第3話 蛇の国
ふらり、ふらりと歩いて。
顔を上げると青白い光が手招いていた。
「さぁ、おいで。」
「この先なら、君は──」
その誘惑に足を進める。
振り返る事なく、ただ、真っ直ぐと。
──あぁ、薄れていく。
目の前は真っ白で、意識も離れて行くのを感じる。
……これで、私は。
・・・
「わぁ……見た事のない建造物が沢山あります!」
「好きに回って良いのじゃよ。食事の支度をするのでそれまでこのクニの中でゆっくりしておくれ。」
「ありがとうございます。」
礼儀正しく、頭を下げる
「
「……いや、別に、褒められるような育ちはしていないと思うが。」
私は首を傾げるが、辺りの見た事のない景色に心奪われ、
「……はぁ、まだあの癖、抜けてなかったのか。」
頭を掻きながらポツリと
「君の国ではこの礼は『首を切って下さい』を意味するんだっけ。」
ハッと一人笑う。
「もう、会えねぇよな。」
風が静かに
「さて、と。」
「おー、やってんじゃん?シキガミ?」
不思議そうに
「あぁ聞いたろ?
シキガミと呼ばれた紙を、
「うん、どうやらこのクニの敷地内にはゲートはないみたいだよ。
……代わりに、気になる物があったんだけどさ。」
それだけ言うとクリフトは表情を曇らす。
「これ、
何かを察したのか、
「成程りょーかい。って事はこっからの展開は見えてんな。」
はぁ、とため息をつき、クニの景色に目を移す。
「俺は式神でクニの外の様子と、ゲートの場所の調査をする。……
景色からクリフトへと視線を戻す。
「ん、分かった。
「それだが、
あの子は一年だし実力も未知数だ。一応両方に式神は飛ばしたがクリフトも援護に行けるようにしておいてくれ。」
「あいさーっ!と。僕はさっきのを
そう言うとクリフトはくるりと周り走り出そうとする。
「……待て、クリフト。」
クリフトは
「……追加、
・・・
クニの敷地外。
焼け焦げる謎の紙の匂いが漂う。
「これは、見た事のない術式。」
焼いた張本人はポツリと呟く。
「やっぱり、ゲートを使う者は僕以外にいるんだね。」
手のひらに火の玉を作り出す。
「ここでの収穫はあったし、もういいかな。」
「呑気に留まってる暇は、無いんだから。」
・・・
「すごーい!」
「
片目に包帯を付けたまま、クニの中を探索する
「怪我をしているのですからもう少し安静にして貰えませんか?」
「やだぁー、こんな世界、来たことないもん!寝てるの勿体ないよー。」
時代は違えど来た事はあるのに、呑気な……とため息を漏らす
「ねぇ、
「なんですかもう……。」
「
「それはゲートの調査……ん?」
「……監視カメラ、ですか。どうやらここには何かあるみたいですね。……僕達にとって不利な、何かが。」
一方、建物の影で沈黙を続ける二人。
クリフトはある報告をしたらしく、
「あー、やっぱ言わない方が良かった?」
沈黙を破るのは冷や汗をかいたクリフト。
「…………いや、重要な情報だ。個人的に気に食わねぇだけ。気にすんな。」
腕を組みながら渋い顔をする
「
「そうそう、ケロッと元気になったみたいでさ。」
話題の変化にホッとした様子のクリフト。
「クリフト、お前は
想定内の命令。
「りょーかい、
そうクリフトに問われると、
「ぶっちゃけ、今回俺はあんま動けねぇと思う。
……が、勿論お前と同様、
微妙な顔をしながらもその場を去るクリフト。
歩きながら、誰にも聞こえぬようポツリと呟く。
「ねぇ、
その足は少しずつ重さを増して、立ち止まる。
「
顔の曇りを隠すように、重くなった足元に目線をやる。
「少しは僕らも……力にならせてよ。」
キュッと握りしめる拳。
「僕らの事は、何でも知ってる癖に……お前は何にも教えてくれないよね。」
重くなった体。
「お前だけ辛いの、僕ら嫌なんだってば。」
鉛のような重い足を力づくで蹴り、走り出す。
「お前は、僕らの大切な……っ」
僕らの居場所をくれた人なんだから。
・・・
建物の構造や人々の生活をくまなくメモをしながらクニの中を歩く私。
早速メモ帳が尽きようとしていた為、もう一冊は買っておくべきだったと後悔しながら。
「メモ帳無くなりそう……他に何かメモ出来るような物持ってたっけ……。」
ポケットを漁っていると、ふと、村人達の声が聞こえた。
「はぁー……今年の生贄が見つかって良かった。」
「見つからなかったら俺の家内になる所だった。余所者みたいだが感謝だな。」
私の姿は見えていないようで豪快に笑う村人達。
私は建物の裏に隠れ、メモ帳のページを捲る。
このクニでは毎年、蛇神に捧げ物をする。
このクニでの蛇神は雨を降らす力があるとされている。
捧げ物をする時期は毎回これぐらいの時期。
捧げ物の詳しい内容は不明。
クニの中は男性が多く、女性は比較的少ない。
そして……村人の『生贄』の言葉。
ザリ、ザリ、と足音が聞こえる。
「こんな所におられましたか。お客様。」
「探していましたよ。」
先程話していた村人とは別の、私達を招き入れた村人達が、私を取り囲むように現れる。
……そうか、彼らの目的は最初から。
生贄に出来る、女性だったのだ。
「ちょーっと、何やってんですかねぇ?」
私の横をひらりと紙が落ちる。
紙が地面に付くとそこから人が現れた。
……
「
「さぁ?囲んでるのはどっちだろうな。」
村人の背後から四人の影。
「状況は把握しました。」
「
「ビンゴだね。
「あぁ、出来れば当たって欲しくなかったが。」
知らぬ間に背後を取られていた事に驚愕する村人達。
「ちーなみに、そっちは式神だから本物はこっちにいるんだけど、な。」
四人の後ろから歩んで来たのは
「え……!?式神……?」
つまり現状彼は二人この場にいるという事。
「簡単に言えば俺の使い魔。ソイツはダミーってわけ。……まぁ、式神と言えど操作してるのは俺だからな。ちゃーんと、実力もお墨付き、っとぉ!」
式神と呼ばれた、私の横にいた
「よーし!束縛だ!」
クリフトのその声に従うように村人達は動きを封じられた。
「な!なんだこれは!」
慌てふためく村人達。
「痺れるだろうがそこで大人しくしてろ、デカブツ。」
ワキワキとしてる
「暴れていい?」
「いや、貴方が暴れると災害になります。せめて風を起こす程度にして下さい。」
「はぁーい。」
そう言い
「さ!
クリフトの声。
今までの事象と先輩達の行動、これでハッキリ分かった事がある。
「この人達は敵で、間違いないですよね。」
「え、あ、まぁ、敵対しては……いるかな?」
ならやる事は一つ。
クリフトの声を合図に剣を抜く。
「……え。」
戸惑う事なく、村人達に剣を突き刺し、溢れる鮮血。
慣れた手つきで切り裂いては、的確に命を貫く。
「敵は、殺す以外無いでしょう?」
先輩達は何故か唖然としている。
常に冷静でいた、あの
囲んでいた敵達は先輩達による行動不能状態もあり、僅か数分で壊滅した。
「皆さん、終わりましたよ。ここからはどうしましょうか。」
私の声でハッとする
「……っ
「……ん、あ。いや、まだ見つかってない……が、変なのが外にあってな……」
「え!?今度は何!?」
メモ帳にあった。これは。
「……蛇神です!このクニの、伝承の!」
咄嗟にメモ帳の内容を思い出し、声を出す。
目の前に現れたのは……黒い、巨大な蛇。
「あ、もしかして僕、あれと間違えられて攻撃されたのかな?」
巨大な蛇を見た
「いや、まぁ確かに似てるっちゃあ似てるけど……。」
「あるかもしんねぇな、んでそう勘違いした村人がコイツのご機嫌取りに生贄を……ってな。」
「クリフト!」
「りょーかい!」
呪文を唱えると
「この世界のカミサマか何かは知らねぇがこれでも喰らえ!」
バズーカから発射したのは電撃のような弾。
それは見事に蛇神の片目に的中し、蛇神はもがき苦しんんだ。
「
総員、退避!この集落の外に出るぞ!」
その
「グオオオオオオオ!!!!」
「んびゃあーっ、耳に響くぅー!」
「貴方の鳴き声もそんな感じですがね。呑気にしてられませんよ!」
逃げる宛てはない。
「
「まだ見つかってねぇ!」
蛇神は森の中に入った私達を探す。
「何処に向かって逃げてるのー!?」
「朝日の登る所!」
「つまりは決まってないのな!」
地面が揺れる。蛇神が動いているのだろう。
一方、私の視界に何かが入った。
「皆さん!あれ!」
私が指さした方向、そこにあったのは……。
「火の玉……か?」
「あ!アイツ!俺の式神燃やした奴!」
火の玉はゆらりゆらりと動きながら、何処かを目指しているようだった。
「どうせ何のヒントもない!追うぞ!」
ゆらゆらと何処かを目指す火の玉、それを追いかける私達。
ようやく火の玉が掴めそうな所まで追いついた時、目の前にはあるものがあった。
「……ゲートだ。しかも一度崩壊した物が復元されている。」
立ち止まる先輩達。
「って事は……。」
「あぁ、一度誰かが使った。それもつい最近。」
睨みつけるようにゲートを観察する
「ゲート接続完了。僕達の世界に繋がったよ!」
「さんきゅ、クリフト!」
地面が揺れる。
揺れは激しくなり、蛇神の接近が確認出来る。
「開く!!!」
クリフトのその声と同時にゲートが光る。
・・・
「サジューロ先生、こちらの世界のゲートに別世界のゲートが接続されました。」
声をかけられたのは培養管の前に立つ、黒い長髪を乱雑に結んでいる猫背の男性。
「生命体の数は。」
「六です。」
男性の声に素早く答えたのは学生と思われる女性。
「……ならばそれは
黒髪のサジューロと呼ばれた男は部屋を出ると煙草に火を付ける。
「あ、サジューロ先生。校内は喫煙禁止って……この前アニア先生にも言われた所じゃないですか。」
「ばーれなきゃいいの。それより
「はぁ……私が生徒委員生である事忘れてるでしょ……。
「覚えてますよぉ、娘の所属委員会忘れる親いるかってーの。はいはい、案内よろしくお願いしますねぇ。」
はぁと煙を吐き、気だるげに少女について行くサジューロ。
「さぁて、今回はどうなった事やら。」
我々の探す世界は、果たして見つかったのか。
それともハズレか。
答えは出撃した彼らにしかわからない事だろう。
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