つくねピーマン

冨平新

つくねピーマン【KAC20226参加作品】

ピピッ!

 宗像英二むなかたえいじのスマホの着信音が鳴った。

 「泰雄やすおからだ」


 小学校以来の友人である

田村泰雄たむらやすおからのメッセージだった。


 宗像英二は、

10月2日に誕生日を迎えるのだが、

 最寄り駅近くの、

全室完全個室の焼き鳥店『とり吉』に予約したから、

誕生日は開けておけ、一緒に祝おう、とのことだった。


 「相変わらず、強引だな」

 クスッと笑いながら、メッセージを返した。

 もちろん、泰雄が決めた通りにするのである。


◇ ◇ ◇


 2人の実家は、同じ小学校の学区内にある。

 2人とも独身で、徒歩で実家に帰省できるマンションで

一人暮らしをしている。


 2人は小学校高学年で同じクラスになり、

同じ班になった時に友達になった。


 英二は成績優秀、泰雄の成績はソコソコであったが、

共にサッカー少年であった。


 晴天ならば、休み時間には、

グラウンドに走っていき、

空気がしっかりと入ったボールが取られる前に確保して、

パスをしながらサッカーゴールに近づき、

大体、英二がアシストして泰雄がシュートを決めていたが、

逆の時もあった。


 2人ともサッカーが上手で、

爽やかイケメンだったこともあり、女子にモテていた。


 しかし、女子にモテることを

学生時代に経験し過ぎてしまった2人は、

女性の気を引こうとして行動したことはない。


 硬派ではないが、軟派でもない。


 女性の恋人や友人が欲しいとは思わないし、

女性にあまり興味がないのである。


 会社に就職した後も、

オフィスラブなど1度も経験したことはない。


 女性に対して興味がもてないまま、

大人になってしまった2人は、

結婚後の資金や、生活の煩わしさのこともあり、

結婚はしたくない、というところで、

意見が一致していた。


 続々と結婚していった他の友人たちとは、

徐々に距離ができ始めた。


 お互いの誕生日は、余程のことがない限り、

必ず2人だけで祝っていた。


◇ ◇ ◇


 英二は約束の時間の少し前に、

『とり吉』の入ったビルの前で待っていた。

 15分ほど遅れて泰雄が到着した。


 「おうっ!元気だったか?」

 遅れたのに軽い謝罪もないのが、泰雄だった。


 「俺、ここの焼き鳥屋、

一度行ってみたかったんだよな」


 泰雄は、階段をあがっていく。

 その後ろを英二は、黙ってついていく。



 店内は、和を織り込んだ洋、

という雰囲気のお洒落な造りになっていた。


 「田村様のご予約の

2名様完全個室のテーブル席はこちらでございます」

 「とりあえず、生2つ」

 泰雄が注文した。


 案内された個室は、

ネットカフェの個室ほどのスペースに、

テーブルがあり、

椅子が向かい合わせになっていた。


 奥の席に、

誕生日の主役の英二を促し、

英二はカニ歩きで奥の席に、

泰雄は入り口に近い席に座った。


 「ここ、お洒落だね。

焼き鳥屋とは思えない」


 「そうだな。

フレンチレストランみたいな雰囲気だ。

俺、美味い焼き鳥は食いたいけど、

店内にいる他の客の煙草の匂いとか、

ガヤガヤした五月蝿うるさい笑い声とか、

そういう、関係ない連中の悪臭と騒音の中で

お前の誕生日を祝うよりも、

こういう、静かな雰囲気のところで

祝いたかったんだよな。

ここは俺が奢るから」


 「いいよ。自分の分は自分で払うよ」


 「そう言うなって。俺におごらせてくれよ。

お前は今日、

41歳の誕生日を迎えた主役なんだからさ。

その代わり、

来年の俺の誕生日には、何か奢ってくれよな」


 泰雄はいつも勝手に決める。

 しかし、小学生の時からこうだから、

英二は慣れているし、嫌ではない。

 職場の人間たちには

見せられない部分なのだろう、と英二は思った。


 店員が「失礼します」と個室に入ってきて、

2つの生ビールが、上品にテーブルに置かれた。


◇ ◇ ◇


 「彼女とか、できたか?」

 「いや~、仕事が結構忙しくて」

 「女どころじゃないって?」

 「うん。出会いもないし」

 「会社の同僚とかは?」

 「ああ、もう全然。タイプもいないし」

 「どんな女がタイプなんだっけ?」

 「えーと・・・」

 英二は泰雄の質問攻めにあっていた。


  泰雄は予約時に、1人5000円ほどの

2時間飲み放題付きの

『旬の味覚コース』を注文していた。

 食事がテーブルに運ばれ始めた。


 「これ美味そうだな。『軟骨入りつくね串』だって。

このタレつけて食べるんだって」

 「美味しそう」

 2人はビールを置いて、

 『軟骨入りつくね串』にタレを付けて食べた。


 「うんまい!」

 「ホント、美味しいね、これ」


◇ ◇ ◇


 「そう言えばさ、俺、

『孤独のグルメ』結構好きなんだよね。

テレビでやってたら、絶対毎週見ちゃうよ」


 「ああ、いいよね。僕も好きかな」


 「松重さんって、食べ方キレイな」


 「そうだね。あんなに食べているのに、

スマートなのもいいよね」


 2人は、『孤独のグルメ』の話で

盛り上がり始めた。



 「俺さ、Season1の第1話の焼き鳥屋、

行ってみたんだよね」


 「え、そうなの?」


 「門前仲町の『庄助』って店。 

もちろん、松重さんが食べてた

『つくねピーマン』も食べたよ」


 「『つくねピーマン』?

この、つくねと、・・・ピーマン?」


 「そうなんだよ。一緒に食べるんだ。

 縦に半分に切ったピーマンが、

串に刺さったつくねと一緒に出てくるんだ。


 それで、まずピーマンを皿に乗せて、

その上に、つくねを1個、串から取って

乗せるんだ。


 ピーマンの器の中で、

柔らかいつくねを割りばしで潰して平らにして、

ピーマンの肉詰めみたいにしてから食べる。

さっぱりしたピーマンのシャキシャキ感と、

温かくて柔らかいつくねが、合うんだわ」


 「へ~、美味しそうだね」


 「健康にも良さそうだし、後を引く美味しさ。

やめられない、とまらない。

七味かけても美味いんだよ」


 「わ~、食べてみたいな~」


◇ ◇ ◇


 「あ~、美味かった」


 「今回は、ご馳走になっちゃったね。

泰雄の誕生日には、僕がどこかでご馳走するよ」


 「約束、な!」


 「ああ、確か6月16日だったよね」


 「ははは、毎年だからな」


 「もちろん、覚えてるよ」



 「会社の同僚が、

『ケンタッキー』買って帰った翌朝、

カラスの襲撃しゅうげきにあって、

髪と洋服が汚れたまま出社したことがあった」


 「えー、怖いね、それ」


 「フライドチキン喰った人間は、

同胞を喰った奴、って判断してるんだろうな」


 「カラスは上から人間をよく見てるんだね」


 「なあ、今から俺んちに来ないか?

明日の朝、カラスに襲撃されないように、

カラスの様子を見てから、2人で出よう」


(完)

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つくねピーマン 冨平新 @hudairashin

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