お父さんの夏休み

 大都会の夏休みの夜。

 夜のはずだが、星々が見えないし、とても暑い。


 星が好きな子供にとって、唯一星が出るこの時間帯に星が見られない、ということは、矛盾したことに思えた。

 また、太陽が出ていないこの時間帯は昼より冷えるはずだが、これも矛盾していた。

 子供は暑い夏が大嫌いだった。


 暑さのあまり眠れない子供は、父を叩き起こし、質問を投げかけた。

 仕方なく付き合ってやることにした父は子供の質問を聞いたあと、自身の幼少時代の街の様子を話した。



 父の少年時代。この街はかつて、夏の夜が素敵な街だった。

 空を見上げれば、紺青のキャンパスに無数の星々が見えた。


「父さんも小さい頃は星が大好きで、毎晩星空を眺めていたよ」


 どの家にも空調設備は一つもついてなかったが、付ける必要すらないほど涼しくて快適だった。

 昔はこの街も小さな小さな田舎町にすぎなかった。森と川と山と海に囲まれた大自然の中にあった。


「父さんは星だけでなく、山の中や河辺も大好きで、暇さえあればよくそこで遊んでいたよ」


 だから父はこの街が大好きで、一生住んでいたい街だと思っていたのだ。

 実際、記録でも最高な街順位づけ第一位に選ばれたことがあったという。


「懐かしいな。今よりずっと良い街だったんだよ」


 しかし時が経つにつれ、開発が急速かつ大幅に進んでいき、今では人工物に囲まれた大都会になった。

 利便性や衛生は飛躍的に向上したが、人々の幸福度、満足度、景観の美しさ、治安は悪化し、空気も少し汚くなった。


「今では外灯があるから夜になっても外を歩けるね。君はまだダメだけど。


ところが、その外灯の光が星の光をかき消してしまい、更には人間の体にも悪影響を与えている。


その外灯を作ったのは、人間に他ならない。

多くの人びとが自ら望んでいたからこそ、外灯ができた」


 子供は動揺した。

 真っ暗な空から星々を消したのは、まさかの自分たち人間だった。


「それから普段ゴミを捨てたり電気を使ったりしているよね。

でも、実はゴミを燃やしたり電気を作ったりする時に出るガスのせいで、気温がどんどん上がってきているんだよ」


 子供はまた動揺した。

 涼しい夏を灼熱地獄に変えたのも、やはり自分たち人間だった。


「楽をしようとしたのが、返って自分たちを苦しめていたんだね」

「そうだね。じゃあ、もし君が子供を持つようになった時、その子供にも美しい星空を見せてあげないか?」



おわり

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