来世と前世

ただつらつらと、自分の思いを吐き出しながら、自分はもう終わりなんだと悟っていた。

 京子は私の妻だ。献身的に介護してくれる。時々体が痙攣する。惨めな自分だと感じる。

 愛とは不可思議だ。愛は妄念だとさえ思っていた。けれど、京子を見ればもしかしたら愛があるのではないかと思ってしまう。

 苦しい時、人は何かにすがる。医者でありながら、自分の体の異変に気が付けないことを悔やむ。要するにぼんくらだってこと。

 彼女は祈祷師のところにまで行って、私の病を治そうとした。京子もまた医者だ。医者が祈祷師のところに行くなんてどうかしてる。それで宣伝でもするつもりだろう、あの人は。

 今生きている、それだけでよかった。

 そう考えるまでに随分時間が経った気がする。聖書を読んで来世を信じた。自分は神の国に入りたいとさえ思った。

 キリストにすがるように、京子にすがった。彼女を置いていくなんて、苦しい。

 誰か私の心をくみ取れるだろうか。愛してる、そう叫んでも届かない。もう届かない。

 急いで結婚式を挙げて、結婚指輪を探して、もう終わり。

 京子がさめざめ泣いていた。

「どうして、どうして、ゆうすけ」

 私の名前を呼ぶ。ああ、もう終わりだ。


 気が付いたら、神の国にいたのか。大勢の人に囲まれていた。

 やっと気が付いたのか。私は神の国の住人だ。

 前世の話を聞きたいかい?

 いいや、どうでもいい。

 こうやって人は来世に行くたびに前世を忘れるのだ。

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