裏側の世界(警察編)
*****
東京某所警察署
「先輩〜、いつにも増して辛気臭い顔してますよ。そんなんだから、彼女が出来ないんですよ」
「うるさいぞ、市川ァ。俺は彼女を作れないんじゃない、作ろうとしてないだけだ」
狭い室内にヤクザ面した大男と、チャラチャラした金髪の青年がダラダラ喋っていた。
大男の名は
チャラそうな男は
どちらも警察官とは思えない様相をしているが、これでも実績はある。強盗逮捕に貢献したり、裏組織を暴き、周辺暴力団共々豚箱……刑務所送りにしたりしている。
その為、本来ならば数倍以上の人数を派遣しなければならない地域を二人と、もう二人で賄っている。
「はいはい、そういう事にしておきますよー。それにしても、最近は事件が多いですね。アイツらも帰って来るのが遅いですし、なんかヤバい事が起こりそうな気がします!」
「なんでお前は嬉しそうなんだ……。まあ、そうだな。俺もそんな気がしてならないな。しk」
――リリリリリィィィ!!!
古い機種の固定電話が鳴り響く。その音は何か悪い知らせを届けるような不吉さの溢れるモノだった。
大蜘蛛は嫌々ながらも、受話器に手を掛けた。
耳まで持って来ると、テンプレと化した文を話そうとすると、切羽詰まった女性の声が耳を貫いた。
『け、警察の方ですか!!?あ、あの人が、人がッ!オヴォエッ!!』
「落ち着いてください!!深呼吸して、1・2・3」
『す〜ぅ、フゥーゥ』
大蜘蛛の的確な指示によって、少しは会話の相手も落ち着きを取り戻したような気がした。
しかし、切羽詰まった状況であるのは変わらない。
大蜘蛛は彼女に続きを話すように優しく伝えた。
彼がそういった状況に慣れているが故に、出来た対処であった。
『人が、し、死んでいるんですッ!』
その一言で、彼は目の色を変えた。
受話器を片手に、もう片方の手で市川に指示を出す。
市川は指示を理解すると、外に出る準備と、警察庁ともう二人の同僚への連絡をする体制に入る。パトカーにエンジンを掛ける。ここからはスピードとの勝負だ。
大蜘蛛が場所を聞き出し、直行した。その間に同僚などには連絡した。
雲が空を覆い、雨が激しい勢いで降り注いでいた。不吉、それしか感じられない空であった。
*****
現場に着くと、悪臭が彼らの鼻を突いた。それは嘔吐の臭い以外にも、血の臭いもあった。
普段なら、野次馬は不謹慎ながらも写真を撮っているが、今回は下を向いたり、口を押さえている。大蜘蛛らはどれだけ悲惨な状態なんだ、と恐れながら進む。
そして、彼らは視た。
「これ、は……酷過ぎる。人が、やる事かよッ!」
「市川、テープを張ってこい。それに、どういった経緯で死体を見つけたのかを通報者に聞いてこい」
「わ、わかりました」
まだ若い市川を下げ、もう一度死体に目をやる。
その人であったモノは、裸で座禅をしながら、頭が割られていた。しかも、顎の部分で切断をやめている。その為、ピンクの脳味噌が見えてしまっている。更に、悪趣味な事に目玉を二つを剥き出しにし、半分に裂けた舌の上に乗せている。
上でさえ悲惨なのに、下は更に酷い。
先ず、右腕が捻れて、千切れかけている。左は関節を無視して、背中に突き刺さっていた。
肋骨は剥き出しに、心臓はくり抜かれ、股の所に置いてある。腸ははみ出し、蝶々結びで紡がれていた。
足は所々、削り取られており、骨が見えていた。酷い事に、足先には削り取った肉を捏ねて混ぜたハンバーグ擬きが塗り手繰られていた。
他にも非人道的な行為が行われたであろう形跡があった。
わかる事は、残酷に殺され、死体さえも貶された事。男であろう事。
大蜘蛛は思い出した。今は居ない、死んでしまった大先輩の最後に言った言葉を。
『世界っていうのは、理不尽なんだ。理解できないモノがたくさん存在しているんだ。ワタシ達が見えているのはほんの一部なんだ、大蜘蛛』
そして、もう一つ思い出した事がある。いや、それは思い出したというよりかは、いつも心の奥底に存在していた記憶。
自身の姉の死に様と、この男の死に方が妙に似ていたのだ。
彼の姉が死んだのは、20年前。犯人は見つからず、一方的に捜査終了。
彼は姉殺しの犯人を見つける為に、警察になった。その犯人が見つかるかもしれない。
彼は不謹慎ながらも、狂気に染まった笑顔を浮かべた。その笑みを見た者はその場には居なかった。
また一つ歯車が回った。
これから起こるのは、絶望か。希望か。悲劇か。喜劇か。それとも……狂気の果ての物語が少しずつ動き出した。
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