第三エロ 旅立ち

結局助態たち一行は、一度ラーガの村に戻ってそこで兎獣族の情報を集めることにした。


しかし、不思議なくらい兎獣族の住んでいる場所の情報が出てこなかった。


「何なの?異世界ってこういうもんなの?ゲームだったら普通ヒントとかあるじゃん?」


ぶつぶつ文句を言う助態に、ゲームですか?と純純は首を傾げた。


情報がない以上、助態たち一行はラーガの村を拠点に情報を集めることに専念した。


助態、純純ペアは兎獣族とカローンの村の情報を吸い上げて整理。


くびちとぱいおのペアは湖まで行って、換金できるアイテムの入手。


もふともとルブマのペアは村でアルバイトをして日銭を稼ぐ。


アルバイトのお金は、宿代や日々のご飯代に使い、換金したお金でアイテムや道具、非常食や飲料の購入に充てた。


「カローンの先に行ってみるとのことですが、本当に大丈夫でしょうか?誰も道が分かりませんよ?」


純純が不安そうな顔をする。


それもそのはずだ。


兎獣族の情報がないと分かった以上、助態はラーガの村で情報が上がってくるとは思っていなかった。


それならば、自分たちで行動を起こすしかないということも何となく直感していた。


ラーガの村を更に草原方向に進んでみるのもいいのだが、何となくカローンの村の先が気になったので助態が提案したのだ。


みんな、驚きはしたがとりあえず了承した。


問題は、カローンの村までしかみんな行ったことないことだった。


そこで、助態たちは兎獣族の情報やカローンの村の生き残りの情報と一緒に、その先の情報も集めているわけだが…


「ぜんっっっぜん!情報がない!どうなってるんだ?」


「あの、勇者様。私達は基本的にこの村で生活しているので外に出ることは滅多にしないんです。」


助態が悪態をついていると、申し訳なさそうに純純が言う。


「だからその、この村以外のことは普通は分からないんです。」


「つっても、行商とかはいるでしょ?」


「行商…ですか?」


聞いたことない言葉を聞いた反応だ。


「いやいい。夕飯の時にみんなで話そう。」


片手をひらひらと振って、助態は再び情報収集に戻った。



「そしたらさ、そのおっさん何したと思う?」


その日の夕食時、宿屋で出された茹でたじゃがいもにナイフを突き刺しながらもふともが怒る。


「なぁに?その貧相な胸でも触られた?」


どうでもいいようにくびちが言う。上品にじゃがいもを口に運ぶあたり大人だ。


「ちっがーう!スカートをめくって尻を触ってきたんだよ!信じられるか?初対面だぞ?」


「だったらその店で働くのやめればいいのに。」


ため息交じりに助態が言う。


もうこれで何度目か。


もふともとルブマは、着せ替え食堂という店で給仕の仕事をしている。


要はコスプレ喫茶だ。


客の注文にあった服を着せられ、品物を運ぶ。


「嫌だね!給料がいいんだ!さっさと金貯めて旅に出るんだろ?」


そしてそういう店なのだから、当たり前のようにセクハラがある。


毎度毎度もふともは客にセクハラされたことを愚痴っている。


ちなみに一度着た服は持って帰れる。


そのため、宿屋のクローゼットはもふともとルブマが一度は着たであろうコスプレ衣装でいっぱいだった。


「旅に出る時にはこの衣装も全部売らないとな。」


衣装の半分は客の持参品だ。


ズラリと並べられた衣装を見ながら助態が言う。


どうやらもふともは今日、ひらひらのミニスカートに客が用意したパンツを履かされたようだ。


「ルブマはどんな恰好をしたんだ?」


聞かされるのはいつももふともの愚痴ばかり。


興味本位で聞くと、びくりとした後にルブマが着ていた衣装を差し出した。


「水着…?ですか?」


純純がキョトンとしてルブマが差し出した、スクール水着を見る。


絶対に似合う!助態はそう思ったが口には出さなかった。


『異世界にはスク水って言葉はないけど、これがエロいっていう概念はあるんだな。』


なんてことを考えながら、大変だったな。と声をかけている。


口ではこんなことを言っている助態だが、実は店そのものには興味があった。


もっとも、このパーティーのメンバーはすでにコスプレしているようなもんだから見慣れている。


「どうせ見るなら、セクシーなお姉さんのナース服とかだろうなぁー。」


思わず口が滑った。


助態はロリコンだが、見るだけならセクシー系の方が好きなようだ。


「「「「「なーす?」」」」」


5人が口を揃える。


「あぁ。知らないか。俺が元にいた世界で傷とか病気を治してくれる職業の人さ。」


「あぁ。キュアラーのことか。」


なーんだと興味なさそうにもふともが言う。



結局、ラーガの村には3ヶ月以上滞在することとなった。


理由は2つ。


1つは、換金するアイテムがしょぼいからなのか、アイテムや道具が高いからなのか、全然準備が進まなかったこと。


もう1つは、メンバーの浪費癖が激しいことだ。


換金金額が少ないならば、もふともやルブマがアルバイトで稼いだお金を使えばいいと考えるのが普通だが、くびちはお酒大好きな上に酒豪。助態もそれなりにお酒が飲める。


もふとももまぁまぁ飲めるが、酒癖が悪い。


酒癖が悪いと言えばルブマだ。


この世界にはどうやら、未成年という概念はないらしく、


(「ということはロリコンもなにもない!よっしゃー!」と助態が叫んだ。)


基本的には誰でもお酒が飲めるらしい。


ルブマはお酒を飲むと性格が変わる。隠していた性癖が出てくるのか突然エロくなるのだ。


初めてお酒を飲むと言っていた時にそれが発覚した。


ほんの一口飲んだだけで顔を真っ赤にしてろれつが回らなくなり、暑いと言って服を脱ぎだし、隣にいた助態に無理やりキスをし、下半身を突然触り始めた。


(「これが男の人にだけあると言われている秘剣ですか。」)


さすがに、全員が止めて変な顔をした助態だけが食堂に残されるという事態になった。


それからルブマは3日、助態とまともに顔を合わせられなかったのだ。


ルブマの悪いところはそこだけではなかった。


ずっと貧乏をやっていたからだろう。突然手に入った大金(とは言ってもアルバイトで稼いだ日払いの金額なのだが)を目にして、あれもこれも買い始めたのだ。


ペットを飼おうとした時には、これまた全員で止めに入ったものだ。


(「何でですか!私が稼いだお金ですよ!」)


もふともももふともで厄介だった。


とにかく自分で稼いだお金を全て食糧に使おうとする。


(「アタイは宵越しの銭は持たない主義なんだよ!」)


ぱいおは、ルブマに頼み込んで自分の趣味の本を何冊も買っていた。


(「うへへー。見てくださいよルブマさん。このガチムチがひょろひょろに犯されてるシチュもまた萌えませんか?」)


純純と助態も、ランチと称してかなり贅沢な食事を毎回していた。


(「いいか純純。みんなには内緒だぞ。」「分かりました勇者様!」)


そんな訳で、全然旅立ちの用意が出来ていなかったのだ。



季節は初夏から秋になっていた。


日本で言えば紅葉の季節。


異世界でも木々が紅葉するようだ。


「そろそろ寒くなるのか…」


湖に沿って街道を歩きながら助態がボソリと呟いた。


ラーガの村に滞在して3か月余り。アイテムなどの準備が出来た一行はようやく出発した。


「そうですね。冬になれば通れなくなる道もあるそうです。」


隣を歩く純純が言う。


「あー。雪で道が通れなくなったり?」


「それもありますが、道が凍ってしまったり氷山や流氷で船が通れなくなったりするようですよ。」


片手の人差し指を上げながら純純が説明する。


「まっ、夏場は夏場で大干ばつやら何やらで通行止めになる場所もあるんだけどねー。」


後ろからもふともが声をかける。


どうやらこの世界は、助態がいた元の世界以上に過酷な自然環境なようだ。


ラーガの村を出て数時間歩くと湖にたどり着く。


前回同様に一行は湖の畔で小休止を挟んだ。


食糧や飲料は持てるだけ持っているので、草原になっている精林子を持ち運ぶ余裕はない。


しかしそれでもこの小休止で口に入れるくらいはできるし、湖の水と湖の中の貝や海藻を使って簡単なスープを作ることはできる。


小休止を終えて湖に沿ってカローンの村方面に歩くと5日程でカローンの村に着く。


今回は、カローンの村を素通りしてその先まで行くわけだが…


「私もカローンの先はよく知らないわよ?平原が広がっていることと、リスの穴とか呼ばれている洞窟があるってことくらいよ?」


とは、小休止時のくびちの言葉だ。


この辺りの地理に一番詳しいくびちですら、カローンの村までしか行ったことないと前にも聞いていた。


そこから先は、どこに町や村があるかも分からない、完全にサバイバルになるわけだ。


「とりあえずリスの穴を目指すのでいい?」


再度助態が全員に確認をする。


異論はないようだ。


そもそも行くあてもない旅なのだから、反対のしようもないのだが。


「穴って聞くとどうしてもエロいことを考えちゃうのは何でなんすかねー?」


うへへと笑いながらぱいおが隣を歩くルブマに言っている。


「しっ!知りませんよそんなの!」


「あれあれぇー?ルブマさんお酒飲んだ時めっちゃエロくなってたじゃないっすかー。助態さんのあそこを触りながら秘剣とか言ってたじゃないっすかー。」


「そっ!そんなことはありません!」


一行は賑やかで緊張感のないまま歩き続けた。



「くそっ!油断した!」


助態が舌打ちをする。


「仕方ないだろ!まさかモンスターが巡回なんてしていると思うか?」


もふともが助態の隣で反論する。


さっきまでは順調だった。


順調すぎる旅だった。


カローンの村の近くに来た時に異変は起きた。


確かにずっとモンスターが現れなかった。それを変だと思わなかった助態たちの落ち度ではある。


しかしそれにしても、まさかモンスターがカローンの村を守るために巡回いているとは誰も思わなかった。


結果、野菜軍団に見つかってしまい、パーティーはバラバラに逃げるはめとなってしまった。


助態はもふともと一緒に、女体人参から逃げていた。その名の通り女性の体に見えるような見た目をしていた。


「あれも強いの?」


見た目は弱そうだ。


「危険度はCだからねぇ。弱くはないよね。」


「てことは酸スライムと同じ強さか…」


「どちらかと言うとチェイスドッグと同じ強さだね。」


もふともが訂正した。


同じ危険度Cでも上下がある。


女体人参はチェイスドッグ同様に、B寄りのCということだ。


「戦うのは無謀ってことか…」


逃げながら助態が悔しそうに言う。


『へぇー。常に逃げることだけを考えている腰抜かと思っていたけど…腐っても勇者なんだねぇー。』


一瞬もふともは、助態に見とれる。


ぷるぷるぷると頭を振って自分を否定する。


『アタイが男を好きになるだと?絶対にありえん!』


ドスッ。


「ぐふっ。何すんだよ…」


悔し紛れにもふともが助態のお腹を殴ったのだ。


「別に。ちょっとイラついただけ。」


「イラついたってやっぱ逃げてるからか?」


助態の質問にはもふともは答えなかった。


しかし助態には反応する余裕はなかった。


女体人参が追って来なくなったのだ。


止まって後ろを振り返る。


「何だよ?」


後ろを走っていたもふともが、自分のことを見られたと思って照れながら言う。


『何でアタイは赤くなってるんだい!』


「女体人参が追って来なくなった。」


「何だって?」


助態の言葉にもふともは表情を変える。


「…考えられることは2つね。1つは縄張りであるカローンから離れたから。もう1つは…」


親指を口元に当てながらもふともが言う。


――代わりの者が襲われているか――



遠くから叫び声が聞こえる。


助態ともふともがカローンの村付近に戻った時、バラバラになっていたメンバーも戻っていた。


もっとも、女体人参に追われていたのは助態ともふともだけで、他のメンバーは追われていないのだから簡単に戻れたのだが。


助態ともふともを追っていた女体人参は、もふともが想像した通り今は別の人物を追っていた。


「たぁーすけてぇー!」


めがねをかけた、黒くて短い髪の毛を片側で結んでいる少女が、涙目になりながらこちらに向かって走って来る。


「げっ!モンスターを引き連れてくんなよ!」


もふともが舌打ちしながら、さっと立ち上がる。


「どうせ助けるって言うんだろ?アタイが囮になるからそのすきに助けてやりな!」


「同じめがねとかキャラ被ってるんすけどねー。」


ぱいおもそう言いながら立ち上がった。


もふともはシーフ、ぱいおは騎士。2人とも囮には最適だった。


「っつてもウチは、痛みとかが好きなドMじゃないんで、さっさと助けに来てくださいよ?」


「あなた達はここで、追われてる子をお願い。」


くびちが純純とルブマに言う。


行くわよ!と言われて助態も立ち上がって女の子を助けに向かった。


「あの…もしかして純純さんも野菜軍団に何かされたのですか?」


「幼い頃に襲われました…今生きているのが奇跡なくらいに…偶然、ティーパンさんに助けてもらえていなかったら…」


暗い表情で純純が言うと、ルブマがえ?と聞き返した。


「ティーパンさんって、長い金色の髪の毛をした?ひらひらとした派手な恰好をしたあのティーパンさんですか?」


「知っているんですか?」


「カローンが野菜軍団に襲われて、それを知らずに村まで戻ろうとしたところを止めてくれたのもティーパンさんでした。私はそのままラーガに連れて行って貰いました。」


2人は一瞬無言で顔を見合わせた。


「あの…もしかして、ティーパンさんならこの辺の地理にも詳しいんじゃないですかね?」


ルブマが言うと、


「何で気付かなかったんでしょう?」


と小首を傾げながらも、純純もルブマの言葉に納得した。


「会えたらお礼も言いたいですよね!」


ルブマが笑顔で言う。


決意を新たに、2人はこちらへ走って来る少女を迎え入れた。



もふともが女体人参の死角から砂の塊を投げる。


サンドスローと呼ばれるシーフのスキルだと後から知った。


「頼むよ!」


もふともが声をかけると、ふおぉぉぉー!とぱいおが言いながら我慢というスキルを発動した。


文字通り、敵の攻撃を我慢するスキルだ。


「ウチはガチムチに罵られてる!ウチはガチムチに犯されてる…」


片目を潰された女体人参がぱいおに標的を変更して、しなる両手で殴り始める。


そのすきにくびちが、顔変化で追われていた少女の顔に変身した。


「おっけーよ。」


そう声をかけて、ぱいおを逃がす。


見事な連携だが、倒すというよりも少女を逃がすことに特化した連携だった。


女体人参はそこまで知能が高くないのか、変化したくびちと逃げてた少女の見分けがつかないようだ。


ありがとー!とやや高めの声でお礼を言いながら少女は脱兎のごとく駆け出した。


「いや早いな!」


助態が思わず突っ込む。


女体人参が助態の声に反応して助態を向く。


「さっく戦どぉーりっ!」


ややビビりながら助態がくるりと後ろを向く。そのすきにくびちともふともとぱいおが戦線を離脱した。


もちろん、全然作戦通りではない。


「後は任せたっす!戦友よ!」


通り過ぎざまにぱいおが親指を上げた。


戦友と書いて友と読むあたり、悪意を感じる。


女体人参と1対1の形となった助態だが、はなから戦うつもりなどない。


「くぉぉぉぉぉー!俺にも魔法が使えればいいのにぃー!」


必死に逃げながら助態が叫ぶ。


少女に変化したくびちが助態と並走することで、女体人参の意識を集中させることに成功した。


「あそこに!」


くびちが指さした先には大きな岩があった。


岩を回り込んで女体人参の視線から逃れる。


標的が岩の裏に回り込んだと思った女体人参は、そのまま岩の裏へ回り込むが、その時には助態とくびちは岩の隣の草むらへと隠れていた。


草むらが少ないため、助態とくびちは密着する形となっている。


くびちの豊満な胸に顔をうずめて嬉しい反面、息苦しい助態は、酸欠状態のままこの窮地を迎えた。



結局女体人参は、獲物がいなくなったと諦めてカローンの村へと帰って行った。


その様子をしっかりと確認してから助態ともふともは仲間の元へと帰って行った。


その様子をしっかりと確認してから助態ともふともは仲間の元へと帰って行った。


「いやぁー!危ないところだったぁー。」


後頭部をカリカリと掻きながら少女が言う。


「ボクはぶらら!助けてくれてありがとう!」


小さな目から茶色い瞳をほんの少し覗かせながらぶららと名乗った少女がお礼を言う。


「何だってこんなところを1人でウロウロしてたんだい?モンスターに追われていたアタイ達が言うのもなんだけど、1人でカローン付近をうろつくのは無謀ってもんだよ?」


両腕を組みながらもふともが諭すように言う。


もふともの意外な一面を見た助態がもふともを見つめる。


「なっ!何さ!」


もふともが赤くなる。


「いや。意外だなと思って。普段どちらかと言うとふざけているイメージだから。ぱいおと一緒に。」


最後に付け足した言葉にぱいおが反応していた。


「なんすか!ウチはおふざけ担当じゃなくてお色気担当っすよ?」


「べっ別にいいだろ!アタイだってたまには真面目なことだって言うさ!」


思えばぶららを真っ先に助けると言ったのももふともだった。


「助態さん知らなかったんすか?もふともさんはこう見えて真面目キャラっすよ?言うならばツンデレっす。真面目とおふざけのツンデレだから…まじざけ?」


相変わらずぱいおはふざけている。


『俺が知らないだけで実は真面目ってことね。』


もふともをまじまじと見ながら助態はそんなことを考える。


「い、いやらしい目つきで見るなよこの変態!」


「もふともよ。お前に言っておくことがある。」


「なっ何だよ…」


「俺は確かに変態だ。前にいた世界では体だけの関係なんてのもあったし、スカートの女性が歩いていればパンチラを期待もしていた!けどな、俺だって誰でもかんでもいいってわけじゃないんだ!」


ここで助態は一息置いた。


「俺はロリコンだ!いいか?毛はツルツルに限るし身長もちっちゃくて顔も幼いのがベスト!言うならばルブマみたいのが理想だ!だがな、胸はでかくなきゃ意味がないし、俺はめがねフェチでもある!ぱいおみたいなめがねが好みだ!分かったか!?」


くわっ。と大きく目を見開いて堂々と助態が性癖を晒した。


「ろ…ろりこん?ぱんちら?ふぇち?何言ってるかよく分かんないけど、アンタの好みはルブマってことだね?」


「違う。ルックスや毛、身長とかはルブマ、胸はくびち、めがねはぱいおだ!」


「純純の要素が何も入っていないのはどういうこと?」


もふともに言われて助態が純純を見る。


「エロ要素が皆無!」


ごっ!


答えた瞬間純純が木の棒で助態を殴った。


助態は再び、にやけた顔をしたまま気絶した。



「で、何でここに1人でいたんだ?」


復活した助態が、わざとらしい真面目な顔つきでぶららに訊く。


「さっきも話したけど、ボクは自由人なんだ。」


「自由人?人間じゃないってことか?」


「違うわ。自由人っていうのは職業なの。私が魔術師であるようにね。」


助態の間違えをくびちが訂正する。しかし、その言い方には軽蔑が明らかにこもっていた。


自由人とは、あてのない旅をして自由気ままに過ごす人のことだった。


「いいじゃないか!それこそ異世界転生のだいご味だよ!」


「よくないわよ。あのね、自由人っていうのは、何にも縛られないの。例えば誰かが助けを求めても、自分が助けたいと思わなかったら助けないのよ。自由人はそういう人たちのことで、それを職業として認めているのも、自由人たちだけ。他の人たちは別に自由人を職業として認めているわけじゃないのよ。」


「ふーん。ニートみたいな感じか。」


「にーと?」


純純が聞き返すが、助態が話しを促した。


「確かにボクら自由人は、一般の職業の人からは白い目で見られている。でもね、何者にも縛られないっていいと思わないかい?気ままに旅をしてその日その日の獲物を捕って暮らす。ご飯にありつけない日もあれば大量の日もある。これこそが自然摂理ってもんだろ?」


「あー。狩りをして生活しているの?」


目を輝かせながら語るぶららに問いかける。


「ほとんどはそうだね。ボクら自由人は縛られることを拒むから、チームを組むなんてこともないし。そんなわけで、ボクは1人でウロウロしていたというわけさ!」


えっへんと無い胸を張る。


「ま、どっちにしろアタイらは自由人には用がないから。あんまり無謀なことはすんじゃないよ。見たとこ格闘家だろ?筋肉もなさそうだし、自由人やるのは勝手だけど、戦いの職業は変えた方がいいよ。」


「格闘家?ボクはアマゾネスだよ!」


もふとものせっかくの忠告もぶららには通じない。


アマゾネスも格闘家も実質変らないだろうに。


とはいえ、純純が言うにはぶららは珍しいタイプの自由人らしい。


「本来、自由人はこういった交流すらも拒むんですけどね…」


ぽつりと言った純純の言葉が聞こえたのだろう。


ぶららが答える。


「あぁ。なんてことはないさ。人と話すのは久しぶりだったものだからね!」


要は寂しかったのだ。


だから、もふともが帰れオーラをさっきから出しても一切帰ろうとしない。


「みんなはこれからどこに行くんだい?」


しっかりとご飯までご一緒しながらぶららが聞く。


「どこって、ウチら別にどことか決めてないっすよね?とりあえずリスの穴に向かってはいるっすけど。」


「ふーん。じゃあボクも飽きるまで一緒に行こうかな。」


小石に座りながら、お粥を勝手に食べている。


よく見るとぶららは、格闘家らしく道着を身につけていたが下には何も履いておらず、座るとピンクのパンツが丸見えだった。


しかも明らかにわざと助態の目の前に座り、わざと足を開いている。


助態の脳裏に、この世界に転生する前の電車での出来事がフラッシュバックした。


助態の視線に気づいたぶららが更に足を広げる。


「おいしいねこのお粥!」


涎を垂らしながらお粥を食べるぶららを見て、もふともがため息交じりに問う。


「アンタ、何が狙いなんだい?」


「狙い?」


キョトンとした顔をする。


「そうだよ!自由人が他の人と群れるなんて聞いたことないね!自由人が信用ないのは知っているだろ?アタイらの荷物が狙いか?それとも人攫いに誰かを売りさばこうって魂胆かい?」


ずいっと立ち上がって、ぶららの目の前にきてもふともが問い詰める。


「不服ながら。私ももふともの意見に賛成だわ。悪いけどあなたは信用ならないの。ご飯を食べたらどこかに行って貰えるかしら?」


珍しくもふともとくびちの意見が合っている。


「発情女もさすがに自由人には警戒すんのかよ。」


「あなたこそ。自由人が信用ならないって常識をどこで身につけたのかしら?」


言い争ってはいるが、ぶららを信用していない点は2人とも同じだ。


「わ…私もお2人に同感です。自由人は街道でモンスターに襲われている旅人を助けないと聞いたことがあります。」


珍しくルブマもマイナス意見を出した。隣で純純も頷いているからそうなのだろう。


「ちょっ!確かにボクら自由人は気が向いた時にしか人助けしないし、自分たちが助けて貰ったことに恩義を感じたりもしないよ?ボクだってそういう意味じゃ、今回キミたちに助けて貰ったことに恩義を感じてはいない。」


「決まりっすね。ぶららさんには悪いっすけど、このご飯が終わった出ていって貰うしかなさそうっす。ウチも寝ているところをぶららさんが連れて来たガチムチに襲われたくないんで。」


「待って!」


助態以外のメンバー5人がぶららをパーティーとして認めない意見を出したが、それにぶらら自身が待ったをかけた。


「確かにボクが信用できない気持ちは分かる!けどボクがキミたちと一緒にいたい理由はシンプルなんだ!」


そう言って真っすぐ指さす。


指先は立ち上がってぶららの目の前に立っているもふともとくびちだった。


「違う違う2人じゃない。」


そう言ってぶららが指さしたてを左右にひらひらさせてもふともとくびちを左右に避けさせた。


その指先は助態に向けられた。


「…俺?」


「そう!好きなんだ。」


ぶららは両手を頬に当てて、照れながら突然の告白をした。


「えっ!」


「まさか!」


「はぁー?」


「ふぇぇ?」


「マジっすか?」


純純、くびち、もふとも、ルブマ、ぱいおが思い思いの言葉を同時に口にした。


乾いた風が草むらを抜けて通り過ぎて行った。

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