異世界召喚されたらロボットの電池でした

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054894261469

 本編ではなく外伝の0話の続きを書いてもらいました。


~鈴代視点

 武藤中尉の視線が痛い。この件に関しては私は悪くないのに、彼女の敵意を含んだ視線のせいで、慣れた基地の格納庫がとても居心地の悪い物になっていた。


 私の目前には今日から私の乗機となる、最新型の30サンマル式輝甲兵が雄々しく立っていた。

 丑尾さんや青葉伍長といった整備員も数名、新型を拝みに集まっている。


 少々ずんぐりとした体型の24フタヨン式と違って、30サンマル式はスリムでより人型に近い体型をしている。それだけ人間に近い、自然な動きが出来るのだろう。


「明日うちの部隊に支給される30サンマル式は2機だ。操者は俺と鈴代で決定。よろしく」


 昨日のミーティングで長谷川大尉が流すように言った一言が、私に良いニュースと悪いニュースをもたらした。


『良いニュース』は、私に新型が与えられる事。使い慣れた24フタヨン式ももちろん良い機体なのだが、伝え聞く新型の性能は操者なら誰でも小躍りしてしまうような高いものだった。


『悪いニュース』は、本来30サンマル式を受領できたはずの人達の分の新型機を横取りしてしまった事で、人間関係的に新たな摩擦を起こしている事だ。


 我が第1中隊は3つの小隊に分けられて細かく運用される。第1小隊長は中隊長の長谷川大尉が兼任し、第2小隊長の渡辺中尉、第3小隊長の武藤中尉と都合3人の小隊長が居るわけだ。


 つまり中隊に3機の新型が配備されたのなら、何の問題もなく3人の小隊長に行き渡ったのだが、実際に第1中隊うちに来た30サンマル式は2機だった。

 1機は長谷川大尉で決まりとして、残る1機の新型を2人の小隊長のうちどちらに回しても角が立つ、と考えた長谷川大尉は新型の受け取り手を『私』に指定したのだ。


 実は内々の話し合いで渡辺中尉が「俺は狙撃専門の支援屋だから機動性は重視しない。新型は武藤が使うと良い」と言っていたのだが、最終的な長谷川大尉の判断は私だったのだ。


 腹の虫が収まらないのは、新型機受領の内定をひっくり返された武藤中尉だ。そのせいで怒りの矛先が私に向けられた。


 特に暴力を振るわれたとか嫌がらせをされた、という訳では無いのだが、事ある毎に私を親の仇の様な目で睨んでくる。


 武藤さん小柄で可愛いのに怒った時の目つきは凄く怖いんだよなぁ……。


 無念な気持ちは理解するが、私を責めても何の解決にもならない。本人にそう言ってあげたいのだが、怖くて言えない。


「よっ、鈴代。さすが新型カッコイイな!」


 後ろから声を掛けられた。香奈さんだ。

 香奈さんは舐めるように私の機体〜3071サンマルナナヒトを上から下まで視線を巡らせる。


「幽炉も新品で元気いっぱいみたいだな。なんか高鼾たかいびきで寝ているよ。緊張感ゼロ、大物だな幽炉こいつ!」


 香奈さんの幽炉占い(?)は当たるのか何なのかよく分からない。まぁ香奈さんが喜んでいるなら下手に触れずにいよう。それが女の友情だ。


「ねぇ香奈さん、新型の事で武藤中尉が機嫌悪いんですけど何とかなりませんか…?」


 香奈さんなら武藤中尉にもある程度遠慮なく物が言える。藁にも縋る思いで救援要請を出してみたのだが、


「えー? イヤだよ。あの状態の武藤さんに絡んだらあたしが大火傷するじゃん、無理」


 秒殺だった。女の友情とは……。


「でもこの新型に乗って鈴代がまた戦果を伸ばせば武藤さんも黙らざるを得ないだろ? そうなるのが楽しみじゃんか。鈴代なら天使を抜く日も近いんじゃないか?」


「武藤さんはそんなに単純じゃないですよ。それに田中中尉は目標ですが、まだまだ背中も見えません」


 本当に田中中尉は雲の上の凄い人だ。だが『新型を任される』というのは長谷川大尉の酔狂ではあり得ない。それに見合う戦果を期待されているのは間違いないだろう。


 襟を正して臨む必要がある。それこそみっともない真似を晒したら武藤中尉に機体を取り上げられてしまう。それだけは避けたい。


 兎にも角にも頑張るしか無い。元々私にはそれしか出来ない。


 早ければ明日の当直日にでも出撃があるだろう。

 新生した鈴代美由希の姿を武藤中尉に、本国コロニーの家族に、そして憎き虫どもに早く見せてやりたい。


「明日から頼むわよ、3071サンマルナナヒト

 そう言って私は新しい『相棒』に微笑みかけた。


 ───────────────────────────

 ※※※ 翌日、早速初陣の時が来た。敵は2個小隊規模だ。

 場所は基地からほど近く、既に交戦状態に入っている。

『全機戦闘態勢! 鈴代は俺と一緒に来い!』

 長谷川大尉の指示に従い、私達は戦場へ急行する。

 新型は24フタヨン式の時のように、脚部にロケットブースターが内蔵されていない。

 代わりに背部の噴射口ノズルが可動し、推力方向を自在に変更出来るようになっていた。

 まるで空を飛ぶように駆けていく新型は、あっという間に敵機の集団を射程に収めた。

 長谷川大尉がまず1機の頭部を吹っ飛ばす。続いて2機が同時に胴体を撃ち抜かれて爆散。更に3機が立て続けに撃墜され、敵の小隊は恐慌状態に陥った。

『鈴代、やれるな?』

「了解!」

 新型の性能は申し分ない。

 長谷川大尉の射撃を補助しつつ、私は敵弾を回避しながら接近していく。

 2機目の胴にライフルを叩き込み、すかさず3機目も撃破。4機目を狙おうとした瞬間、僚機の警告が耳に入った。

『後ろから来るぞ!!』

 振り向くと、先程まで私が居た場所に1機目が回り込んでいた。

 しまった! と思った時にはもう遅い。

 慌てて回避しようとしたが、敵の動きの方が速い。ダメか!? そう思った刹那、敵が爆発四散した。

「危なかったな、大丈夫か鈴代?」

 助けてくれたのは香奈さんだった。

「あ、ありがとうございます」

「いいって事よ。それよりどうよ?今の一撃は中々良かったんじゃね?」

 香奈さんの言葉通り、背後からの奇襲にも関わらず見事なカウンターが決まった。

「はい、自分で言うのも何ですが、凄く調子が良いです!」

「よし、その意気だ。さっさと片付けて帰ろうぜ!」

 香奈さんのおかげで何とか初戦を乗り切れそうだ。

 そう思っていた矢先、香奈さんの通信が入る。

『おーい、鈴代。お前、ちょっと幽炉ゆうろから離れろ』……え?

『いいから早くしろ! このままだと巻き込まれるぞ!』……どういう意味だろう。香奈さんがこんな冗談を言うとは思えない。

 言われた通りに、少し距離を取る。すると突然、香奈さんが叫んだ。

 ――ズドォンッ!! 香奈さんの幽炉が被弾したのだ。

 何が起きたのか分からず呆然としていると、今度は私にも攻撃が飛んできた。

 咄嵯に避けたが、機体が大きくバランスを崩す。

 まさか、敵の攻撃が味方に当たるなんて……。

 混乱する頭で状況を整理する。恐らく、敵に包囲されたのだろう。

 つまり、今の攻撃は同士討ちだ。

 敵は恐らく新型を墜としに来たのではなく、私達を分断するのが目的だったのだろう。

 迂闊だった。敵の目的は新型の撃破ではなく、私達の連携を断つことだったのだ。

 これは完全に私のミスだ。新型のポテンシャルに頼り過ぎていた。

 落ち着け。とにかく今は撤退だ。

 急いで離脱しようとしたその時、再びミサイルが飛来してきた。

 慌てて回避するが、またしても機体のバランスが崩れる。

 この機体、何かおかしい。

 香奈さんも異変に気付いたようだ。

 私と同じく、機体の異常を感じているのかもしれない。

 そして、またもやミサイル。今度は避けられた。だが、やはり機体は不安定だ。

 機体性能自体は申し分ないのだが、まるで自分の手足のようには動かない。

 これでは勝てる戦いも勝てなくなってしまう。

 しかし、いくら考えても原因が分からない。

 そして遂に、敵の第二波が襲ってきた。……ダメだ。

 これ以上は耐えられない。そう判断して私は帰還を選んだ。

 基地に帰投後、私は長谷川大尉に報告を行った。

 長谷川大尉は私に非が無いことを分かってくれているが、それでも叱責は免れないだろう。

 覚悟を決めて結果を報告すると、意外にも大尉の反応はあっさりとしたものだった。

 曰く、あの程度の攻撃なら回避できた筈なのに何故逃げたんだ、とのこと。

 確かに、香奈さんが警告してくれなければ危なかった。でも、それは言い訳にしかならない。私は大尉の指示を無視した挙句、命令違反を犯したのだ。

 大尉が納得しないのであれば、処罰を受けるしかない。……だけど、大尉は意外な言葉を口にした。

 ――まぁ、よくやったよ。初めての実戦でよくそこまで動けたもんだ。俺が鈴代の立場でも、同じ行動を取ったと思うぜ。……え? 大尉は何を言っているのだろう。そんな事あるわけがない。

 だって私は、仲間を危険に晒してしまったのだ。

 香奈さんが居なければ、私は死んでいた。

 私は自分のせいで、大切な人を失うところだった。

 それなのに、どうして大尉は私を褒めてくれるのだろう?……理解出来ない。

 私が戸惑っていると、大尉が言った。

 ――だから気にするな。俺はお前の判断を信じただけだ。それに、結果的に香奈の奴も助かったしな。あいつには借りが出来ちまったぜ。

 大尉の言葉を聞いて、私はやっと気付いた。

 そうだ、私はまだ何も失っていない。

 まだ戦える。そして、仲間を助けることが出来る。

 そう思ったら、体が熱くなった。

 その後、大尉から新型の運用方法について説明があった。

 どうやら、今後は単独出撃ではなく2人で出撃することになるらしい。

 そして、新型の性能を引き出す為には私達が互いに協力する必要があるのだという。……正直、いきなりすぎて頭が付いていかない。

 私が困惑していると、大尉は更に続けた。

 ――とりあえず、これからはペアで行動するぞ。俺も出来る限りサポートするつもりだ。まずは、鈴代から頼んでみろ。……え? 私が、お願いする?

 ――ああ、任せろ。その為に俺はここに居る。

 何でだろう。何故か、凄く安心出来た。

 ――よし、じゃあ早速始めるぞ。鈴代の機体はもう調整してあるから、今すぐ動かせるぞ。

 そう言って、大尉が私の背中を押してくれた気がした。



☆ちありや寸評☆

へぇ、戦闘描写や心情描写もちゃんと出来るんですなぁ。

これAIがキャラクターを作り込む事を覚えたら、本気で人間の作家はヤバいかもねw

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