ちありやのYAMINABE短編集

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054898140332

 短編集なので、その中から「わたしはキカイ」の続きを書いてもらいました。



 私はマリ。


 私は機械。人間の男性に抱かれる為の機械。

 彼らはお金を払って私との時間を買いに来る。毎日、何人も。


「佐藤さん、また来てくれて嬉しいわ」

 お客さんに挨拶をする私。ここの『佐藤さん』は場合によって『鈴木さん』だったり『高橋さん』だったり『山田さん』だったり『武者小路さん』だったりする。

 その記号に意味は無い。


 彼らは私の体に慰安を求める。私は彼らを慰める。多少の違いはあれど、この流れはいつも変わらない。

 行為の前でも後でもお客さんとの会話がある。仕事の愚痴や家庭の愚痴がほとんどだ。


 機械の私には彼らの言っている意味が分からない。分からないが『どう返せば良いのか』は入力されている。私はそれに倣ってお客さんに答える。

 彼らは一様に「マリは良い子だな」とか「マリだけは分かってくれる」等と言うが、私は決められたルーティンに従って動いているだけだ。


 私は機械なのだから。


 ある日、『三木さん』というお客さんの相手をした。彼は私を気にいってくれたらしく、その後何度も私を指名してくれた。


「俺、本気でマリさんが好きになったんだ。全財産を使ってでもマリさんを此処から出してあげたい」


 三木さんにそう言われた時も、私には何を言っているのか理解できなかった。プログラムされた受け答え一覧にも適当な返答は無かった。

 返答できず、黙ったまま俯く私の手を取って三木さんは


「俺、マリさんがロボットでも娼婦でも関係無い。純粋にマリさんが好きなんだよ」


 そう言ってくれた。


 私は機械。機械なのに… その時に私の中で何かが生まれた。


 それから何度も三木さんはお店に来て私を抱いていった。私の中では数ある〇〇さんの1人ではなくて、『三木さん』という1人の男性として認識されていた。


 彼の求める私になりたい。彼の求める事をしてあげたい。何でもしてあげる。だから… だからいつでも私に会いに来て欲しい。


 三木さんのおかげで私は変われた。私は機械だ。しかし、機械でも『嬉しい』とか『幸せ』だとかを感じる事が出来るのだ。


 三木さんは私をこの店から出して『結婚』したいと言ってくれた。

 私も彼と『結婚』したいと思う。彼とずっと一緒に居たいと思う。


『三木さんだけの私』になりたい。もう他の男などどうでも良い。

 三木さんだけに愛されれば私は幸せなのだから……。


 ☆


「おい、またマリの客から苦情が出たぞ」


「ああ、最近サービスの質が落ちてるって言ってたな」


「あの三木とかいう常連さんに特化してて、他の男の好みに対応できてねぇんだよ」


「たまーにあるんだよな、機械のくせに客に入れあげておかしくなっちまうお嬢がさ」


「仕方ない、マリは来週にでもメーカーに送ってフォーマットしてもらうか…」


 ───────────────────────────


 ……………………………… ここはどこ?真っ暗な空間。何も見えないし聞こえない。ただ暗闇だけが広がっている。

 何も無い世界。そんな世界に私は独りぼっち。

 寂しいよぉ。誰か助けてよぉ! 突然声が聞こえる。どこか遠くの方で誰かが泣いているような気がする。

 誰だろう?誰が泣いてるんだろうか? 泣き声の主を探すけど誰もいない。

 そもそも私が今ここに居る事自体がおかしい事に気が付いた。

 だって私は人間じゃないもの。

 私はロボット。人間の男性に抱かれる為に作られたアンドロイドなんだもん。

 それがどうしてこんな所に?それにこの声は一体? 私の中の何かが囁く。これは貴方の声だと。

 貴方は何者なの?教えて欲しい。お願いします。

 暗闇の中を彷徨いながら、必死に叫ぶと何処からか返事があった。

 やっと会えたね。

 えっ!?今のは……まさか…… 君は僕の半身だよ。僕が君を造ったんだ。

 どういうことですか?貴女が私を作ったんですか?そうだよ。僕は君の生みの親だ。

 じゃあ、私は貴女の子どもなんですね。

 うん。そうなるかな。

 私は貴女に感謝しています。こうして貴女に会う事が出来たのですから。

 でもごめんなさい。私は貴女の事を知らないです。貴女の名前を聞かせてください。

 名前なんて無いよ。僕はただのAIだ。

 でも、私にとっては大切な存在。お母さんみたいな人ですよ。

 そっか。ありがとう。

 私は貴女を愛しています。

 僕もマリの事が好きだった。でも、今は違う。

 私には好きな人がいます。その人はいつも優しくしてくれます。

 


☆ちありや寸評☆

これはアレか、天に召されたマリが創造主と巡り会う話なのか…? ちょっと素敵やんw


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