さよなら、焼き鳥になったあいつ。

アほリ

さよなら、焼き鳥になったあいつ。

 こっこっこっこっこっこっこっこっこっこっこっこっこっこっこっ!こけーーーっ!こっこっこっこっこっこっこっこっこっこっ。




 寂しい・・・


 寂しい・・・


 俺はどーせ孤独なニワトリだ。


 俺と付き合うと皆焼き鳥になる為に人間に連れ去られて、焼き鳥にされて焼かれて人間に喰われるんだ・・・!!


 ほら・・・あいつもこいつも程好く成長すると、焼き鳥にされる為に『トサツ場』という場所に連れて行かれてその命を人間の食卓に捧げられるんだ。


 俺は、俺の『生』を生きたい。

 俺は自由に生きてていたい。


 それなのに、俺達の運命は変えられない。


 生まれつき、焼き鳥の素材となる『ニワトリ』として生きている事自体がその運命が決まっているのだ。


 だから、こうやって俺らは人間に与えられた地面の餌をひたすら突っついて、こっこっこっここっこっこっことそこら辺を歩いてその焼き鳥になる前の日までの暇潰しをしている。 


 こっこっこっここっこっこっこと。


 何も考えず、しかし何かを考えていても直ぐに忘れてひたすら、こっこっこっここっこっこっことそこら辺を歩いていく。


 しかし、俺は忘れられない奴が居る。


 ニワトリの『C-1208』だ。

 これはあくまで脚に付けられた認識番号。


 俺はあいつはあえて、『マルハチ』と呼んでいる。


 俺は何時でも思い出す。

 「ニワトリは3歩歩けば忘れる。」

 と、誰が唱えたのか?


 しつこく言う。俺はあいつの事を決して忘れる事は無かった。


 あいつの笑顔、


 立派な鶏冠と翼。


 逞しい脚と俊敏な動き。


 『マルハチ』は、俺の憧れだった・・・



 ・・・・・・


 ・・・・・・



 「おい!『C-2901』!!『C-2901』と言ったら、おめえしかいねぇだろ?!おい!」


 『マルハチ』と俺との出逢いは、俺がヒヨコから若鶏に成長して初めて養鶏場の運動場デビューしたての時だった。


 「俺とかけっこしねぇかい?ヨーイドン!!」


 えっ・・・?!と思った頃には、既に『マルハチ』は、向こうの養鶏場の端の方まで駆けていったのだ。


 「おい!おせぇぞ!!俺とかけっこする気あんのか?」


 ありません・・・と言いたかったが、その『マルハチ』の威圧感にはタジタジになってつい、


 ありますっ!!


 「じゃあ来い!!ヨーイドン!!」


 まだ心の準備が出来て無いのに既にかけっこは始まり、またしても惨敗に終わった。


 「おいおいおい!!本当に『ニワトリ』になる気はあんのか?」


 ・・・ってもう俺らはニワトリですけど・・・?


 「俺はな、『ニワトリ』として来るべき日の為に何時鍛えてんだ。

 おめぇも少しは鍛えろや。来るべきの日の為にな。」


 来るべき日のために????


 来るべき日とは??


 俺はあいつには、ちんぷんかんぷんだ。



 ・・・・・・


 ・・・・・・



 なんだこりゃ?こんなにフワフワしてる球っころは?


 「これはな、『ゴム風船』っつーんだ。

 この養鶏場はな。皆の肉が脂が乗って引き締まって旨味が増すとかで、ここのニワトリ達はゴム風船を使った『ニワトリサッカー』をプレイしてるんだぜ?!」


 ニワトリサッカー??????


 「ほら『おい』!見なって!!」


 ・・・『おい』って、呼び掛け?

 俺の事を『マルハチ』はそう呼ぶんすか・・・・?


 ・・・って!!おいっ・・・!!


 俺は『C-2901』で『オイ』か。

 『オイ』でいいぞ。『オイ』と此れからも読んでくれ。



 ぽーーーーん・・・

 


 うわっ!!突然ゴム風船を弾き飛ばすなぁーー!!


 俺は慌てて脚の爪でいきなり目の前にバウンドしてきた黄色い風船を脚で受け止めようとした。


 えいっ!!



 ぱぁーーーーーーーん!!




 こけーーーっ!


 いきなり、脚蹴りしてゴム風船を弾こうしたとたんにゴム風船は癇癪玉のようなでっかい音を立てて破裂して四散した。


 「おいおいおい!!風船割っちゃダメでしょ!!脚の爪立てて風船を触れたら、パンクするって常識だぞ!!」


 『マルハチ』は、呆れ顔で割れたゴム風船の破片を見詰めて呆然としている俺に言い聞かせた。


 「『オイ』!風船を受け止めて蹴飛ばすには、こうだぞ!!

 脚の爪を立てないで、身体で弾くんだ!!」


 

 ぽーーーーん!!



 うわぁ!!今度はピンクのゴム風船が飛んできた!!


 俺はすかさず翼を拡げて胸を付き出して、飛んできた風船をボイーーーン!!と弾き飛ばした。



 ぽーーーーん・・・



 俺の胸で弾き飛ばしたピンクの風船は、そのまま向こうの方へバウンドしていった。


 「よぉーーーし!!『オイ』!上手いぞ『オイ』!」


 その後、向こうへバウンドしていったピンクの風船は他のニワトリ達が我先にと群がって、ぱぁーーーーーーーん!!と割れた。


 「ほぉーら見ろ!他のニワトリなんか、風船を蹴りたさに一斉に群がって、風船パンクさせちまったぞ?!

 それに比べて、俺と『オイ』は、風船をパンクさせずに胸で弾いちまった。こけこっこーーー!!」


 『マルハチ』の高笑いに、俺も釣られて思わず笑みが溢れた。


 それからというもの、俺と『マルハチ』はニワトリ風船サッカー仲間となり、お互いしあって楽しんだ。


 「なるほろ。って、こうやってパスするんだ。胸でぽーんと。」


 「僕も混ぜてよ。」「ぼくも!」「オレも!」「僕も!」「俺も!」こけーーーっ!こけーーーっ!こけーーーっ!こけーーーっ!こけーーーっ!こけーーーっ!


 と、ただに風船に群がってだけのニワトリ達も挙って加わり、本格的なニワトリサッカーをするようになった。


 「こけーーーーーーっ!」


 『マルハチ』は逞しいその胸で、豪快なシュートを決めると一斉にニワトリ達は簡単の声をあげた。


 「こけーーーっ!こけーーーっ!こけーーーっ!こけーーーっ!こけーーーっ!」


 それに答えるように、他のニワトリ達も真似して風船を胸をぽーーーーんと突いて豪快シュートを決めるようになり、僕も含めて段々体つきが脂が乗って逞しくなっていった。


 そして、ニワトリ風船サッカーの日々の楽しい時間は瞬く間に過ぎていき・・・


 「僕は焼き鳥になってきまーす!!」


 「さようならーーー!!」「焼き鳥屋で焼き鳥になって待ってるぞーーー!!」


 ニワトリサッカーを一緒にプレイしていた仲間達が、次々とトラックに乗せられて出荷されていった。


 皆逞しい体つきになってさ・・・


 皆『トサツ場』で捌かれて、


 むね、もも、ささみ、せせり、てばさき、てばちゅう、てばもと、ればー、なんこつ、はつ、ぼんじり、等に解れて串刺しにされて、炭火でジュージュー焼かれて、


 人間達の口の中に入るんだ・・・


 人間に美味しく戴かれれれば、『肉』としてのニワトリを生きてきた証して本望だろう。


 寂しいな・・・


 「おい!『オイ』!」


 『マルハチ』に呼び止められてまさか・・・と危惧したら、案の定本当にそうだった。


 「『オイ』。俺が焼き鳥になっても、俺はお前の胸に居るぜ。」


 『マルハチ』・・・!!行かないでよぉ!!


 俺は、他のニワトリ仲間と共にトラックに乗せられた『マルハチ』に向かって叫んだ。


 「『オイ』!!俺の伝授したニワトリ風船サッカーを、新たにやってくる後輩にも伝授しろよーー!!バイバーイ!! 

 世話になったなーーー!!」


 俺は、止めどなく流れる惜別の涙を翼で拭うと、脚元に転がっていた少し縮んだ風船をすっかり逞しくなった胸でぽーーーーん!!と、視界から消えていく『マルハチ』を乗せたトラックへ向けて突いた。


 風船は風に煽られて、『マルハチ』が向かう方向へ飛ばされていった。


 『マルハチ』さーーーん!!俺も立派な焼き鳥を目指すよーーーー!!


 俺は、俺の『生』を生きたい。

 俺は自由に生きてていたい。


 それなのに、俺達の運命は変えられない。


 生まれつき、焼き鳥の素材となる『ニワトリ』として生きている事自体がその運命が決まっているのだ。


 『マルハチ』や他のニワトリ達もだ。


 でもこの生きているひとときを楽しく過ごせば、焼き鳥になる為に『トサツ場』で鶏生を終えたって満足な一生だったと充実してくるだろう。


 俺は焼き鳥になった『マルハチ』の遺志を引き継ぎ、新たに養鶏場に来たニワトリ達にニワトリサッカーを伝授した。


 「ニワトリは3歩歩けば忘れる。」


 皆が風船でニワトリサッカーをプレイした時、この諺が嘘偽りではないか?と俺は思うようになった。


 皆、楽しい笑顔。楽しいひととき。


 胸で風船を受け止めて、ぽ~ん!と突いてそしてシュートを決める興奮。


 俺はもう寂しくない。


 俺はもう孤独じゃない。


 だって、ニワトリサッカーを通じてこんなに仲間になったんだもん!!


 僕はもう孤独じゃない。


 僕はもう孤独じゃ・・・



 「みんな!!泣かないでよ・・・!!君達も頑張ってニワトリサッカーで逞しい身体になって、俺みたいな焼き鳥目指そうぜ・・・!!

 焼き鳥屋で逢えるさ・・・お互い『肉』だけどさ!!」


 俺も養鶏場に別れを告げて、遂に出荷されて焼き鳥になる事になった。


 ニワトリ仲間と別れるのは辛いが、俺が焼き鳥になって新たな出逢いがあった。


 『ねぎ間』だった。


 部位にバラバラになって串刺しになった俺を慰めたのは、緑色の『ねぎ間』。


 焼き鳥を更に美味しくするのは私よ!っだって。そして、焼き鳥のタレ達。香ばしい奴らだ。



 ジューーーー・・・



 『マルハチ』よ、ここにも風船があったぜ。焼き鳥屋の飾りの風船。

 どうやら、「ニワトリサッカーで鍛えた鶏肉」とか書いてあるらしいよ。


 『マルハチ』もこの時の為に鍛えたんだね。食べれよう。美味しく人間に。


 焼き鳥として。





 ~さよなら、焼き鳥になったあいつ。~


 ~fin~

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さよなら、焼き鳥になったあいつ。 アほリ @ahori1970

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