじで一億円当選した矢先にこれだ。幸運男と自称して来たけど、肝心なところで特大の不幸に遭ってしまった訳である。
所謂
俺は自分の幸運には自信があった。ソシャゲで無課金を貫きながらも全てのピックアップを勝ち取った。宝くじも買えば最低五千円は当たった。そんな幸運の持ち主である俺は、ついに一億円を当選させるという幸運を引き当てたのだ。
そして俺は当てた金をサプライズで親の口座に振り込んだ。昨日見た親孝行物のドラマに影響を受けたからだ。
そして強盗が始まり、人を助けようとして立ち向かった。
結果として犯人は捕まり、被害は俺一人。最後の最後に特大な親孝行と親不孝を成し遂げてしまった元幸運男が俺だ。
「俺は一体、どうなるんだろうか」
そう思ったのも束の間。
俺は雲の上にいた。
「え、天国っすか?」
「はーい天国に来た方はここに並んでくださーい」
白いスーツを着た天使らしき人がそう声を出すのが見える。
嘘だろお前。
天国だぞお前。
「俺でも天国に行けるのかよ」
そこまで徳を積んだ覚えはないが? 仕事してたけど、ブラックすぎて逃げてニートになって親の脛を齧ってましたが?
周囲を見れば俺以外の人たちがいた。着ている服は人それぞれで、普段着のような人もいれば寝巻きの人だっている。
『ここは……そうか私はもう』
『お父さん、お母さん……ありがとうございました』
『ようやく、私は逝けたか』
誰もが周囲の状況に困惑しているものの、どうして自分がここにいるのか心当たりがあるようで不平不満は出ていない。
それで納得できているかどうかは別だがね。
「……並ぶか」
彼らを見ているともう戻れないのだと感じてしまう。未練を振り切るように天使らしき人の言う通りに俺は列に並んだ。
時間の概念が曖昧なのかどれぐらい経ったか分からない。それで不安を覚えたりはしない。ただ並んで待っているだけだ。当然、疲れもない。退屈という感情もない。
これが死後、魂だけの存在になった恩恵だろうか。
「それでは次の方どうぞー」
天使らしき声によって我に返る。気が付けば俺の前にいた人はいなくて、ただ綺麗な木製の扉が目の前にあった。それで俺は呼ばれたのだと理解した。
「し、失礼しまーす……?」
扉を開けて中に入る。
するとそこには――。
「佐野丈治さんですね」
――現実味がないぐらいの、綺麗な女性がいた。
「あ、はい……えーと貴女は……?」
俺の疑問に女性は微笑む。
「私は転生を司る女神……その名をマイアと申します」
「はぁ転生……え? 転生? マジ?」
「えぇ、マジです」
意外と軽い口調にも付き合ってくれる女神に目を丸くしてしまった。
「あの、俺……これから転生するんですか?」
「あなたはこれから地球の人間に転生して新しい生を送るのです」
「……え? 地球の、人間に?」
転生と言えばラノベやウェブ小説によくある異世界転生ではないのか!? そんな俺のどうでもいい疑問は内心だけに留めて、女神様の話を聞く。
「先ず、生前の行いにより貴方には最高ランクの幸福度を与えます」
「え、幸福度?」
「はい。幸福度が高ければ人間として生まれ、比類なき才を持ち、生涯を幸せにかつ穏やかに過ごせるのです。ですが逆に低ければそれなりに苦労もありますし、酷ければ人間に転生せず動物や植物に転生し……マイナスになっていれば地獄に落ちます」
仏教の世界観に似てますね、それね。
「ですがそれはあくまで転生する際に与えられる数値。そもそもの話、善を為し徳を高く積み上げた方は転生せず天国の住人として永遠の幸福を得られるのです」
そこはキリスト教に似てますね。
でも待てよ?
「……先程女神様は俺に最高ランクの幸福度を与えるって言ったけど、それでも天国の住人にはなれないのか?」
「いいえ、貴方には天国の住人になる資格がありますよ」
「え? だったらどうして……」
そんな俺の疑問に、女神は説明を始めた。
「貴方は生前、親にお金を送りましたね?」
「あ、はい……宝くじの金を……」
「あなたの親はそのお金で募金を行い、数々の人々を救いました」
「え、父ちゃんと母ちゃんが?」
「それだけではありません。あなたが自らの命と引き換えに逮捕した犯人を覚えていますか? もしあのまま銀行強盗が成功すれば歴史的な犯罪者となり、遠い未来では数々の不幸が起きていた事でしょう」
他にもあの銀行の中には未来を左右する人物が大勢いたらしく、俺の行動によって結果的に未来は大きく幸せに向かうという。
「えぇ……何その風が吹けば桶屋が儲かるみたいな理論……」
「ですがこれが結果なのです。あなたのそうした行動が起点となり、幸せな未来へと繋いだ。以上の功績により、貴方には最高ランクの幸福度と記憶継承を行い、自らが繋いで見せた幸福な未来を体験させようというのが、我々神が下した決断です」
「そう、か……」
「そして勿論、貴方が再び死者として天国に来た場合、ちゃんと天国の住人として迎え入れて差し上げますよ」
俺の行動は無駄じゃなかった。
俺が死んだのは残念だけど、死んだ後で報われたんだ。
「やっぱり俺は……幸運男だなぁ」
「えぇあなたは本当に幸運の持ち主です……もしあの場で死ななかったら暗黒の未来に苦しみ、難病で苦しみ、苦しんで死んでいたでしょうから」
「そんな未来聞きとうなかった」
女神が語る、もし俺が死んでいなかった場合の未来図があまりにも苦難に満ちている事に俺は顔を引きつらせた。
「え、それじゃあ何か? あの場で死んでた方が幸運だったと?」
「即死で苦しまずに死んでよかったですね」
「言い方ぁ!!」
◇
「それでは転生の手続きを進めますね」
「あ……はい」
まぁ何はともあれ、俺は人間に転生するってわけだ。それも俺の行動によって幸せな未来が確定している地球への転生だ。
休載になっていた漫画の続きも読めるかもしれないし、あの後の生前の両親がどうなったのかも知れる。記憶も引き継がれるらしいから本当にやりたい事が山積みだ。
待ち受ける未来にワクワクしていたそんな時だった。
「マイヤァ!!」
「――えっ……お、お姉様!?」
突如として何もない空間から褐色ワイルドな女の人が現れた。そしてこれが、俺の人生が狂ってしまった直接的な出来事である。
「今更なんですか!?」
「ワシが悪かった……!」
「……っ! ……バカですね……寂しかったんですよ……?」
俺はいったい何の茶番を見せられているんだ。気が付けば褐色ワイルドな女の人とマイヤが抱擁している光景に困惑を隠しきれない。
「もう二度とやらないでください……」
「あぁ、済まぬ……!」
「黙って地球行きの魂を持って行った罪で、また五千年も離れたくありません!」
おい何やってんだ。
「あぁ申し訳ないと思っておる……主神から色々叱られたしな。でもワシの世界の邪神問題は山ほどあるから、また魂を持っていこうと思っておるよ」
おい何言ってんだぁ!?
「お、お姉様ぁ!? 一体何を言って――」
「お? なんじゃ随分面白い魂がそこにおるではないか」
「え、俺!?」
矛先が急に俺の方へと向けられてしまった。
「よし! ワシはお主を連れて行く事に決めたぞ!」
「いけませんお姉様! この方は生前の徳により人間に転生させる予定で――」
「剣と魔法の異世界じゃぞ? ハーレムじゃぞ? 俺TUEEEじゃぞ? ん?」
ん? じゃないが?
「いやぁあのぉ、あっしは普通に人間として転生して貰えばそのぅ」
「おぉそうかそうか! 気に入って貰えたか!」
「ねぇ話を聞いて?」
「ワシは修羅の女神ネシア! 修羅ありし世界を守る女神じゃ! お主をワシの眷属としてワシの世界で生き、邪神の脅威渦巻く世界を救いに行くのじゃ!!」
「そんな修羅場溢れる世界に行きたくないよ!!?」
俺は平穏が良いの! 地球の娯楽文明が良いの!
そんな胃痛で死にそうな世界に行きたくない!
行゛き゛た゛く゛な゛い゛っ゛!!
ヤメロー! イキタクナーイ!!
「俺は幸運男だ……誰がなんと言おうと幸運男だ……! 何故こんな事に!?」
「幸運ならあの世界でもやっていけるじゃろ」
「幸運で死んだ男ですが!? いや、おい待て俺の首根っこを掴むんじゃねぇ!! 助けて女神様ぁ! 俺知らない世界に転生させられるぅ!」
「そ、そうですよ! お止めくださいお姉様!」
女神マイアが姉にしがみ付くように引き止める。
そんな彼女の行動に女神ネシアはゆっくりと振り向き……。
「マイア」
「はいお姉様」
「見逃してくれないと天界中にお主が地球でコスプレしてた写真をばら撒くぞ」
それ脅迫ぅー!
「え、なんで知って……五千年離れ離れなのに……でも……ッスゥー」
顔が赤く、青く、そして無になって息を深く吸う女神マイア。
そして目を開いた彼女は女神に相応しい笑みを浮かべて言った。
「どうかお気を付けくださいお姉様」
「屈したぁー!?」
「それでは行ってくるぞい」
いや待って、待ってくれ!!
良いのか? 正義が悪に屈しても。
このような横暴があって良いのか?
俺は断固として抵抗するぞ!! 今ここに俺の幸運神拳が炸裂するぞ!?
「それではあなたの来世に幸運がある事を祈っております」
「嫌味かそれはアアアアア!!!?」
突然の浮遊感に叫ぶ俺。
見れば俺の体はどんどん空へと昇っていき、ここで俺は意識が暗転した。
◇
そうして生まれたのが僕ってわけ。
拝啓この度、僕は転生しました。
名前はジョン、五歳です。苗字はないらしい。
昨日の五歳の誕生日に僕は寝て、起きたら前世の記憶が蘇ったのだ。ご丁寧にあの天国でのやり取りも含めて、だ。五歳までの記憶はあるけど、前世の記憶が戻った瞬間、僕の意識は記憶に引っ張られて随分成長したような気がする。
「はぁ……マジか……」
家の外でため息を吐く。
「これって……ワケアリ、だよな?」
家族構成は僕と母の二人で父はいない。
僕の家の周囲には村や人々の影はなく、ただ一軒家がポツンと森の中に建っているだけの場所だ。家の周囲は柵で覆われていて、僕は一度も柵から出たことはない。この柵の中が僕の知っている世界だ。
これがこの世界の常識ってわけじゃないなら、今僕のいる環境は異常だ。明らかに人目を避けて暮らしているように見える。僕は一体どういう家庭環境に生まれたんだろう。
「……帰るか」
そう言って僕は家に帰ると。
――母が首を吊ろうとしている光景が目に入った。
「っ!? お母さん!?」
急いで母の足をしがみ付き、やめさせようとする。すると母は正気に戻ったらしく疲れた表情で僕に振り向いた。
「あ……あぁ……ジョン、お帰りなさい……」
「う、うん……ただいまお母さん……」
母はまるで何ともないように台座から降りて寝室へ向かって行く。僕はそんな母を見て、天井に吊られている紐を睨んだ。
「……くそ」
首吊り用の紐は記憶にある限りずっと天井に吊られていた。まるで最初からそこにあったかのような状態でそこにあったんだ。
「お母さん……」
記憶を振り返れば、母は隙あれば首を吊ろうとしていた。その度に赤子の頃の僕の泣き声とかで様々なタイミングで阻止されている。運が良いと言えば運が良い。流石は幸運男だと自慢したいけど、事態が重すぎて冗談も言えない。
母は今、精神的に追い詰められている。理由は分からないけど、きっとここで暮らしている理由が関わっているのかもしれない。
「……届かないな」
あの紐を捨てたいが高すぎて僕の身長じゃ取れない。
それが悔しくて、悲しくて。そしたらふと、紐が動いたような気がした。
「え?」
気のせいかなと思って、僕は先程動いたような紐を見つめる。しかし僕の耳に、母以外の声が聞こえて来て、驚いて飛び上がってしまった。
『おぉどうやら前世の記憶が蘇ったか!』
「っ!? その声は……!?」
声が聞こえる方向へ振り向くと、そこには一匹の黒い鳥が窓に立っていた。間違いない、僕はあの鳥を知っている。あの鳥こそ僕を転生させた元凶――。
「修羅場の女神!!」
『修羅の女神じゃ!!』
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