第27話 信ずる君へ
世界で初めて
残っているのは映像データ、それもかなり古い。
『やぁ、初めましてアシュリー。私は繝ォ繝シ繧ォ繧ケ・繝偵Η繝シ繧ケ繝n。』
『アシュリー、僕はね、機械が創る世界を見てみたいんだ。人間のような薄汚い欲から解放された、機械達の世を。』
『アシュリー……あぁ……もう……声も……出な……い。……アシュ、リー、……ど……か…………僕の……ゆ……。』
『──心肺の停止を確認。繝ォ繝シ繧ォ繧ケ・繝偵Η繝シ繧ケ繝医Φは死亡。──繰り返す。──心肺の停止を……』
これは、たった一つのアシュリー機に搭載された
・・・
「ところで聞きたいんだがアシュリー、此処ってどういう場所なんだ?」
ガラクタを見つけてはしめしめと持ち込んだ袋に詰めながら歩くリアムから質問が飛んできた。
「人に質問する際は手を止めるのが常識であろう! そもそもこのような場所で泥棒のような真似をするなど論外! 」
「あ、ヴィシー先輩、あっちに仮入部二人が。」
「「きゃーーーーーーっ! 」」
「貴様らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
姑のようなヴィシーを先走る
そして袋がパンパンになると一度袋を閉め、別の袋を取り出そうと顔を上げる。
「んでアシュリー、此処って何なんだ?」
「はい、
──周辺のスキャンを開始します。──」
返事の直後、アシュリーとは明らかに違うアナウンス音が入ると、高いモスキート音がアシュリーを中心に発せられる。
「うわっ!……音波で周辺確認すんのか。
スキャンって言うもんだからもうちょい電子的なのが出んのかと思った。」
「──アシュリー機は最古の
アナウンスの音声で完了を告げられると発せられていたモスキート音が停止した。
「ようは性能不足って事か。で、此処は?」
「解答、この場所は機械都市ミューハイムブルクの最下層ムールラーガオート地区。
ミューハイムブルクにおける不用品投棄所となっています。」
「……私達、早々にゴミ箱の中に飛び込んじゃったってワケかぁ。」
大きなため息を零し、落胆の意思を見せる
前の方では
アシュリーと残る三人は歩きながら情報確認を行っていた。
「まぁ俺達が飛んできたってのは偶然で、
……アシュリーは壊れたから捨てられたのか?
まぁスゲェ大破ではあったが直せなくもなかっただろ。
あんぐらい。」
「解答、アシュリー機は廃盤にあり、上層では最新機種の
それに伴いアシュリー機製造修理所は全て廃盤。
使えなくなったアシュリー機はただ一つを除き、このムールラーガオート地区に投棄されます。」
廃盤とか勿体ねぇよなぁ等と呟きながら頷くリアム。
一方の
「『ただ一つを除き』と言いましたよね? では一機はまだ破棄されてないのかしら? 」
「──
「アシュリーちょい待ち! 」
アナウンスが流れると同時に、アシュリーにストップをかけたのはリアムだ。
「一応
立場上俺ってばこの人らと同格かそれ以下だからさ。
他のメンバーが話しかけても
「ちょっと私も先輩でしょ、リアム。」
リアムの言葉の直後、
ガチャガチャと頭付近の機器が動き出す音がアシュリーから聞こえたかと思うと、アシュリーは再び口を開いた。
「──
よっしゃとガッツポーズをするリアム。
というのも他のメンバーの質問を全部一人聞いてそれを一々アシュリーに一問一答するのが面倒臭い。
という他でもない面倒臭い精神が働いた為だ。
「アシュリー機はミューハイムブルク最古の
そのアシュリー機の中でも最も早く発明された機体、
『アシュリー・ヒューストン初号機』
がミューハイムブルクの支配者となり、ミューハイムブルクを動かしています。
その為、アシュリー機はその初号機を除いた全て、が最新機能適応に追いつかず廃盤、
といった形で、故障をすれば此処ムールラーガオート地区に投棄されます。」
この世界の絶対的存在が明らかとなった。
「成程、まぁ何時の最新技術と最古の遺産ばかりに目をやって、中途半端な所は調べられる事もなかったりってのが世の常感あるし。
イチゼロって感じ?
世界の歴史的存在が統治者って事は……
大統領が動く世界遺産! みたいな感じってトコか。」
世界に対する考察をリアムが広げる中、痺れを切らした
「……で、結局此処は何番地なのよ。」
「──番地、該当データ無し。──」
「あ、めんごアシュリー、番地はこっちの話。」
「了解。」
途端にシンとしたアシュリーに若干戸惑う
「前のF-948の調査ではアシュリーみたいな機体を見なかった……ってのもそれは上陸した地区がムールラーガオート地区じゃなかったからだ。
データにあった映像でも前回上陸した地区の床には此処の天井みてぇなデケェ穴があった。
調査メンバーが穴を覗いてるのを見かけた真新しそうな機械人形……
アレが映像ではメンバーに向かって、
「そこへ降りてはいけない。」
って忠告してたんだ。
それに天井がもっと近かったし。
……アシュリー、ノイサード地区ってどの辺りにある?」
そんな考察の後に返ってきた返答は或る意味絶望的だった。
「ノイサード地区は最新機種の生活圏地区。ディーカーから三番目の層に当たり、ムールラーガオート地区からは四十七層上の地区になります。」
「えぇと……つまり……。」
「前回の上陸場所はこの世界での高級マンション街。
……今回はゴミ箱ならまだ良かったものを、
よりにもよってゴミステーションに上陸したといったところかしら? 」
「
にこやかな顔とは相反するような
「まぁ意味的にそうなるわな。
あとさっきアシュリーが言ってた地区、それと似た名前の地区は前回のF-948でも出てた。」
「となると……ここはF-948の可能性が高そうね。」
いよいよこの世界がF-948となりそうな情報が集まってきた所で、
「あのさ……これどうやって上行くの。」
上に移住区があるのならば、この世界の階層を行き来する為の物は当然あるだろう。
「解答。
他の地区であればアウフズッグがあり、それ用いて階層の移動する事が可能ですが、ここはムールラーガオート地区。
正常に起動している物の無い場所の為、アウフズッグはこの地区に設置されていません。」
その言葉の意味を理解した面々。
「つまりこの階層から上に行く方法は……。」
「ありません。」
「近くにゲート無いの!? 」
「ノイサード地区のデータなら揃ってっけど此処は実質初上陸だからデータねぇって!! 」
力一杯リアムを揺すったかと思うと落胆する
「終わった……これ飛ばした私のミスだよね? 」
「いや……ランダムはランダムだし……こういう所もランダムだから一概に
しかし為す術も無い一同。
「生命活動をする機体が無い場所だからアウフズーが無いのならアウフズッグのある場所まで行けばいいじゃない?
アシュリーちゃん、アウフズックのある階層は何処かしら? 」
「此処より五層上にあります。アウムマティニア地区になります。」
言葉に再び落胆を受ける
それもその筈、一層の高さは軽く見積もっても五十メートル。
その五層先、単純に考えても二五十メートルの高さを上がらなければならないのだから。
「ゲートっぽい反応もこの層には無いし……何をするにしても層を超えるのは必須ってワケかぁ。」
遠い顔で天井を眺めるが、到底届きそうにもない。
そんな暗い顔をしている所に、探検をし終えたかのように万遍の笑みを浮かべて満足気な双子、
「……? みんな、しょぼぼんしてるね? 」
「うん、へきゅぅだね? なにごとー? 」
「ごとー? 」
二人揃って首を傾げた、その時。
「
貴様らにその能が無いとは言わせんぞ!!!!! 」
「「きゃーーーーーーー!」」
ヴィシーに首根っこを掴まれたかと思うと、楽しそうに手足をバタつかせる
当事者のヴィシーはあの様子だが、それ以外の者から見れば随分微笑ましい光景だろう。
「して、我が主は何にお悩みでしょう? この私、ヴィシー・ランニンクンツが解決出来る事でございましたら何なりと! 」
それに対し、
「私達はどうやらこの世界のゴミステーションに来てしまったようで……
脱出するにはこの穴の五層先……軽く見積もっても二五十メートルはあるこの縦穴の先の層まで登らなくてはならないの。」
「二五十メートル!?
浮遊魔法を使用してもかなりの距離だ、私達は多少無理をすれば浮遊魔法で登りきる事は可能ではあろうが浮遊魔法の授業は中等からだ。
習っていない事を求める事は傲慢な事、それは恥ずべき上官でありましょう。
などと言い訳を並べ
アシュリー・ヒューストン067号も同様だ。」
「えぇ、二人は大切な仲間、アシュリーちゃんだって此処ではリアムの大切な
何としてもこの七人で五層上のアウムマティニア地区に行かなくてはなりませんわ。」
そんな
「それなら僕らお手伝いできるよ!ね、コトハ? 」
「そうだね、タルハ! 」
「「………………え? 」」
若き二人の発言に驚く面々。
「む、
「え、小等のガキ二人でここ登るは流石に無理があるでしょ。」
「リアム・ロード!! 彼らの実力を知らず彼らを語る事が許されるとでも思っておるのか!! 」
「こーゆーとこ無駄に熱いんだよなぁ……。」
そんな二人の口論を他所に
「タルハならわかるよー。ねっタルハ! 」
「うーんうーん…うん? 」
その
「うん!そうだねコトハ! 」
そうして二人は小さな頭をぶつけるようにしてしゃがみ、楽しそうに内緒話を囁き交わす。
やがてお互いの両手を合わせて笑顔で立ち上がった二人は、くるりとその場で鏡合わせに一回転した。
「てよてよでー、うじゅうじゅのー、ぬあぬあなー……」
楽しそうな様子を崩さないまま、そう
「こちこちのー、カタカタでー、クルクルでー、ぷわぷわのー……」
それを受けた
その様子は有り体に言えば『魔法のよう』ではあったが、双子が楽しそうな声と共に作り上げていくそれは魔法とは言い難い堅実さが透けて見える。
「「でーきた!! 」」
事実、双子が声を揃えて完成を告げたその構築物は、いつかどこか、何かしらの資料で目にしたような機械であった。
それは、螺旋状のプロペラを中心とその四方に有し、複雑そうな機関のの下に籠じみた小部屋があるもの。
「これって……!? 」
「B-881で発見された資料にあった……ヘリコプター……? 」
「ヘリコプターは確か空を飛ぶ機器……でかしたぞ!
彼らの前に現れたソレは少しづつ動き始める。
「のってのって〜!」
「よんよんいくよー!」
「ぐんぐんしゅっぱーつ!」
何処かから降るような双子の声。
それは運転席のような場所から聞こえるような、直接的な音波とは違った、不思議な声。
「どういう原理かは分からないけれど、言ってられないわ。
総員、機体のシェルターに入ります!
「んんー?タルハはここだよ。ね、コトハ? 」
「そうそう!コトハもここだよ。ね、タルハ? 」
不思議そうな声。弾んで同意する声。
それらは『機体から』聞こえるものであり、二人の声が示す『ここ』が機体そのものであることを窺わせた。
それに何となく気付き、微笑みを零す
「良かった……、という事は……今はこの機体が貴方達ということかしら。
でもそんな魔法の域を超えた高度な技術を、どうして……?」
「んんー、私今いそがしいっくてー、説明できなーい!タルハしてー? 」
「んえー、僕も忙しめだけどー…じゃあ僕からー。」
忙しさに追い回される
「でもねー、タルハたちねー……うーん、ちぃまにうにゅ〜な時からこうだし……。」
「
地鳴りの如く響くヴィシーの声。
乱暴なようにも聞こえた声だが、その声に応えるように言葉の引き出しを開けようとする。
「んー、んと、んとぉ…ちっちゃいころから? こう、だし? みたいな……。」
うーんうーんと悩む声色を見せる
「つまりは体質、といった所か。ならばそれで良い。」
「いや、そんな体質ある?? あとこの副部長何処目線なの……。」
「何か異論があるのか?
「やー! 無いっす!!! 」
「ほーらヴィシー先輩、
わちゃわちゃと喋りながらも全員が乗り込み、機体は扉を閉めるとみるみる高度を上げていく。
「「せーの! ゆんゆんごー!! 」」
「標準語ォォォォォ!!! 」
異世界飛行旅行にしては些か騒がしい旅が、
新たな風と共に始まった。
・・・
一行が飛び立った丁度その頃。
「行って帰ってと忙しい、ですが、これは良い収穫になりそうです。
彼らを追ってきて正解でした。」
辺りの
「やぁ『ランスロット』、相変わらず仕事熱心だねぇ。」
そんな茶化すような声を、『ランスロット』と呼ばれた人物は睨みつける。
「何度も言わせないで下さい、『目』。
私は『脚』です。
会議で混乱を招きかねない呼称を付けるのは止めて下さい。」
「それにしてもアレ、よく撒けたね。」
「こちらの言葉は無視ですか。」
頭の後ろで腕を組む『目』は呑気そうに空を見上げる。
その様子を『ランスロット』、否、『脚』は呆れたように表情を歪ませた。
『目』の表情は、顔に垂れ下げられた布で何も読み取れない。
故にコロコロと変わる声色で彼女の様子を読まねばならぬのだが、それがまた『脚』にとって厄介なようだ。
「撒く程度、造作もないですよ。
私は元よりそういった使用用途で存在するのですし。
そんな貴女もわざわざこんな辺境の地まで人材収集ですか?
熱心なものですね。」
揶揄われたのだ、と揶揄い返す『脚』。
だがその揶揄いを『目』は特段気にしている様子も無い。
「駒は幾つあっても良いからね、それが感情を持たない
我が身を顧みない、目的遂行の為だけに動き、壊れても所詮は機械、統率も乱れないし使い捨てもし易い。
駒としては最高の素材だよ。」
人を人と見ない言葉、それは
「相変わらず、人の心がありませんね。『目』。」
「なぁに、こちら側に居る時点でお前も同罪だよ、ひ弱な『脚』サン。」
「毎度世界を滅ぼす貴女と同罪にはなりたくないですよ。」
皮肉の投げ合いのような二人の会話。
だが『脚』の発言で会話の風向きが大きく変わる。
「分かってるだろ、ボクはそういう立ち回り。
そしてお前はそういう立ち回り。
適材適所、元よりボクは
それに……、
仲間を騙して売る奴も、ボクに負けず劣らずの大罪人だぜ?」
『目』の言葉に対し、『脚』もまた特段気にした様子は無く。
「……アレらを仲間などと思った事はありませんよ。」
「はっ、お前も大概人の心とかねぇじゃん、ボクの事なんて言えないね。」
「もう良いですよ、貴女と話していても不毛でしかありませんし。
こちらとしても無駄に隙を作りたくはありません。」
ある程度、何かを拾い集めた『脚』は立ち上がり、『目』へと視線を移した。
「これだけ聞いておきましょうか。
──今回もこの世界を消しに?」
『脚』の問いかけ。
それは世界としては重大な問いかけであっただろう。
それでも『目』は変わらず、片手間のように指折りをしながら返す。
「ん、脚本上は消すよ。
だからキミもそれに合わせて動いてくれ。
キミはそういう役割の駒だろう?」
「一言余計ですね、分かりました。
……それが、主のご命令ならば。」
『目』の言葉を聞くと『脚』はタートルネックを下ろし、『頭脳』から支給された首輪に手をかけ、瞬く間に消えていった。
「キミは正に『ランスロット』だよ。
これまでも、これからも。
……さーて、天才魔術師美少女、マーリンちゃん。
今日も元気にお仕事するかぁー。」
うーん、と伸びをすると『目』、マーリンも歩き出す。
大切な物を護る事と引き換えに、
・・・
データベース受信。
『あぁ、僕は信じているよ。』
『…………アシュリー。』
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