第41話 王宮にて......

 今日はセシリアが王宮に来る日だ。


 エミリアが母上に来ることを言ったみたいで、エミリアも母上もセシリアに会う気満々だ。そんなに王族と一遍に会うと、またセシリアが気絶するんじゃないか?


 僕も朝から部屋着ではなく、王族然とした衣装を身に纏っている。ミリアは、久しぶりに着てくれて嬉しいです! ミリアは幸せです! と恍惚とした表情を浮かべていたのは正直怖かった。そんなことになるくらいならもう着ないぞ?


 セシリアのお迎え役には、アルトという小間使いを選んだ。と言っても小間使いはアルト一人だけなんだけどね。


 アルトを見つけたのは一年ほど前だ。王宮を歩いていると、頭を下げて僕が通り過ぎるのを待っていたのがアルトとの出会いだ。王宮にいる人はどんどん鑑定していて、アルトも鑑定対象の一人だった。鑑定してみたらすべてが80台を超えていて、性格も真面目、こんなにいい人材はそういないと思い、父上に頼み込んで小間使いとして僕のもとで働いてもらうことになった。


 将来は僕の側近として居て欲しいから、今は、通常の業務に加えて、勉強もして貰っている。覚えも早く、もうすぐ、中等部の勉強は終了しそうだ。


 王宮には家から通っていて、家には妹さんがいる。妹さんは体が弱いようで、早めに家に帰らすようにしている。王宮に住めば? と提案してはいるもののなかなか首を縦に振ってくれない。悩ましいことだ。


 アルトに任せておけば、セシリアは大丈夫だろう。妹さんがいるせいか、女の子の扱いが手馴れているしな。ミリアもすっかりアルトと仲良くなっているし、嬉しい限りだ。


 もうそろそろセシリアが着く頃だろう。

 

 エミリアと共に馬車の停車場まで向かう。



 アルトが馬車に乗って戻ってきた。中にはセシリアがいるのだろう。


 アルトが御者席から降り、馬車の扉を開ける。


 中から出てきたセシリアはいつものセシリアとは見違えて見えた。


 いつものセシリアが可愛くないわけじゃない。むしろ、制服のセシリアはそれはそれで破壊力がある。でも、化粧をしたセシリアはまた違った良さを持っている。


 いつもの愛らしさもありながら、純白のドレスを身に纏っていることによって、大人で清楚な女性を演出している。ドレスの白と黒髪がいい具合にマッチしていて、似合っている。それに、化粧が控えめな点も好感が持てる。本来のセシリアの可愛さを損ねず、それでいて大人っぽい。


 あまりに可愛くて、綺麗で、思わず、『綺麗だ、似合っているよ』なんて普段言わないような発言をしてしまった。それくらいセシリアの綺麗さに心を奪われていたという事なのかな。


 セシリアは僕の言葉に反応したのか分からないけど、いつもみたいに気が飛んでた。多分、エミリアのドレス姿でも見て前の時と同じように気が飛んだのだろう。


 僕の言葉で照れていたのなら少しうれしいけど、でもないんだろうなぁ。


 とりあえず、セシリアを介抱しながら、僕の部屋へと連れていくことにした。



 部屋では既にミリアが紅茶を準備して待っていた。


 ミリアもとても優秀なメイドだ。王宮内での評判も高く、主である僕も鼻が高い。


 セシリアはやっと慣れてきたようで、普通に会話ができるレベルにまでなっている。でも、やっぱり怖いみたいで僕の腕を掴んでいる。僕にとっては得としか言えない。前世でもこんなことなかったし、夢のような時間だ。何とは言わないが当たってるんだ。初めての感触だ。


 いけないいけない。そんなこと考えちゃいけない。セシリアは怖がってるんだから、僕は支えにならないといけないんだ。


 ミリアは少しムッとした顔をしているし、エミリアはにやりとこっちを見てくるだけだし、なんだか不気味だ。


「セシリア、そろそろ大丈夫? ほら、その……」


 さすがにずっと腕に捕まられると、僕の理性が持たなくなる。心惜しいが仕方ない。


「あ、ごめんねっ!! 迷惑だったよね……」


「迷惑じゃ全然なくてむしろその…ずっとそうして欲しいというか……」


「よかった! 迷惑じゃなかったんだ…… ありがとう。ユーリ君っ!!」


 いきなり離してくれだなんて言ったらそりゃ僕が嫌がっているように感じちゃうよね。配慮が足りなかった。


 でも今の発言、良くなかったんじゃないか...... やってしまったかもしれない......


 エミリアは依然としてニヤニヤしたままだ。なんか嫌だなぁ。



 その後は学園での話を交えながら談笑して過ごした。


 優雅なひと時を楽しんでいたが、突然、ドアがノックされた。


コンコンッ


「メリルに御座います。ユーリ様、イリーナ様の準備が整いました」


 遂に来てしまった。


「ユーリ君、イリーナ様ってもしかして……」


「僕の母上だ。母上もセシリアと一度話をしてみたいと言っててね……」


 頭の中で想像したのかセシリアの顔がみるみる蒼褪めていく。


「セシリアさん、お母様の所へ行きますよ」


 エミリアがセシリアの手を半ば強引に引き、母上の所へ連れて行った。セシリア、すまない。母上は絶対なんだ。決してマザコンなどではない。家族全体が母上には逆らえないのだ。あの般若のような顔が出てきた時は必ず地獄を見る。その時の姿は決して聖女などには見えない。


 セシリア、頑張れ……

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