第二十エロ 人攫いの実験
小さくなった助態がねずみや蜘蛛、猫と格闘している頃、ティーパンたちはやることがないので助態が蛇によって謎の呪いをかけられた小部屋で小休止を取っていた。
「助態さん大丈夫っすかねー?」
サラマンダーの火で炙った肉を頬張りながらぱいおが言う。
「大丈夫って何がさ?」
同じく肉に豪快にかぶりつきながらもふともが聞き返す。
「だって小っちゃくなってたじゃないっすか?一応心配じゃないっすか?」
ぱいおがまともなことを言うと、くびち、もふとも、ティーパンがぱいおのことを真っすぐ見た。
「「「別に。」」」
3人が同時に言う。
「えぇー。なんなんすかみんな?」
もう一口肉を頬張りながらぱいおがぶすっとする。
「ティーパンさんはあれっすけど、くびちさんももふともさんも助態さんに気があるんじゃないんすか?」
「ふ。お子ちゃまねメス豚巨乳。」
そう言ってくびちがぱいおの胸を揉む。
「あー、だめぇー。ウチにはガチムチさんという恋人がぁー。」
そう言いながらもぱいおの顔がほころぶ。
「いい?私は助態のことを信用してるのよ。助態はやる時はやる男よ?」
わかった?と言いながら更に胸を揉みしだいた。
「アタイは別にどうでもいいからなー。」
もふとものこの発言にくびちとぱいおの戯れが終了した。
「あなた…」
はぁ。とくびちがため息をつく。
「もふともさんまーだそんなこと言ってるんすか?」
ぱいおは首を左右に振る。
「なっ、なんだい!別にいいだろ!ほんとのことなんだから!」
顔を真っ赤にしてもふともがそっぽ向く。
くびちが、素直じゃないわね。と言いぱいおが、っすね。と相槌を打った。
すると突然ティーパンがすっと立ち上がった。
「?どうしたんすか?」
ぱいおがティーパンを見上げる。
「遅い!もう待てない!全員下がってな。破滅の時は来た。火を呼べ水を呼べ光を呼べ!」
ティーパンが呪文を唱えると2つの頭を持つ大きな蛇が召喚された。
片方は火を吐き、もう片方は水を吐いていた。
かなりの上級召喚魔法なのだろう。ティーパンは疲弊していた。
2つの頭を持つ蛇が、前方の行き道を塞ぐ岩に向かって2匹同時に口を開けた。
全員が炎と水で攻撃するのだろうと思った。
しかし2つの口から放たれたのは目もくらむような閃光だった。
召喚レベル9に相当する双頭蛇は2つの口から攻撃をすると光線を出せるようになる不思議な生物だった。
ポンという小さな音と共に双頭蛇は消えてしまったが、目の前の大岩は粉々に破壊されていた。
疲弊したティーパンは、強引に道をこじ開けてしまったのだ。
●
ティーパンの行動によって、すでに助態の大冒険は無意味なものとなった。
驚いたことに助態は人間サイズにして、5歩分程度の範囲内を移動していたことが分かる。
人間サイズから見ると、猫も子猫のようだ。
助態を追い詰めていた2匹の子猫は、突然現れた複数の人間を見て、文字通り尻尾を撒いて逃げ出した。
ちょっと先に数匹のねずみも見かけたが、ティーパンたちは気にも留めない。
「でな?こーんなにでっかい蜘蛛を俺がパンチしたんだよー。すげーだろ?いやー勇者の力に目覚めちゃった感じかなー?さっきももしかしたら勇者の力で猫を倒してたかもなー。」
くびちの肩の上に乗りながら助態は、一生懸命自分の大冒険を聞かせる。
しかしくびちはつい今しがた、ティーパンの実力を目の当たりにしている。
助態のしょうもない話しを聞いて驚くわけがない。
そもそもそれは勇者の力とかじゃないとくびちには分かっていた。
「それって、火事場のバカ力ってやつじゃないっすか?」
ぱいおがズバリ言い当てる。
助態が固まる。
言わないように気を使っていたくびちがぱいおを見る。
「つーかウチら今ティーパンさんの実力見ちゃったから、助態さんのそのしょーもない探検話し聞いてもなんも思わないっすよ?」
「ちょっとやめたげなさい。」
くびちが人差し指を口元に当てて、しーっと言う。
「ま、アタイらからしたら助態が移動したのほんの少しだしね。ベルトコンベアのスイッチを探してるかと思ったら蜘蛛とかねずみとか猫と遊んでたってんじゃねー。」
もふともも、あほらしいと付け加えながら言う。
「あ!遊んでねーよ!」
助態はそう言うが、実際小さくなって追われていた助態を見た者はおらず、5歩程度の距離しか移動していないとなると説得力はないだろう。
「さ、そろそろ行こうか。ここを破壊してもあの蛇はいないしとりあえず人攫いを探してしまおう。」
魔力を回復させる飲み物を飲み終えたティーパンが言う。
こうして再び行動を開始した。
助態が墜落した落とし穴もティーパンによって破壊され、全員は地上へと出られた。
「ティーパンさんすごいですねー。地形とか破壊しちゃうなんて。」
素直に助態が褒める。
「まぁある意味裏技みたいなもんだからねー。魔力が空になっちゃうからまだまだだけど。いざという時の切り札だと思っておいて。それに、あれを頼りにしないでよ?今の私はせいぜいユルルングルとかの召喚レベル5までのモンスターを召喚できる程度だから。」
つん。と肩の上に乗る助態を指で軽く押すが、どことなく口元がほころんでいる。
素直に褒められて嬉しいのだろう。
助態たちは当初の予定通りユーサー町へ向かっている。
本来であれば歩いて4日の距離だが、助態が落とし穴に落ちたために時間をかなり無駄にしている。
それでも何事もなくユーサー町までたどり着けたのは幸運だろう。
食料品などの必要物資だけを集めてすぐに、ホワイトマウンテンへ向かおうとした。
すると思わぬ声がした。
「ビッグスノーマンが勇者を罠にはめたようだ。」
「あぁ聞いたよ。それより知ってるか?オレ達が作り上げた小さきヘビが勇者を小さくしたってよ。」
「何?じゃあオレ達の実験は大成功ってことか!」
ひそひそ話のつもりだったのだろう。
男2人組の目の前に、くびち、もふとも、ぱいお、ティーパン、アンアン、あへが仁王立ちしていた。
助態の目には――いやきっと男2人組の目にも同じように見えたに違いないが――4人と2匹の背後にそれぞれメラメラと燃える炎が見えた。
「その話し。詳しく聞かせて貰おうか?」
ニヤリとティーパンが笑うが目が全く笑っていなかった。
●
男2人組は牙狼族であり、人攫いの一味だったようだ。
彼らの話しによると、近年勇者がこの地に降り立ったことで知能の高いモンスターが勇者に対抗するために生態系を変えたとする噂が広まったらしい。
彼らは昔からモンスター実験をしており、新種のモンスターを生み出していた。
勇者がこの地に降り立ったことで、新種のモンスターを倒される恐れがあったため、勇者の仲間を攫い、勇者を小さくしてしまったらしい。
ビッグスノーマンに知識を与えて罠に嵌めるように指示したのも彼らだったらしい。
「呆れた。自分たちの実験を隠したいから勇者を狙ったってこと?」
ティーパンが1人の牙狼族をビンタする。
既に2人の両頬は真っ赤になっている。
全員から何度もビンタを食らったからだ。
今しがたティーパンが言ったように、人攫いたちはモンスター実験を繰り返し行っている。それが勇者にバレて懲らしめられるかもとも考えていたようだ。
「ま、これに懲りたらもうモンスター実験なんてやらないことね。君たちの商売の1つが人攫いだということは周知の事実。それも辞めるんだね。ボスのところに案内して。」
ティーパンにすごまれては、彼らも断れなかった。
こうして助態たちは攫われた純純、ルブマ、ぷーれいを無事に解放した。
「ありがとうございます。ところで勇者様はいないのですか?」
助けてもらったことに対してお礼を言った後、純純がキョロキョロと周りを見渡す。
「ここ、ここ。」
ティーパンの肩の上から助態は自分を指さす。
「あ…えーと冗談ですよね?」
あまりのことに純純も現実逃避を始めた。
「助態さん…なぜ小さくなってしまったのですか?」
ルブマは本気で心配している。
「まぁ色々あったんだけどさ、こいつらのせいなんだよな。元に戻せるんだろうな?」
ティーパンの肩の上から助態がすごむ。
全然怖くないしかっこ悪いよ?とティーパンに言われたが、助態は気にしない。
見るからに怪しい薬を差し出され、助態はそれをゴクリと喉を鳴らして飲んだ。
「アンタ…そんな怪しい薬よく飲めるね。」
もふともが思いっきり引く。
「?飲めるだろ?こんなの。」
助態が飲んでいる液体は、緑色をしていて瓶の中でぐつぐつしていた。それなのに持つとひんやり冷たい。
「私も無理ね。」
ティーパンもそう言いながら助態を床に置いた。
もし本当に元の大きさに戻るなら、さすがにティーパンの肩の上で元の大きさに戻るわけにはいかない。
薬を飲み干して少し経つと、助態は体の異変に気づいた。
「痛てて…体中が痛い…」
そう言った瞬間、右手が巨大化した。
次に左手、そして体、首、顔と部分部分順番に大きさが戻り、見事助態は元通りに戻った。
●
牙狼族は勇者がかの有名なティーパンと行動を共にしていることを知ると、もはや逆らう素振りすら見せなかった。
ティーパンたちに何度もビンタされた2人組の両頬を見て、余計にその気を無くしたらしい。
せっせと助態たちにお茶をいれ、ゆっくりと腰かける。
「とりあえずモンスター実験とやらを聞かせて?場合によっては実物を見せてもらうわよ?」
お茶を一口すすってからティーパンが本題を切り出した。
牙狼族のリーダーが、みんながお茶を飲んでいる部屋の隣を黙って指さした。
全員はお茶を置いてその部屋へと向かった。
牙狼族の実験は助態やティーパンの想像以上だった。
実験部屋には色とりどりの液体がフラスコや試験管に入れられており、中の何個かは火にかけられたり凍らせられたりしている。
「おやボス。お客さんですか?」
研究者らしい牙狼族が近寄ってくる。
ティーパンが液体を見た後に牙狼族のリーダーを見て、これは何?と目で訴えた。
「これは、スライムの体液です。今は吸収スライムの特性を他のモンスターに移せないかを研究してます。」
ティーパンの目を強烈な興味津々の目と勘違いした研究者牙狼族が答えた。
「吸収スライムの特性?」
今度は助態が聞くと、よくぞきいてくれましたとばかりに早口で説明し始めた。
「そうです!吸収スライムと言えば他のモンスターを吸収してそのモンスターの特性が増えますよね?通常のスライム系統同士ならば合体してその特性を引き継ぐことは知られていますが、吸収スライムの場合は他の種族のモンスターでも吸収してしまうじゃないですか?」
ぐいぐいと研究者が助態に詰め寄る。
「え?…と…そう…なんじゃない…かな?」
助態には話しの半分も分からない。
「そうなんですよ!その特性を吸収する能力を自在に使えるようになったら便利じゃないですか?」
目をキラキラさせながら研究者が助態に言う。
「それは確かに便利っすね。でもそんなの自在に使えるようになるんすか?」
予想外にもぱいおが話しを全て理解していた。
「残念ながら今はまだ…」
研究者が首を振りながら残念そうに言う。
理解できていなさそうな助態のためにぱいおが詳しく説明してくれた。
「いいっすか?スライム系統ってのは助態さんも戦った通り、同じスライム種族となら合体するじゃないっすか。」
「あぁそうだな。」
粘着スライムや激辛スライムと戦った時のことを思い出して助態が自信たっぷりに頷く。
「でも吸収スライムっていうモンスターは、なぜかスライム種族以外のモンスターとも合体しちゃうらしいんすよ。」
「えぇ!そんなやばいモンスターがいるのか?」
「それだけじゃなくて、吸収合体したモンスターの特性も得るらしいんすよ。例えば炎を吹くモンスターを吸収したら、吸収スライムが炎を吹けるようになるんすよ。」
ビシッとぱいおが人差し指を立てて得意げに言う。
「しかもですねぇ、スライム系統特有の分裂特性もしっかりと残してるんですよ。」
ぱいおの説明を補足するように研究者が言うと、それに反応したのはティーパンだった。
「吸収スライムの噂は聞いてたけど、他のモンスターの特性も受け継いでいたのか。」
「分裂特性って?」
助態が聞きなれない言葉を繰り返す。
「あれ?勇者知らない?」
あら?とティーパンが言いながら教えてくれた。
「スライム系統は打撃攻撃を受けると分裂するでしょ?その分裂したそれぞれのスライムは分裂前と全く同じ能力を持ってるんだよ。」
そんなことより。とティーパンが研究者に向き直る。
「牙狼族だけでそこまでモンスターの特性を知ることはできなかったはずだ。それにスライムの体液ってことは吸収スライムを倒したか傷つけたかしたってことだろ?誰に力を借りた?」
「俺が話そう。」
研究者が困っていたら、牙狼族のリーダーが口を開いた。
「事の発端は、王の口と名乗る存在がやって来たことだ。」
「王の口だと?古の大戦で死んだと聞いたが?」
研究者がボス!と警告するのを無視してティーパンが言う。
助態がさっぱり分からない顔をしているのを見て、ティーパンがきちんと説明した。
「牙狼族ってのは、決して力がある種族じゃないんだ。その種族が危険度スパイシーSの吸収スライムを倒せるはずもないし、傷すらつけられるかどうか。私でも吸収スライムは多分倒せない。」
「なるほど。だから何者かが手引きしてるっておもったんですね?」
助態が納得すると、えぇそうよ。とティーパンが頷きながら続ける。
「それがまさか王の口だったなんてね…」
「古の大戦…歴史で学ぶ程度のことしか知らないわね。」
くびちが言うとティーパンも頷いた。
「えぇ。かつて起こった大戦争。その戦いで王の口は倒されたと記述があるはず。」
「じゃあ偽物なんじゃないのかい?」
もふともが言うと、牙狼族のリーダーが否定した。
「偽物じゃない。俺は古の大戦を知っている。王の口に会ったこともある。」
「知ってる?何千年も前の話しだよ?」
もふともが胡散臭そうに言うと、ティーパンがそうか。と呟いた。
「語り部か…」
その言葉を聞いて、牙狼族のリーダーが頷いた。
「古の大戦がどんなものだったか…我々の主観でしかないが語って聞かせよう…」
牙狼族のリーダーが古の大戦について語り出した。
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