深夜のおしゃべり
香居
工場の
冷凍庫内で、部位ごとにカットされたお肉たちが、そわそわしています。
「明日やんなぁ」
「そうねぇ」
「どこのお店かな」
「えぇ人んトコがえぇなぁ」
「たとえば?」
訊かれた砂肝は(気分的に)腕を組みました。
「串刺しが上手い店、とか」
「「「あぁ〜」」」
「『そこじゃない……!』とか、あるらしいもんね」
「半分刺して、『ここじゃなかったわ』みたいに抜かれたら、もう……!」
「やだ! 考えただけでやだ!」
「一思いにやって欲しいよな。筋肉硬くなってもうたら、食べた人一瞬『あれ……?』ってならへん?」
「それやだ! 一口かじって、ちょっと首傾げるやつでしょ?」
「せっかくなら美味しく食べて欲しいもんねぇ」
「「「ね〜」」」
皆で可愛く同意し合います。
「他には?」
「行きたいお店?」
「うん」
「〝焼き鳥専門店〟とか、ちょっと憧れる」
「わかる〜」
「
「ハツ姉らしいわ〜」
「もうあれだもんね。ここでカットされる前から、『アタシはここよ! アタシを見て!』ってオーラがすごかったもんね」
「
「うわ! 良かったねぇ、ハツ姉! ずっと丸ハツさんのこと好きだったもんねぇ」
「『絶対本人には言わない!』って言ってたけど、あの包容力で来られたら委ねたくなるよね」
「ハツ姉の特権だったけどね」
「一緒に注文してくれたお客さんに感謝だね」
「「「ね〜」」」
再び可愛く同意し合います。
「ももは?」
「わたし?」
大きな体で、のんびりさんのもも肉が、うーん……と考えます。
「……カルビ兄の行ったお店とか、良いなぁ……って、ちょっと思ってる」
「あれ? もも、カルビ兄好きなの?」
「えっ、あの……ちょ、ちょっとだけね」
「えぇやん、えぇやん。青春やん」
「砂肝、何、茶化してんの?」
「ちゃうて! ほんまに、えぇなぁて思とるて!」
「言い方がさぁ、軽いんだよね。砂肝は」
「えぇ〜。そない言われたかて困るわ〜」
「キャラがいけないんじゃないの?」
「えっ。オレ、キャラ否定されたら、やっていけへんのやけど」
「せめて雰囲気だけでもマジメにしたら?」
「いや、オレ、マジメやん?」
「「「どこが」」」
「ちょお! 結託しぃなや女子ぃ! ももだけやん、同意せんの」
「ももは優しいからね」
「それ、自分は優しないて言うとることになるで」
「うっさいわね! そういうツッコミすんじゃないわよ!」
「手羽ちゃん。興奮すると筋肉硬くなっちゃうから。ね? 落ち着こ?」
「もも〜」
泣きついた手羽を、もも肉がよしよしとなぐさめます。
「あんた、ほんと良い子〜。カルビ兄のとこに行けると良いねぇ」
「ありがと」
「ももは専門店とか、こだわりないねんな」
「わたしは、やきとり屋さんでも良いかなぁって」
「トップスターはロース三兄弟らしいで」
「いいの。わたし、別に主役になりたいわけじゃないから。やきとり屋さんなら、その……カルビ兄と、ちょっとでも一緒にいられるかなって、それだけだから」
「健気やなぁ」
砂肝は感嘆し。
「祈ろ」
「祈りまくろ」
「今夜は、もものために祈ろ」
女の子たちは(気分的に)円陣を組んで、一心に祈り出しました。
「ももがカルビ兄とおんなじお店に行けますように」
「ももがカルビ兄と一緒に注文されますように」
「ももが──」
その熱意は、庫内の温度が上がりそうなほどです。
「みんな……」
「こいつら、基本的にはえぇヤツらなんよな」
「砂肝!」
「聞こえてるわよ!」
「『基本的』とか、くだらないこと言ってるヒマがあるなら、祈りの舞いでも踊ったらどうなの?」
「それ、どんなんかわからんのやけど」
「あんた、いつもテキトーなダンスしてるじゃない」
「今日はテキトーはあかんやろ」
「つべこべ言ってんじゃないわよ! 早くここに来て踊りなさいよね!」
「はっ、はいぃ」
よくわからない迫力に圧された砂肝は、女の子たちの真ん中で、一晩中踊り続けました。
翌日。
冷凍庫を開けた業者さんは、
「ん? この砂肝だけ、なんかくたっとしてるな」
首を傾げながら、出荷の準備を始めましたとさ。
※ 暖簾が〝焼き鳥〟のお店を鶏肉専門店としています。お店によって違いはあるようですが、〝やきとり〟暖簾のところでは、鶏肉以外のお肉も食べられるとか。
深夜のおしゃべり 香居 @k-cuento
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