第2話綺麗だよ

「ねえ、どこに行くの?」

「ちょっと煙草吸ってくる」

「そ、わたし買い物行ってくる」

 私は女でありながら、綺麗じゃない自分をいつも責め立てていた。男と暮らしながら、そんな私を「綺麗だよ」と言ってくれる、彼を愛していた。

 私たちは薬の売買をして、生活をしていた。

 もちろん違法だけど、食べていくにはこれしかないの。

 

 寒いわ。十月。東京の雑踏を潜り抜けて、お惣菜とビールを買いに行ったの。歩いているうちに、どくろになってしまうんじゃないかな、なんて思いながら歩いてた。星が綺麗だった。昔、短歌にはまったの。歌人は自然を謳う。その様子が、彼の「綺麗だよ」と重なるの。

 彼の好きな唐揚げと、アサヒビールを買って、お会計を済ませて、くわえ煙草で歩いてた。本当に星が綺麗なの。見て、彗星。すーっと飛んでった。

 犯罪も慣れてくればなんてことない。地獄にだって慣れはあると思うの。そんなことを思いながら歩いてた。

 アパートの下まで来ると、どやどやと警官が入り込んで、彼に迫っていた。

 その時、私も行けば良かった。一緒に捕まって、刑務所で語り合えれば、幸せだった。

 彼は捕まったみたい。私の身元はばれていない。

 こんな犯罪歴を隠しながら、水商売に徹底した。彼が独房にいる時、お客さんの接待で笑顔を振り回している。こんな罪深いことをしながら、私は部屋の隅で毎晩泣きじゃくってる。

 きっと閻魔様がいたら、こんな私を地獄の底に叩き落すと思う。

 でもそれが償いだとしたら、私は受け入れます。

 なんだかんだ生きてきて実感した。本当に愛してたのは、やっぱり「綺麗だよ」って言ってくれた彼。

 ほんとよ。

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