第六エロ 吹雪の足止め

吹雪は暫く止まなかった。


淫魔族と栗鼠族は確かに仲が悪かったが、淫魔族の戦闘力は本物のようで、ほとんどの魔法は効かない上に攻撃力も防御力も桁外れらしい。


「ま、食い物も助態の性欲だし強いしいいんでねーの?」


あの後、もふともが言った言葉だ。


「…にしても止みませんねー。」


中庭に吹き付ける吹雪を見ながらハクダクが言う。


「この地域は個の時期、結構吹雪とか多いの?」


助態が聞くとハクダクは頷いて答えた。


「しょっちゅうです。大鬼族みたに大きければ吹雪とか関係ないのでしょうけど…」


「でも栗鼠族だって、俺達人間から比べたらモフモフだし寒さをそこまで感じないだけでも十分羨ましいと思うぞ。」


褒められたのが嬉しかったのか、ハクダクは思いっきりにっこりした。


「人間の中には、我々のような種族の毛皮を欲しがる人もいるのですが、勇者様達はみんな優しくていい人ばかりですね!」


そう言われて助態も気づいた。


確かに元いた世界でも、動物の毛皮なんかは多く存在した。


しかも大抵が高級品。


「栗鼠族は人間から狙われるから遠く離れた場所で暮らしてるの?」


「まぁそれもありますね。元々それぞれの種族ごとに暮らすのが普通ですからあまり気にはしてませんけど。」


そう言われてしまえば助態も納得するしかない。


他の種族と一緒に生活する方が変なのは何となく理解できるからだ。


吹雪は止む気配を見せない。



「止まないねぇー。」


同じころ女子部屋でだらけきった恰好をしたもふともが言う。


ちゃっかりルブマの太ももに頭を乗せて、膝枕をしてもらっている。


純純には断られてしまい、仕方なしにルブマにお願いしたところだ。


「あの、もふともさん?」


遠慮がちにルブマが言うがその言葉を無視してもふともが言う。


「ルブマ。アンタ背は低くて胸もないのに、太ももだけはいい感じだねぇ。助態にしてあげれば一発でおちるかもよ?」


頭をあげてルブマの顔をよく覗き込む。


「何言ってるんですか!私は別にこういうことをして助態さんと男女の関係になりたいとは思っていません!」


「その辺にしときなさい。今後のことを話しましょ。」


くびちがもふともの頭をチョップして黙らせ、ぱいお、純純、ぶらら、アンアンを近くに招く。


「今後のことっすか?」


キョトンとした顔でぱいおがくびちを見る。


「んでもさぁ、こんな吹雪じゃ今後の予定も何もないんじゃないかい?」


足止めだろ?と付け足しながらもふともが言う。


「そうね。でもただここで足止めを食っててもしょうがないでしょう?ただ暇を持て余すだけじゃ時間の無駄よ?」


赤く長い髪を後ろにやりながらくびちが言う。


「時間の無駄ってどういうこと?」


ぶららが小首を傾げる。


「特に急ぎの旅ってわけじゃないけど、もしもルブマの両親が生きて捕らえられているとしたら急いだ方がいいでしょう?」


くびちがルブマを見る。


「あ、いえ。確かに心配ですけど私のために皆さんに迷惑をかけるわけにはいきませんから。」


「ふーん。いい子だねぇールブマはー。」


大して変わらない身長なのに、ぶららがルブマを妹のように扱い、頭を撫でる。


「こ!子供扱いしないでください!」


ブンブンとぶららの手を払いのける。


あはは。とブラらは笑いながら、かーわいい♡と更にルブマを茶化す。


「まぁーでも確かにくびちさんの言うことも分かるっす。いつまでもここにいるわけにはいかないですし、ルブマさんの両親のことも気がかりっちゃ気がかりっすよね。」


とぱいおが言うと、今度は純純が質問した。


「では、くびちさんの言う今後の予定は、吹雪の中歩く方法を模索するということですか?」


「はぁ?いくら何でもそりゃ無理だって!」


もふともがルブマの膝枕から頭を上げる。


「私たち淫魔族ですら、この吹雪の中を突き進むのは無理よ?」


アンアンが言うと、くびちは首を振った。


「違うわ。確かにこの吹雪の中少しでも先に進めるのならばそれが一番いいけれどそれが無理なのは、私も分かっているわ。この機会にみんなの気持ちを確かめておこうと思ってね。」


「みんなの気持ちですか?」


純純が小首を傾げる。


「そ。助態のことをどう思っているのかをしっかりと確認しておきましょ?」


「勇者様についてですか?確かに魅力的だとは思いますけど、いつもエッチなことばかり考えているようで、恋愛的にはそこまでではありません。」


と純純。


「ウチは全く興味ないっすねー。他の男との絡みに使うことはありますけど恋愛的に興味はありませんねー。」


純純の横で腕を組みながらぱいおも純純に同意した。


「ボクは悪くないと思うよー?恋愛的には別に好きじゃないけど性的な意味では大好き!」


ピョンピョン飛び跳ねながらぶららが言う。


「私たち淫魔族には恋愛という感情がないから、そういう意味では興味ないわね。ぶららさんと同じ感じかしらね?」


アンアンはぶららに同意した。


くびちがルブマともふともを見た。


「ちなみに私は助態のことが好きよ?だからって他の誰かが助態のことを好きになることを拒むことはしないけど、だからと言って助態を渡す気もないわよ?」


「わ…私は!自分でも分かりませんけど、少しずつ助態さんにひかれている自分がいます。たぶん、好き…だと思います…」


顔を赤くしながらルブマが言う。


「そうね。私から見れば純純も助態のことを好きだと思うわ。ま、本人が自覚ないんでしょうけど。」


微笑みながらくびちが言う。


「わ!私ですか?そういえば前にも言われましたね。自分でも気づかない内に勇者様を目で追っていると。やっぱりヒロインだから勇者様に惚れるのでしょうか?」


「どうなんすかねぇー?一応そんな噂は聞いたことありますけど、なんかの魔法でもない限り職業だけで惚れるなんてあり得ないんじゃないっすか?」


純純の疑問にぱいおが真面目に回答する。


どうやらこの世界では、ヒロインがいずれ勇者に惚れるという噂があるようだ。


更にぱいおが続ける。


「まぁでもウチから見ても純純さんは、助態さんのことを好きだと思いますよ?助態さんの気持ちは分かりませんけど。」


ぱいおの言葉を聞いて純純は、やはりそうなのでしょうか?と呟いた。


「で、あなたはどうなの?」


純純からもふともに視線を移しながらくびちが訊く。


「ア!アタイかよ…っ!」


助態の顔を思い浮かべたもふともの顔が赤く染まる。


「いいだろ別に!だいたい何でこんな話しすんだよ!」


「いいんじゃない?ボク今までこういう話ししたことないから楽しいよ。男の助態がいないから尚更正直に話せるしね!」


ぶららは目を輝かせている。


意外にも女子トークが好きなようだ。


「そうよ。助態がいないこういう時だからこそ、恋愛話に花を咲かせるんじゃない。」


「まぁ確かにこういう話ってウチもしたことないんで、意外とすると楽しいっすね。ウチから見るともふともさんは助態さんのこと好きっぽいんすけどねー。」


くびちの後にぱいおが言うと、もふともは更に顔を赤くした。


「…正直、自分でもよく分かんないんだよ。アタイはずっと純純のことが好きだった。なのに気が付くと確かに助態のことを見てたり考えてる自分がいる…これが恋なのか何なのかは分かんないけど、助態が他の女とイチャつくのは何だか胸が痛む…」


「恋っすね。」


「恋ね。」


「恋だね。」


ぱいお、くびち、ぶららが同時に言った。


言われたもふともは、顔を真っ赤にして、毛布を手元に引き寄せて口元まで毛布で隠した。


「でも…本当によく分かんないんだよ…それにまだ気になるだけっていうか…」


ゴニョゴニョと言い訳をするが、ぱいお、くびち、ぶららはニヤニヤしながらもふともを見る。


「わっ…笑うなぁー!」


真っ赤になりながらもふともが叫ぶ。



ホワイトアウト――


雪や雲などで視界が白一面になることを指す。


ずっと雪は止まず、助態たちは、何日も淫魔族が経営する温泉宿に足止めさせられている。


助態もいい加減足止めに飽き飽きしていた。


特にルブマの両親を気にしているわけではない。


早く冒険がしたいわけでもない。


単純に、足止めを食っている現状に飽きてしまったのだ。


『不謹慎だけど、何か起きないかなー。とか思っちゃうよなぁー。』


淫魔族が経営する温泉宿――願望の宿――


この世界の者ならば誰もが知っている常識。


しかしこの世界の者じゃなかった助態にはその常識はない。


もちろん全ての願望が叶うわけでもないし、ある意味伝説的なもの。


経営している淫魔族ですら、そんな迷信を信じていない。


でも助態は腐っても勇者。そしてこの世界は助態の願望でできた世界――


何か起きないかな?


という願望がたちまち叶うこととなった。


助態の「何か起きないかな」という声が頭の中に響き、続いて「その願い聞き入れた」という謎の声が頭の中を走り抜けた。


次の瞬間、ドーンという轟音と共に温泉宿の隣の山の雪が崩れ、雪崩が発生した。


「これは?」


慌てる助態の下にアンアンが走ってくる。


「勇者様!勇者様の願いが叶ってしまったわ。私たちも迷信だと思ってたけど、まさか本当に願いが叶うなんて…」


助態の手を引っ張ってアンアンが中庭に連れて行く。


どうやら助態の頭の中にした声は、アンアンの頭の中にもしたらしい。


それどころか、この宿にいた人全員の頭の中に響いたらしい。


「勇者様の暇だという気持ち、よく分かるけどまさかそんな願いが叶うなんて、勇者様はやっぱり何か持っているんだろうね。」


中庭まで助態を連れて来たアンアンがにこりと微笑む。


中庭には、雪崩が来ていたようだ。


それなのに被害はほぼ0だった。


その理由は、巨大な鬼が雪崩を止めていたからだ。


人間の3倍以上の背丈がある大鬼族が雪崩を止めたようだ。

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