強盗とスラム街の鐘

 俺は強盗をしに、とあるスラム街へやって来た。

 スラム街とは、極貧の人々が集まって暮らす場所のこと。

 ここの住人はあまりにも貧しすぎて、満足に食事を取ることも、学校に行って勉強することも、ままならないと聞いた。


 俺は慎重に、ある一軒家の窓を覗き込む。

 その家には、無職の男が一人住んでいただけだった。

 扉を叩くと、玄関から男が出てきた。


「カネを出せ」


 俺はナイフを取り出し、男を脅した。


「うちにはカネがないんです」

「いいからカネを出せ。さもないと、どうなるかわかってるよな」


 俺に圧倒され、男は大人しくカネを差し出した。


「なんだよ、すごいカネあるじゃねえかよ」


 金色に輝く、立派で、大きな……鐘。


「って、違うだろうがよ!」


 俺は怒鳴った。そして、男に向かって、鐘を強く素手で殴りつけた。


(ドーン!)


 鐘は重々しい音を響かせながら、男めがけてぶつかった。その途端、男は態度を豹変させた。

 先程のおどおどした態度とはうってかわって、男は俺に対して勢いよく鐘をぶつけ返した。


(ドドーンッ!)


 その威力は俺の力の数倍ほど強く、ほおに当たったとき、かなり痛かった。


「カネを出せと言われたから、そうしたんだろ! さっさと出て行け!」


 男は俺のことを、力づくで追い返した。


「まぁいい。それにしても立派なカネだ。売ったら、ものすごいカネになるだろうな」


 しかたなく俺は重い鐘を抱きかかえ、男の家をあとにするのであった。

 あのとき、あの男が一体何を考えていたのか。俺は何も知らなかった。

 それからしばらくの間、俺はスラム街の中を進んだ。


「待ちなさい」


 突然、目の前に警察が現れた。


「一軒家から怒鳴り声と鐘の音がしたと、住人から聞いたが、お前のことか」


 俺はびっくりして、とっさに逃げようとした。だが、周りの人たちに取り押さえられ、逮捕されてしまった。



おわり

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