第55話 新しき英雄

「これは流石にないな」



 円を描くように核を守る盾を見て、私は唖然としてしまう。

 まあ、攻撃は出来ないだろうが、突破口もない。何故わかるのかって、結界に慣れた魔術師が攻撃をしているが、全く効かない。いや、魔術を反射している為、迂闊に攻撃することができないのだ。


 それにまだ結界の効力もあり、動けるのは百数人ぐらい。



『リズ、君から見て盾に何か違和感とかはないか?』

「違和感?……聖獣の紋章が動き回っているぐらいか?」

『……そこがヒントになるのだろう。一度、本部に来てくれないか?』

「了解だ」



 まあ、攻撃は出来ないだろうし、空中部隊も今は要らない。


 ならば、早く向かうとするか。


*****


 本部に着くと、十数名のプレイヤーが死んだ目をしながら、作戦会議をしていた。



「白鎧、着いたが……目が死んでいるぞ」

「ああ、リズか。いや、な。攻略法が見つからないわ、疲労が溜まってな」

「それは……お疲れ様だな」

「他人事じゃねぇって。

 まあ、知っていると思うが、彼女はリズ=カムニバだ。俺たちに協力して……くれるよなぁ」

「ハハッ、当たり前だ。では、よろしくな」



 疎らな拍手が響くが、元より馴れ合うつもりはない為、そのぐらいが丁度いい。私は手の届く範囲の友人関係であればいいのだから。



「それで今はどういう事を話し合っていたんだ?」

「何を話していいか迷っていたところだよ」

「貴様は」



 我が兄ではないか。いつから女装趣味になったか知らないが、似合っている。そんなワンピースを着ている。

 えっと、こちらでの名前はなんだったか。忘れてしまったな。



「ルシアだよ。名前覚えるの苦手なんだね」

「……そうだな」



 はぁ、やっぱり兄だな。ほぼ初対面でも距離感が近い。だから、学校でも人気なんだろうな。そして、被害者も沢山作る。罪な兄だな。


 座るとするか。リーシアと極彩狂象がいる所にしよう。というか、あちらも手招いているからな。



「さっきはやばかったね!」

「……なんでそんなに楽しそうなんだ」

「ん?私はいつも楽しいけど?」



 ああ、こいつは偶にアホになるんだったな。忘れていた。


 リーシアの事は置いておいて、NEWSの攻略方法だな。



「では、会議を始めよう。まず、魔術部隊から見てあの盾はどう見る?」

「えー、魔術を反射する力。いや、物質や概念の方向を変える力を持っていると思われます」

「では、魔術ではどうしようもない、と」

「いえ、今は魔術研究や開発を得意とするプレイヤーに現状を打開する魔術を考えさせています」



 ほう、フットワークが軽いし、柔軟だな。本戦には残ってはいないプレイヤーだが、十分な力は持っているようだ。



「ふむ。では、引き続き頼む。次は空中部隊」



 うん?何故、皆一様に私を見るんだ?私は空中部隊の総括ではないぞ。

 ……チッ、しょうがない。話すとするか。



「私から見れば、現在は攻撃しても意味はないのでHPなどのパラメータの回復を優先するべきだと思う。

 攻略方法に関しては、私は専門家ではない為、こうだとは言い切れないが、四体の聖獣の紋章が重なった瞬間が一度だけあった。何かアクションがあった時に少人数で攻撃してみれば、何か情報が得られると思う」

「ありがとう。まあ、俺もそうしようと思っていたので、現状はその路線で行こうと思う。

 では、次に遊撃部隊」



 そこからは何も進展なく全部隊の意見が出揃った。


 だが、空気が悪いな。時間も二時間は有に超えて、もう直ぐ三時間だ。

 何か空気をいい意味で壊すスパイスはないのだろうか?



「少しいいかしら?」



 聞き覚えのある声が響く。凛としてどこまでも煌めく美しい音色。淡いピンクの着物に毎日のように見る整った顔に高く結い上げたポニーテール。我が麗しの姉だった。


 その隣には、先程見かけた人ならざる気配を放つ少年。それに、本戦まで残った聖母が居た。



「どうした、桜花?」

「こちらに居る少年、クロトがあの盾を打開出来る方法と、NEWSを一撃で打倒できる方法があると言うので連れてきました」



 あの盾も、NEWSの核も壊せるだと?巫山戯た事を言うな、と言いたいが、その少年は人とは違う気配を持っている。簡単に否定できない。

 まあ、話だけ聞くか。



「えっと、オレのスキルに《逆襲の魔人》がありまして、HPやMP、SPが減ると、攻撃力が上がるという効果。更に、《叛旗は靡き、國は滅ぶロードレス》により、対象にキルされた数が多い程攻撃力上昇。他にも、ジョブや称号によって攻撃力や破壊力、身体能力が上昇している」

「ふむ。だが、それだけでは破れないと思うぞ」



 その通りだな。プレイヤーの中では一番火力は出ると思うが、それだけではあの盾は破られないと思う。



「皆さんはトゥルーススキル、真なるスキルを知っていますか?というより、リズさんとリーシアさんは確定で知っていますよね」



 トゥルーススキル、か。使ったからな、バレるのは知っていた。それにバレた所でどうもならないしな。認めるか。



「そうだが」

「そうだね〜!」


「あっさり認めるんですね」

「大して困る事では」

「ないからね♪」


「……オレも持っていまして、神性を持つ存在に特効を持つ斬撃を出せるという力と、傷付けば傷付く程威力も上昇するというモノになっているんですよ」

「それは……だが、まだイケるか微妙な所だ。他には何かないのか?」



 神性殺し、ね。私たちに撃ったら、即死だな。

 もし、私たちが彼をフルボッコにして、NEWSごと彼がぶった斬ったら、終わりじゃないか?いや、個別ダメージになるのか?



「オレの武器、神滅ノ叛剣 クロノスによる神性殺し効果で更に、ダメージアップです」

「……今の状況にピッタリ当て嵌まるスキルばかりだな。本当か?」

「本当です」

「こういうのをDeus ex machinaというのかな?まあ、イケる、か?

 まず、あの盾の防御能力がどの位かわからないからな。どうするか」



 私たちにメタを張れるスキルばかりだな。

 だが、それで倒せるか分からないな。

 プレイヤー全体でバフを掛けまくって、みたいな奴か?


 一先ず、神性に対するダメージは個別か効いてみるか。



「おい、小僧」

「小僧?オレの事ですか?」

「ああ、そうだ。神性に対するダメージは個別か?それとも一括ダメージになるのか?」

「……わからないです。初めての神性との戦闘だから、わからないよそんな事。

 何故、そんな事を聞いたんですか?」

「私が、私たちが神性だから、な」



 うー、どうするべきか。無駄足になるが、試してみるか。それとも、自身の生を取るか。



「リズちゃん。もしかして、神性殺しの効果を倍増させたいの?」

「聖母、その通りだ。ついでに、リーシアも極彩狂象も神性だ。

 もし、個別ダメージではなく、各々に同じダメージを与えるのならば、私たちごとぶった斬った方がいいだろう?」

「え゛」



 酷く驚いた顔をしているリーシアを見て、少し笑ってしまった。



「何を驚いている。リーシアもアイツを殺せるのならば、何でもするだろう?」

「お、おう?」

「はは、なんだその返事は」


「リズちゃんの笑い方って、なんかイケメンだね、桜花?……桜花?」

「……ああ、ごめん。なんか見たことがあるような笑い方だったから」

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