第69話 十三の呪い

 魔王が太刀を納刀し、こちらに歩みを進める。


 ザッハークが警戒心を高めているが、意味がないぞ。アレに警戒したところで、瞬殺されるのは目に見えている。なら、自身のペースを維持していた方がいい。



「魔王、私に何のようだ?」

「別に貴女に用事があって来た訳ではないですよ。

 生態系に合わない強大な生命が誕生したのを感知したので、それの駆除をしに来たまでです。それに貴女と最初に会ったのも【UIM】という環境の破壊者を殺しに行ったからですよ」

「……惡の徒ダエーワ、【UIM】に侵略者や【始源の惡】か。大変だな、貴様も」

「本当ですよ。なんなら、貴女にも手伝って貰いたい程ですよ」

「ハッ、私には為さねばならない事がある。それが終わるまでは貴様に手は貸せん。それに私は未だそこまでの力はない。精々、一人で頑張るんだな」


「いや、いやいやいやいやいや!ちょ待てよ、リズさん。なんでそんなに軽く【界崩の魔王】と話出来てんだよ!え、あの魔王だぞ!おかしいだろ!」



 あー、そうさな。この世界では【界崩の魔王】空亡 狂愛は最も神に近く、星の天秤を務める存在。善性に傾けば、巨大な善性を殺すか、悪性の活性化を促す。悪性に傾いても、然り。

 元々あった世界を崩し、新たな正しい世界へと変革するのが、この魔王。最早、魔王という域を超えているが、魔王なのだ。この情報は世界図書アカシックレコードと小世界を識った時にインプットした。


 ……しかし、余りこの魔王は知られていない。なのに、ザッハークは知っている。くは、面白いな。ザッハーク、お前には謎が沢山存在する。興味が尽きないな。



「貴女は……蛇王の……?リズ、貴女どうしてこんなものを?」

「ものだァ??俺をもの扱いすんじゃねェぞ、オラ!」

「やめろ、ザッハーク」



 ザッハークが殴り掛かりそうになるが、身体を押さえ、動きを止める。


 流石にこれに手を出したら、ザッハークが死んでしまう。なら、止めなければならないし、質問にも答えなければならない。私自身も魔王に問わなければならない事もある。



「私の子供達が捕まえてきた。それ以外で私がザッハークについて知っている事は孤児で私と同じで食人鬼である事だけだ」

「そう、ですか」

「その上で聞く。魔王、貴様はザッハークについて知っているか?世界図書アカシックレコードにもザッハークなんて文字はなかった」

「……ザッハークとは侵略者が一柱、もう討伐された害悪。

 【星々を喰らう十三の罪アジ・マンユ】が死に際に残した呪いの名です」



 呪いの名。

 そう聞いて私はザッハークの足を見る。その異形の足は正しく呪いと言って過言はなかった。



「その通りです。ザッハークとは身体の一部を【星々を喰らう十三の罪アジ・マンユ】と同化させる呪いです。

 そして、その呪いは徐々に体に浸透し、次代の【星々を喰らう十三の罪アジ・マンユ】へと変貌していくのです」

「……侵略者ってなんだ?」

「呑気なものだな」

「そうですね」



 まあそうか。一般常識in gameとなると侵略者なんて単語は知らんだろうな。となると、何故この魔王について知っているのかが気になるが。



「侵略者については後々、リズに聞いてください。世界図書アカシックレコードへ行ける程この世界の理について関係しているという事ですから、我に届かないけれども、他よりは詳しいでしょうから」

「嫌味か?喧嘩なら買うぞ」

「その程度で我にタメを張れると?」



 クッソ、言い返せない。……元聖女のくせにお淑やかさが皆無だ。


 しかし、大問題だな。ザッハークが侵略者に……あの嘲笑うなんとかみたいになるのか。

 到底、容認する事は出来ないな。ザッハークも私の家族。そんな悲劇は起こしてたまるか。



「……。ザッハーク、貴女はどうしますか?生きて、化け物に身を堕とすか、人の身のまま死ぬか」



 ザッハークを見ると、そこには決意と希望に染まるいい顔があった。

 その様子に私はーー



「俺は、生きたい」

「その心は?」

「俺は母さんを食べて、人を食べて生きてきた。それはこれからも変わらないと思う。罪を積み重ねて、贖罪もせず、日々を過ごしてきた。

 でも、見つけたんだ。出逢い方は最悪だったけど、でも、俺の事を久し振りにちゃんと見てくれた。それだけで嬉しかったし、リズさんは俺なんかの事を家族と言ってくれたんだ。

 それが、それが嬉しかった。俺はこの幸福を手放したくない!もう二度と、一人になりたくねェ!」

「呪いで身を蝕まれようとも?」

「ああ。俺は負けねェ。呪い如きに俺は止められねェよ!俺はザッハーク=ダマーヴァント、リズさんの……妹だ!」



 ザッハーク……そうか。



「ならば、私も守ってやらねばな。私の妹を守る為に呪いを殺そう」

「……いい子を拾いましたね、リズ。わかりました。今のところはこのままにしておきます。ですが、もし呪いに堕ちたら、我が片付けます。そうならないように守り、戦い抜きなさい」



 魔王の表情は初めて緩み、聖女らしい全てを包み込む優しい気配があった。

 そして、私はこうも思った。

 魔王の本性はどれなのか、と。星の裁定者、慈愛の聖女、無機質な王、何かに狂い堕ちた成れの果て。

 私には判断付かない。だからこそ、視なければならない。何が正しく、何が私にとって選ぶべき事なのか。



「……そうですね。餞別です。有り難く受け取りなさい」



 そして、手渡されたのは、謎の宝珠と禍々しい背徳的な本。

 ザッハークには洋服一式とペンダント、種子が渡されていた。


 問いを投げ掛けようとするが、魔王は純白の翼を広げ、飛び発とうとしていた。



「質問はなしです。用事が出来たので、去ります。

 それと惡の徒ダエーワには通常のスキルは効きません。トゥルーススキルや理に近いスキルや装備による効果、もしくはスキルを使っていない攻撃でしかダメージを与えられません。

 頑張ってくださいね。貴女たちは理に近い存在です。努力と欲望、狂気を忘れずに。




 汝らの行く道に……幸せ在れ」



*****


星々を喰らう十三の罪アジ・マンユ】の呪い

・体の一部が【星々を喰らう十三の罪アジ・マンユ】と同化し、徐々に体全体へと侵食していく

・また、悪行をしたくなる精神汚染が始まる

・人を食べなければ生きていけない。また、人を食べるという行いにより、精神汚染や【星々を喰らう十三の罪アジ・マンユ】の同化速度も増す

・友好度も最低値スタート並びに、増しにくい

・名前も何故かザッハークと命名される

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