第68話 逃避行

「……逃げたはいいが、まさかこうなるとはな」

「あー、喰魔グールが攻めてくるだもんな。ま、そのお陰で俺たち逃げれてるから感謝だな」

「しかし、あの物量でも負けているとは…… 惡の徒ダエーワ、恐ろしいな」

『(>д<*)』



 私が逃げようと、言った後に乗り込んできたのが、喰魔グールたちだった。理由は推測の域でしかないが、恐らく私たちが壊滅させた部隊が帰って来ないので、確認の為にやって来たのだろう。

 ああ、次いでになんとか部隊の長はヘクス?に殺された。その所為で場所がわからなくなった。いや?ここは砂漠。足跡を辿って行けばいいか。


 まあ、どちらにせよ、休憩を挟まねばならない。

 そして、散って行った我が子たちも先程手に入れたスキルによってどうにか出来そうだからな。先ずは戦闘地からの退避並びに休息所の発見だ。


 しかし、一面砂砂砂砂砂大蛇砂砂蠍砂砂砂砂岩砂小鬼砂砂砂砂犀砂砂砂……待て、サイだと?何故砂漠にサイがいる?

 ……まあいいや。



「ザッハーク、近隣に村ってあったか?」

「ねぇと思う」

「だろうな……しかし、アレは私たちを追いかける?!ヘイト的には喰魔グールの軍勢の方が稼いでいると思うが?」

「知らねェよ!!」



 生き残った9人で砂漠を駆けているのだが、その後ろをこの世のものと思えない怪異が追い掛け、その後ろを喰魔グールたちが付けている。

 喰魔グールも何故ヘクスを追うのか理解できないが、理外の産物であるからか?他のモンスターたちもヘクスへと攻撃を仕掛け、殺されている。

 私にはそんな命令が下されていないが、星の防衛本能でも働いているのではないだろうか?

 後で世界図書アカシックレコードにでも行くか。

 流石に不味い気がする。


 ーーッッ!



「左に避けろ!」

「おわァ!!」

『Σ(oдΟ;)』



 大地に悲惨な爪痕が残される。

 その一撃を放ったのは、容易に察しがつく。


 しかし、周りのモンスターも喰魔グールもまるで歯が立たない。簡単に体躯を微塵に斬り飛ばされてしまう。

 アレ自身はそこまでAGIが高いわけではないらしいが、攻撃範囲と攻撃速度が尋常じゃない。

 そして、邪眼による対象補足や攻撃の補助(主に視覚による攻撃精度の上昇など)が厄介だ。瞳を壊しても、壊された瞬間に瞳が小爆発する。

 私の遠距離攻撃はMPの消費量が多く簡単に使用できない。私の家族も遠距離攻撃を持つものが少ない。


 となると、どうすーーるッ!



「《禍津一閃残虐なる刃》」



 回り込んできた鎌を禍津星の煌めきが如き剣戟と地獄を織る剣閃で向かい撃ち、破壊する。

 そして、足に狙いを付けた即死攻撃を《罪獣纏》によって強化した足で飛び越える。

 空中に滞空した隙に首を狙う鎌を対斬撃に耐性を持った呪いの異足が弾き飛ばす。



「キリがねェな、リズさん。あいつらも抑えられない、俺らは逃げて、攻撃を防ぐので精一杯。マジでヤバくねェか?」

「ああ、しかもアレにダメージを与えた奴がまだ居ない。何故か鎌、部位を攻撃してもダメージを受けない。本体に攻撃した喰魔グールも何故かダメージを与えたようには見えなかった」

「……弱点がねぇじゃねェか」

「あー、対処法はある」

「あ?じゃあさっさとやれよ!俺、アイツと戦って居たくないぞ」

「さっさとやりたいのは私もだが、いかせん時間が掛かる。それに戦力がその間、お前しかいなくなる」

「却下する!一人でやってられるか!!」



 だろうな。


 ふー、しかしどうするか。

 私でも家族でも魔物どもでもダメ。はは、これは無理ゲーというものか?



「リズ、そこから退いてください」



 何処かで聞いた事があるような声が戦場ーーいや、蹂躙場に響き渡る。


 その声は神聖さと禍々しさを同棲させたような人外の音色、そして、何かに愛するような狂った音だった。


 そこで私はこの声の持ち主がわかった。



「ザッハーク、オペ、ブレス、ファイス、テラ、デリア、ガーデ、スターリヤ。ここから全力で逃げろ!」



 そして、天からは金と銀に咆哮する刀を振り上げた一体の最古の魔王。

 全てを破壊する為に生まれた星の掃除屋。己が異端で在りながら、異端を斬る逢魔の一太刀。

 善や悪さえも置き去りにした絶対中立存在。他化自在天とは違った魔王の在り方を持つ最もこの世で神に近い生命体。


 ーー魔王 空亡 狂愛が牙を剥いた。



「《絶滅の理:悪滅聖堕纏めて、死ね》」


 一太刀で在りと凡ゆる生きとし生けるものが消え失せた。

 その一撃は技術スキルと云うには異質で、強大過ぎた。

 そう、スキルではなくこの世に存在する絶対の法、真理に近かった。


ーー絶滅とは種を根本から廃絶し、二度と同種が存在させない星が持つ特権であるーー


 本来であれば、種全体に向く脅威だが、それが一体に襲った場合、それはもうこの世に復活する事がない。

 故に今回の悪ーー◼️◼️の悪は表舞台から消える、筈だった。



「《吸収の理:万物制覇我に貢げ》」



 彼女が絶滅させた森羅万象全てが吸収される。

 有無も言わせず全てを徴収し、己が力へと変換していくその姿は魔王に違いなかった。


 魔王は緩慢にこちらを向き、無表情のまま私に話しかける。



「それで、久し振りですね、リズ。まあまあ強くなりましたね」

「嫌味か」

「それで……」



 無視か。そうか、無視か。……無視か。



「少し疑問ですが、朱雀の持つ力を何故使わなかったのですか?あれならば、惡の徒ゴミ共は簡単に殺せましたよ?」

「あ」

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