王子として転生し、スキル【領地内政】と【人徳】を武器に異世界を生きる!

ショー

第1話 転生①


 僕は18歳の高校生、磯崎守。


 父は僕が小さいころに他界して、母親の手で育ってきた。母は父が死んでから、僕に対しての当たりがひどくなった。父が死んだ理由が僕のせいだと思っているからだ。父は事故死だった。いつも遅くまで仕事をして、僕たちの生活費を一生懸命稼いでくれていた。でも、その分疲れが溜まっていたらしい。運転中ふっと気を抜いた瞬間、対向車線の車と正面衝突。医者が最善を尽くしたが亡くなってしまった。


 そこからというもの、母は夜のお仕事を始め、帰らない日が増えた。僕がまだ小学校を卒業した年だ。お金はくれたけど、そのお金では学校にはいけないし、ご飯も食べられない。だから僕は必死に働きながら今まで生きてきた。母はいつもきつい香水をつけ、帰ってくると男の匂いを部屋中に充満させる。機嫌が悪いとすぐ殴りつけられ、たばこの火を押し付けられる。傍から見れば虐待だ。でも、それで母の気が済むのなら僕はそれでもよかった。


 こんな母でも僕の母だ。僕の大事なかけがえのない人だ。


 僕なりには頑張って生きてきたつもりだった。でも、もう疲れた。もういい。


 そんなことを思いながら家路に着いていると、ふと小さな子供が目に入った。目の前の横断歩道の真ん中でしゃがんでいる。だが、右からはトラックが迫ってきている。子供がしゃがんでいるから運転手は子供の姿が見えていない。


 そのことに気が付いた僕は、咄嗟に行動を起こした。


「危ないっ!!!」


 そう叫びながら子供を手で突き飛ばした。


 無我夢中だった。


 トラックはもう目の前。


 キキッ――


 ――ドンッ


 ――そのままはねられて僕は死んだ。



 目を開けると白い空間が広がっていた。そして、なぜかダイニングセットが置かれている。そして、その椅子には、人が座っていた。金髪碧眼で目鼻立ちがしっかりしていて、すらりとした肢体。出ているところは出ている。正に絶世の美女って感じだ。


「あの…… ここはどこでしょうか?」


「貴方の世界で言う天国に近い場所です。」


「はぁ。では僕はもう死んでしまったのですか? 貴方は誰なのですか? なぜ僕がこんなところにいるんですか?」


「まずは落ち着いてください。椅子におかけになって。」


「すいません。気になるところが多すぎてついつい聞いてしまいました」


「いいのですよ。では、まずどこから話しましょうか……

まず、私は神と呼ばれる存在とでも言っておきましょう。

あなたは亡くなってこの場所に来ました。本来の人であれば記憶を抹消してこのような場所にも招かず、もう一度人生を歩んでもらうことになっています。ですが、あなたは本来の亡くなり方をされていないため、ここに呼ばせて頂きました。」


「本来の亡くなり方でないというのは……?」


「貴方は、本来老衰で亡くなる予定でした。しかし、貴方があの少女を助けたことによって、貴方の死因が事故死という形に上書きされてしまったのです」


「そうなのですか…… では、あの子は!!? あの少女は助かったのですか!?」


「はい。貴方のおかげで、助かりましたよ。幸い貴方に突き飛ばされたことでできた傷だけで、大きな怪我はしておりません。本来はあの子が事故死となるはずでしたが、貴方が助けたことによって、あの子は老人まで生きることができるようになりました」


「それは良かったです…… では、僕の母は大丈夫ですか!? 僕が死んだら……」


「はぁ……。 まだあの人の事を想っているのですか? あの人は貴方にとって最悪な人であったはずです。それでもまだ……。 大丈夫ですよ、あの人は。それだけは保証します」


「良かったぁ。あんな人でも僕の唯一の大切な人ですから。その言葉が聞けて良かったです……」


「確かにそれもそうですね。でも、貴方はあんな過酷な環境のなか、よく頑張りました……よく頑張りましたね」


 そう言って神様は僕に慈愛の笑みを浮かべてくれた。



――ポタッ……ポタッ……



あれ……. なんでだろう……


なんでか分からないけど、前が見えないなぁ......


なんで......? 僕はもう死んでるはずなのに......


なんで......


なんで今になって......


なんで今になってそんな優しい言葉をかけるんだよ......


――泣いてしまうじゃないか……


本当はもっと構ってほしかった。優しくしてほしかった。本当の家族みたいにいっぱい学校のことを話して。友達なんかも家に呼んだりして。そんな生活をしたかった。


ただ、一緒に過ごしたかった。ただそれだけなのに……


今更後悔したって遅いのに……


あぁ、僕は蓋をしてたんだな…… 考えるだけで苦しくなるから…… 嫌になるから……




僕は死んでから、大粒の涙をこぼした。だがそれはもう遅すぎた涙だった……。


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