水の精霊

 ある川に、ビーバーの親子が住んでいた。

 ビーバーの子供はやがてすくすくと成長し、立派な大人になった。

 そこで親は、親元を離れ新しい家を建てるよう、子供にすすめた。


 早速、子ビーバーは元いた川から別の川へ移動した。しかし、そこには外敵のオオカミなどが多くおり、密猟者にも追いかけられてしまう。

 仕方なくまた別の川に行くも、そこも人間による埋め立て開発が行われるようだった。

 さらにまた別の川も、巨大ダム建設予定地になっていた。

 子ビーバーは数多くの川を回ったが、どの川も開発工事が行われていた。

 子ビーバーはとうとうがっかりに。

 これで最後だ、といい子ビーバーは次の川へ向かった。

 幸いそこは開発が行われていないようだったが、ビンやカンなどのごみで酷く汚れていた。

 子ビーバーがまたがっかりしていると、川の底からお化けらしきものが現れた。

 お化け嫌いな子ビーバーは、腰を抜かして驚いた。

 そんなこともお構いなしにお化けは子ビーバーに、ゴミを拾って川をきれいにして欲しい、とお願いをした。


「ゴミを拾って元のきれいな川にしてくれたら、ここに住めるぞ。

ついでに、拾ったゴミも家を建てるときの材料として使えるぞ」


 そう言われた子ビーバーは、お化けの願いごとをこころよく引き受けた。

 こうして、子ビーバーとお化けは一緒にゴミを拾った。

 そして、使えそうなゴミは新しい家の材料にした。

 ようやくゴミ拾いが終わり、きれいになった川を見て、子ビーバーとお化けはとても嬉しい気持ちになった。


「魚も水草も、そして水そのものも、とても喜んでいるな」

「お化けさん、どうして水の気持ちがわかるの?」

「私は、水の精霊だからね」


 実は、お化けは川を治め守護する水の精霊だったのだ。

 ところが喜びも束の間、そのきれいになった川にも、開発会社の人たちが現れる。

 開発会社の人たちは、そこにも新しくダムを建てようか相談しているようだった。

 同時に、子供連れの家族も釣りをしに遊びにやって来た。


「きれいな川は貴重で大事なもの。

そしてみんなの物。みんなで守っていかなければならないよ」


 わいわい釣りを楽しんだ帰り際、親が子供たちに自然の大切さをそう教えた。

 それを聞いた開発会社の社長は、動揺し自分たちの間違いに気付く。結局、ダム開発は中止ということになった。


 ビーバーと精霊は大喜び。

 一件落着後、精霊は川をきれいにしたビーバーに自分の役割を継がせ、姿を消してしまった。

 こうして新たな水の精霊に選ばれたビーバーは、集めたゴミを再利用して、立派な家を建てたのであった。



おわり

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