第59話「会議のはじまり」

 紅茶と資料の紙が並べられたテーブル。

 室内は王城の中でも比較的落ち着いた装飾品の少ない一室だった。


 会議に必要な人物が揃った事を確認したロドルナが進行を始める。


「では、これより『魔王』対策会議を行う」


 その一言で、空気が変わったような気もしたが、エヴァンはそれよりも二人の女性に見つめられている事の方が、気になって仕方なかった。


「初めに、今回二人の魔女様のご協力頂きました事に感謝を」


 と、二人の女性へ頭を下げるロドルナともう一人の男性。

 男性も王政関係者だろう。

 対して魔女と呼ばれた金髪の女性は頭を下げるも、もう一人は頭を下げずに、鼻を鳴らす。


「おい、早く初めて終わらせましょう」


 何となく、その姿がロドルナと似たように感じたエヴァンであったが、丁寧な口調と横暴な態度の差が特徴的な女性は、ロドルナを急かす。

 対してロドルナは非常に落ち着いていた。


「すみませんが、王政とは関係ない者もいますので、紹介だけでもいいでしょうか」


 それは、エヴァンの事だろうか。


「さっさとして下さい」


「はい、では本人に代わりほんの少しの紹介を。こちら『救世主』エヴァン・レイ、ストラ領の者です」


 話の進みに合わせて、エヴァンは会釈をする。

 それでも会釈したのは、金髪の女性だけだった。


「この場において、エヴァン・レイは初めての参加となるので、魔女様のご紹介もさせて頂きます」


 そう言うと、丁寧にロドルナは紫髪の女性を示す。


「こちら、謙虚の魔女様」


「ふん」


 紹介された謙虚の魔女へ会釈をしたエヴァンであったが、謙虚の魔女イスルは腕を組み、鼻で返事をする。

 非常に横暴というか横柄な態度だと感じたエヴァンであったが、ではもう一人が勤勉の魔女だろうかと、気になる。


 ロドルナはもう一人の金髪の女性を示す。


「こちら、純潔の魔女様」


 その言葉に声を上げそうになるエヴァンは、必死に抑え込む。

 

 その事実が、衝撃的な威力でエヴァンにぶつかる。


 対して純潔の魔女はゆっくりと会釈する。

 慌てて、会釈を返したエヴァンであったが、心の中は澱んでいた。


 勤勉の魔女との接触が無い。

 一週間前に、決めた事が崩れていったのだ。

 勤勉の魔女から『魔王』や魔人族の事を聞く。

 その予定が泡となった。


 それだけで、ロドルナを睨むには充分な理由であった。


「こちらのは、本日の書記を務めます」


 と、ロドルナはもう一人の男性を紹介する。

 エヴァンが睨んでいる事など、どうでもいいように。


「そして、本日進行役をします、ロドルナ・ヴェルトヘイムです。以上を持ちまして簡単な紹介とします。では、意見交換に移りましょう」


 紹介の済んだ面々は、会議を進める。

 ロドルナをいつまでも睨む事もいいのだが、切り替えねば、とエヴァンは気持ちを入れ替える。


 ロドルナへの追及は後でいいのだ。


 今は、この場での情報を出来るだけ収集する。


 慈善の魔女ではない魔女二人と接触できただけ、収穫はあったのだ。

 後は、『魔王』の事と魔人族の事が知れれば上々。

 エヴァンの瞳は研ぎ澄まされた鋭さがあった。

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