A002『デス猫』(20分で829字)
A002『デス猫』(20分で829字)
【悲恋】西・猫・最初の脇役
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西の大型新人と名高いアルトにも、苦手なものはある。
最初に劇に参加したのは幼稚園の見世物会だった。当時のアルトは才覚を見出される前で、背が高くもなく、大人しい性格でもあった。そんな子は脇役を押し付けられる。
それで腐ったらおしまいだが、アルトの名演技で来賓たちに天賦の才能を知らせた。これがいい話で終わらない理由は、当時のきっかけにある。
アルトは猫を恐れている。
偶然にも猫を恐れるシーンがあり、ちょうどシーン開始直後に野良猫が園内に入り込んだ。徐々に近づいてくる猫に対し、アルトは泣きそうになりながら、それでも今は演劇に集中して涙を堪える。登場人物もそんな心境だった。
最大の名場面で、アルトはついに涙をこぼした。幼稚園児の演劇に期待する者はいない。誰だろうとそんな話をしない。だからこそアルトの涙は強く輝いた。保護者たちを皮切りに、ライバルだった演者も悔しいが負けを認め、アルトの腕が知れ渡った。
それ以来、アルトは演劇の道を邁進してきた。
小学校の片手間に、中学校の片手間に、劇団の講演に参加してきた。多くの人と出会う。当然に、アルトが舌を巻く有能さに出会う機会もある。多くはあいさつを交わしてそれっきりになるが、テノルに対しては違った。うまく説明できないが、何かが違う。声をかけたくなったり、役柄が近いと嬉しくなったりした。
人生の先輩たちは恋心と呼んだ。これが悲劇の始まりになった。
会話を重ねて、テノルからの好意も返ってきた。ついに彼の家へ招待され、敷地に足を踏み入れた。玄関の扉を開けて「ただいま」と「お邪魔します」が響く。足音が押し寄せてくる。小さく、小刻みに。
猫だ。しかも尋常でない数が、手前の扉から、奥の扉から、階段上から、照明から、二人の元へ殺到する。
アルトは突然の強い負荷に晒された。呼吸が浅く早くなり、心拍数が増大し、目眩が襲う。後退しかけて倒れれば後頭部を守るものは何もない。
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A002『デス猫』(20分で829字)
【悲恋】西・猫・最初の脇役
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