第8話 『ベトナム人犯罪』という幻影

「在留ベトナム人=技能実習生」という状況が顕在化していることから、技能実習制度から派生する様々な問題は、そのまま〈在留ベトナム人問題〉として理解されていきます。


また、実際元ベトナム技能実習生等が関わる犯罪の報道が多くなっており、急激に日本におけるベトナム人のイメージが悪化につながっています。


「ベトナム人が増えたから犯罪が増えた」


こんな主張を聞いたことがあるかもしれません。

これは、脊髄反射・思考停止的姿勢として批判されるものでありますが、表面的・形式的には理解しやすいものとなっています。実際、コロナ禍前にはほとんどみなかったベトナム人批判は、今やSNSを中心にあふれ返っています。


しかしながら、筆者は、これらの多くは、技能実習制度の〈歪んだ〉構造によって追い込まれたベトナム人が犯罪に手を染めてしまったと考えます。


解説①でも述べたとおり、外国人技能実習制度には、国際貢献を建前にした〈人手不足〉解消という実態があり、技能実習生は〈出稼ぎ労働〉者として、〈仲介会社〉等への高額な手数料を借金で支払い来日しています。


この外国人技能実習制度の建前と実態の乖離、そして、〈仲介会社〉等の中間搾取が、技能実習生を日本人や他の在留外国人とは異なる不安定な立場に追い込んでいます。


もっとも、このような不安定な立場であったとしても、罪を犯したベトナム人は糾弾されるべきであり、その罪を日本で償うべきです。

しかしながら、「ベトナム人だから罪を犯した」という主張は、明かに間違っています。


この点について説明します。


既に述べた通り〈仲介会社〉等により中間搾取されたベトナム技能実習生が、多額の借金を負い〈貧困状態〉に陥って来日しています。それでも、技能実習が〈出稼ぎ労働〉として成立していた頃は、借金を返済しても技能実習生には十分な金額が手元に残っていました。


借金というリスクを負い、〈大金〉を手に入れる=〈ジャパニーズドリーム〉。


しかしながら、コロナ禍で実習先が倒産し、技能実習生が想定していた額を稼げなくなったとき、この〈ジャパニーズドリーム〉は雲散霧消しました。そして、彼らに巣食っていた〈貧困状態〉という負の連関が、〈ベトナム人犯罪〉として顕在化したのです。


〈出稼ぎ労働〉の不成立。


日本で稼げなくなり、借金だけが残る。

〈貧困状態〉で来日したベトナム技能実習生が、日本において〈貧困状態〉を悪化させていく。


その結果としての〈ベトナム人犯罪〉であれば、それは、「ベトナム人だから罪を犯した」のではなく「極度の〈貧困状態〉に陥ったから罪を犯した」ということになります。


つまり、〈ベトナム人犯罪〉ではなく、〈貧困者の犯罪〉です。


そして、当然ですが〈貧困者の犯罪〉の主体は、ベトナム人だけでなく日本人もなります。


そのため、日本人が、〈ベトナム人犯罪〉として取り上げる場合、自分達(日本人)と切り離して特定の国籍や民族に基づく犯罪という幻影を創出しているだけだということです。


マスコミ等で言われている〈ベトナム人犯罪〉を一度〈貧困者の犯罪〉として見直してみて下さい。


そうすれば、そこには「ベトナム人だから罪を犯した」という理解ではない「現実」の一端が見えてくると思います。

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