okdek ok

中田もな

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 小瓶に入ったその手紙は、帝国海軍発祥の地として有名な、とある群青の海辺に落ちていた。その日はちょうど、学生団体のボランティア活動中で、俺は他大学の連中に混じって、ゴミを拾っては分別していた。


「……何だ、これ」

 かたい蓋をこじ開けて、そっと中身を取り出してみる。色の飛んだその紙は、遠く離れた友人宛の、少し不思議な文章だった。


“Saluton”

 ――ネットで調べてみると、それはエスペラント語だった。俺は帰りのバスの中で、彼の書いた一字一句を、翻訳アプリに打ち込んだ。



 こんにちは、マイケル。お元気ですか。僕は元気です。

 最近、お国の調子はどうですか。正直に言いますと、僕はとても怖いです。

 こういう形でしか、やり取りすることができなくて、僕はとても悲しいです。

 届くかどうかも分かりません。だから僕は、届きますようにと、祈るつもりです。


 英語は書けません。見つかったときのことを考えたら、恐ろしいです。

 マイケルは、Esperantoが分かると、言っていましたね。だから書きます。


 米国では、日本人はどのような扱いなのですか。

 人づてですが、日本人は収容所に連れられて、ひどい目に遭っていると聞きました。

 僕の友人が、そちらに取り残されたままなのです。

 僕はどうすることもできません。とても辛いです。


 悲しい話ばかりでは、気分も参ってしまうので、楽しいことを考えましょう。

 戦争が終わったら、マイケルは何をしたいですか。

 僕はまだ、何も考えていません。生き残れる気が、しないからです。

 ですが、もし生き残ることができたなら。

 そのときは、長生きのお祝いをされるまで、天寿を全うしたいです。


 日本では、”ok”は縁起の良い数字です。「末広がり」と言います。

 アメリカにも、そういう数字はあるでしょう。

 僕は、”ok”がふたつ重なる、“okdek ok”の歳まで生きてみたいです。

 日本では、そういう歳をお祝いします。僕の大叔父さんは、その歳まで生きました。

 叔母さんが、大きなひまわりの花を、大叔父さんにあげました。

 僕も、ああいう大きな花を、お祝いの日に貰ってみたいです。

 マイケルも、“okdek ok”まで生きられるといいですね。



 ……手紙は途中で破られたまま、中途半端に終わっていた。詳しいことは、何も分からなかった。


 俺は手紙を読み終えると、途中でバスを降りた。海辺の傍の、小さなバス停。俺は波打つ泡色に、大きく小瓶を投げ入れた。

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