焼き鳥を食べよう【KAC2022第6回】

はるにひかる

ドアを開けて


「じゃあ、焼き鳥の盛り合わせ、串から外しちゃいますねー!」

 一緒に職場の飲み会に参加している同僚の櫛田飛鳥くしだあすかが、未使用だった箸を使って、焼き鳥を串から外し出した。

 ……また始まった。

 大学のサークルのコンパなんかの時からそうだけど、飛鳥はこう云う時に甲斐甲斐しくサラダを人数分に盛り分けたりするタイプ。

 サラダは百歩譲って良いとして、焼き鳥はそもそも一口一口食べ進めた時に具合が良い様に味付けがされているのに……。

 全員が食べられる様にと云う配慮かも知れないけれど、それならそれで予めみんなの意見を聞いておいて、1人でも串に付けたまま食べたい派が居たら、外さないべきだと思う。皆が食べたいなら、1人1本になる様に頼めば良い。

「おう、鶴ちゃんも少しは櫛田ちゃんを見習ってだな——」

 ……なんて、上司とは言え時代錯誤のおっちゃん達に比較されて貶される身にもなって欲しい。

 まあ、今まで飛鳥には何も言って来なかったし、慣れっこになってしまっている私も悪いのだとは思うけど。


朱鷺子ときこ! あーん!」

「あー? んぐっ!」

 不意に呼ばれて振り返った私の口に、串に刺さったままの熱々の焼き鳥——砂肝砂ずり——が入れられた。

 モグモグモグ……。うん、コリコリホクホクしていて、味付けも丁度いい塩梅。

「朱鷺子はいつも、皆と別に頼んで、串に刺さったまま食べてるよね。ごめんね、今まで、全然気が付かなくて」

 いつの間にか飛鳥が隣に座っていて、砂肝砂ずりが1つ無くなった串を持ったまま、私が咀嚼するのを楽しそうに見ている。

 ……ゴクン。

「……ううん、気付かないのは仕方無いよ。飛鳥はこう云う飲み会の時、いつも男どもに囲まれているし」

「もー、そうなの。困っちゃう」

 それはまた、余裕の発言で。……これは、私の好みには気付いても、気持ちには気付いてくれそうに無いな。

「私が一緒に居たいのは、鶴丸つるまる朱鷺子ときこ、ただ1人なのに」

「……え?」

「言ったでしょ、『全然気が付かなくてごめん』って。高校の時から、私もずっと同じ気持ちだったよ」


 ……え?

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