コードネーム:ヤキトリ・サヴァイバー
大黒天半太
スズメの類いはやっぱり無理
まさか異世界転移して、一番最初に役に立ったスキルが、焼き鳥屋のバイトで延々とやった仕込み作業になるとは思わなかった。
獲物の『解体』スキルと『料理』スキルが同時発動したので両方の補正がかかっているせいか、当時よりも簡単に出来た気がする。
鳥を捌き、ムネ、モモ、ハツ、カワ、キモ、スナズリと部位別にした肉をほぼ均等なサイズに切っって、木の枝を縦に割って削った串に、刺して刺して刺して刺しまくる。
石を集めて作ったかまどの上に二本の棒を渡し、何本も串を乗せ、焼け具合を確かめながら、火が均等に入るように時々クルクルと回して行く。
味付けが塩しかないが、この世界の冒険者仲間には概ね好評だったし、召喚されたり異世界転移してきた地球人にも、特に日本人には懐かしいと大好評だった。
そうなると、欲が出て来る。冒険者稼業の稼ぎを注ぎ込んで、次なるステップを目指す。
ギルド近くに出した焼き鳥屋は、地元民を含めてリピーターも増えて、好調な滑り出しだった。
しかし、いいことは長く続かない。商業ギルドにコネさえ作れば、異世界人でも比較的簡単に開業できるし、冒険で獲った食材を使えば経費も削減できて、安定収入が得られることが広まってしまい、あちこちに焼き鳥屋が大発生した。
こうなると、中身で差別化を図らないと焼き鳥屋サバイバルレースに生き残れない。
野鳥の内、小型のものはスズメのように一羽丸ごと焼く。バイト先でも、スズメは調理したことがあったが、正直捌いた後の肉片とはニュアンスが違うから正直ビビる。ダンジョンやフィールドでクリーチャーと戦うのとは訳が違う。『解体』はスキルの補正で感情が抑制されるからいいが、『料理』はまた別だ。
珍しいネタのバリエーションには限界がある。作業する自分のメンタルにも。
やっぱり、秘伝のタレ(仮)が必要だ。
胡椒も砂糖も唐辛子も希少で高額過ぎる。甘味はハチミツやメイプルシロップや麦芽糖で代替えするとして、問題は醤油だ。
こちらに来た日本あるいは中華圏の人間がかなりの数いるのだから、誰か大豆を手に入れて醤油かそれに類する調味料を再現して作ってないだろうか。
再度焼き鳥屋で得た資金を注ぎ込み、東洋系の転移者とその子孫をローラー作戦で探し、幸運にも大豆の栽培者と醤油の醸造者を発見することに成功して、異世界初のタレ焼きの焼き鳥屋を展開することに成功した。
現在は焼き鳥屋チェーンの展開はもう終了し、商業ギルドに権利ごと売り払った。今は、異世界からの転移者の脱冒険者コンサルティングをやっている。商業ギルドへの登録の代行、串焼き器や竹の串、焼き鳥の秘伝のタレの卸しまででワンセットだ。
お手軽だから、大ブームになったが、正直なところ異世界人が開業する焼き鳥屋が多過ぎる。それにしても、この世界ってどれだけ転移者がいるのだろう。
コードネーム:ヤキトリ・サヴァイバー 大黒天半太 @count_otacken
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