第27話 遠足③

 少し森へ入ると、もう既に後ろも森で、目印をつけて行かないと迷いそうなぐらいだった。森に入る際の注意点はすべてトールから聞いた。どうやら小さい頃から冒険に付き添っていたようで知識はばっちりだ。


「トールはすごいね」


「いや、そんなにすごくはないよ。プロの冒険者の人は魔物の気配を読んだりできるんだから」


「へぇー。そうなんだぁ」


 そんなたわいのない話をしていると、近くで誰かの声がした。


「ギャハハハッ」


「やめてください!」


「いいじゃないか。別に」


「やめて、ください」


 この声は!?


「ユーリ君。この声って」


「あぁ、まずいかもしれない!」


「ユーリ様! 急ぎましょう!」


「なんだなんだ!? ユーリ状況を教えてくれ!」


「ドルトスだ!」


「なっ!!!!!!! あいつまたやらかしてるのか。ここは魔物もいる森だぞ!!!」


「そんな奴は許すわけにはいかねぇ。早く連れて行ってくれユーリ」


 皆この行動の異常さに気づいてすぐさま行動に移す。ミルトも黙ってはいるが、怒っているのが分かるほどには顔が歪んでいた。


 数分走ると、ドルトスとその取り巻き、そして、言い寄られている女の子の姿が目に入ってきた。


「おい! ドルトス!」


「誰だ!」


「俺だ。ユーリだ」


「ゆ、ユーリだと!? なんでお前がここに」


「今回は合同演習だ。知らされているはずだろう?」


「あ、あぁ。し、知っているぞ」


「それでお前は今何をしようとしていたんだ?」


「いや、何もしようとしていない!」


「じゃあその手は何だ。女性は嫌がっているようにみえるが?」


「ちょっと可愛がってあげようとしただけだ。お前もそんなことはままあるだろ?」


「それが公爵家の行いか? 見損なった。お前はセシリアだけでなくそこの女性までも手中に納めようとした。しかも強引に。それは上流階級の者がするべき行いではない」


「なぜだ? 父上も同じようにしているぞ? 俺たちは選ばれたものだ」


「とにかく、魔物のいる森ではそのようなことをするな。魔物が寄ってきてもお前らの力じゃ対処できない。そして、その女性は俺たちで保護する」


「ふざけるな! こいつはBクラスのモノだ。お前が関与していい問題じゃない。」


 その言葉が発せられるやいなや、ドルトスの耳元を矢が通りすぎ、木に深く突き刺さった。


「お、おい! 何をする。俺様は公爵家だぞ! その行動は許されない!」


「ユーリ、僕はこいつが許せない」


 ミルトがふつふつと怒りを募らせている。しっかりとぎりぎりを狙ったものだろうが、当たれば大問題となる。そのことも分かったうえでミルトは放ったのだ。


「ミルト、落ち着け。さすがに怪我をさせると面倒だ。おい! ドルトスがその態度なら、こちらは武力行使も辞さないぞ。早く女の子を渡せ」


「ちっ、仕方ない。おい! お前。今度会ったら許さないからな」


「す、すみません!!!!!!!」


 涙を目にためながら最後の力を振り絞り僕たちの方へ走ってくる。相当怖かったのだろう。そりゃそうだ。自分より身分の高い人から言い寄られたら断ることなどできないだろう。良く断ったと思う。その勇気を称えたいところだが、今はこの子の安全が優先だ。


「とにかく大声で騒いだりするな。誰でもわかる常識だ。分かったか?」


「何を恐れているんだ? ハハハッ。こりゃたまげた。王族のくせに恐れ戦いているとは」


「まぁいい」


 ドルトスの態度がデカくなったように感じた。


 とりあえず、今はこんな奴に構ってはいられない。できるだけ早くガイトス先生のもとへ届けることだけを考えよう。この子は正常な状態ではないから、演習はできるような状況ではないだろう。

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